コチラガワ

 どうも、好きな人の頭がおかしくなってしまったようです。

 彼に恋する乙女として、私がやるべき事は?




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 さてさて、これはとてもよくある話。

 私には好きな人がいるんだけど、その人にはもう既に彼女がいました。私は彼の事を想ってモヤモヤする日々。だけどそんなある日、彼は彼女と別れました!こうしてめでたく、私にもチャンスが回ってきたのです!

 ここまでならば、本当によくある話。ただちょっと異常だったのは、その彼にホテルに呼び出されたこと。しかも別れたその日に。

 これはひょっとして、好きになる相手を間違えたかと思ったけれど、ほいほいついて行くチョロい私。悲しきかな、これも恋する乙女の運命なの。さてさて、ここでもう1つ異常なのが、この時点で私には付き合っている人が居るということ。そして、その人の事を全く愛していないこと。

 私は彼一筋なの。私を好きになるような人に、興味無いし。




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 カフェテリアで彼と別れた私は御手洗へ。別に飲んでたコーヒーのカフェインは全く関係ないんだけれど。ただ少し、鏡を見ようと思った。

 鏡に映った自分の顔は、なんというか、まあ、ひどい顔。疲れたような、そうでも無いような。

 周りからは美人と言われて、そこそこ男ウケが良い顔をしていると思うのだけれど、彼にはゴリラと言われてしまう。ゴリラの要素は見当たらないんだけどな。ひょっとしたらそれで怒って思わず手が出るからかもしれない。

 とりあえず携帯を取り出して彼氏くんにメール。わ・か・れ・ま・しょ……っと。そして即座にブロック。

 何十回もフッてると、段々フリ方が雑になってくる。

 まあ仕方ない。付き合う条件として最初に提示してたんだし、きっと許してくれるでしょ。

 やっぱり、私の事を好きになるようなつまらない男は好きになれない。

 その点、彼は有能極まりない。どんなに私が迫っても、決して私になびかないから。ホテルに二人きりなんてシチュエーションでも変な気を起こされなかったのは不本意だけれど。そういうプレイだと考えればそそるかも。

 そうやって、彼が私を振り向かないからこそ追いかけていられる恋。安心してもたれていられる恋。

 何十人と付き合っても、彼のために貞操は取ってあると言うのに。ビッチ扱いされるなんて許せないけど。だからこそ彼が私を見ることも無い。

 私は彼を振り向かせたいけれど、彼が私を視界の中心に据えた途端、私の恋は終わってしまう。

 ああ、でも、恋するってなんだか幸せ!




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 これでも彼とは高校からの馴染みだったりする。

 私は当時から彼の事が好きだったけど、彼は知る由もないだろう。いや、ひょっとしたら知ってるのに知らないフリをしているだけかもしれない。だとしたらちょっとショックだ。

 ショックといえば、大学に入って彼があの子と付き合い始めたこともショックだったんだけど。あー、なんであんなのを好きになっちゃったんだろう。高校からの付き合いってのもあって、相談に乗ったりしてたのもホントに馬鹿らしいと思った。

 でも、あの子に夢中になっている間は彼は決して私の方を見ないから、それはそれで良かったのかも、なんて考えていた自分はもっと馬鹿かもしれない。

 自己嫌悪にも疲れたからちょっと休憩。丁度喉も渇いたし、自販機でジュースでも買おうかな。コーヒーで喉は潤わないのだ。

 少し歩くと目的のブツが見えてくる。

 大学って色々あって便利だねー、と思いつつ3台並んだ機械のラインナップをそれぞれ確認。

 飲んだこと無いものをあれこれ試してみるような好奇心は私には無いので、いつも飲んでいるレモン系の炭酸飲料を買うことにする。

 あっさりスッキリが好きなのだ。

 出てきたペットボトルの蓋を開けるとプシュッと炭酸の音〜。振ったりはしていないので泡はほとんど立たない。

 何となく飲み口を見つめていたら、後ろから低い声。

「志乃」

 ……誰だろう。振り返ると見覚えの無い男性が立っていた。なんで初対面の人に名前を呼び捨てされなければならないんだろう。そもそも、何故私の名前を知っている。

「久しぶりだな……3ヶ月ぶりくらい?お前ほとんど大学来ないからさ、もう一生会えないかと思ったよ。それに、最後のメールもあっさりだったし……」

 あー、なるほど、これはあれだ。多分元彼。関心無いから顔とか全く覚えて無いけど。大体、付き合うって言っても具体的に何かした訳でも無いし。そもそも付き合うなんて口約束、私にとっては言い訳くらいの価値しか無い訳で。「ちゃんと付き合ってから合わないなって判断しましたよー」って、ただそれだけなのに。

 目の前の男が言葉を重ねる。この男の声が耳に入る度、私の心は冷めていく。あーあ、彼と一緒にいれたから、今日は少し、ほんの少しだけ気分だ良かったんだけどなぁ。

「だからさ、俺たち……」

 台無し。

 無意識の内に腕が動く。次の瞬間、男はレモンの香りを漂わせながら、何が起こったのか分からないという顔になる。

 そして私は、ひと口も飲んでいないペットボトルを持って、走ってその場を離れた。

 中身はもう無いから、いくら振っても大丈夫だ。



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 奈央。あの子は可愛い。私とは顔も性格も正反対で、まあ男女問わず人気があるタイプ。女の子なら彼女の様になりたいと思う子は多いかもしれない。でも私はそうは思えない。だって、彼の愛情を受けているから。

 私は彼に振り向いて欲しいけれど、欲しいということと手に入れて嬉しいということは別なのだ。実際に手に入れてしまうと、それは無価値になってしまう。

 だから、だからね、そんなに請われても困るの、奈央。

「お願い、志乃ちゃん。お願い……」

 さーて、どうしようか。

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