迷宮のルーチェ

忘却の彼方に

冬が終わる前に貴女に会いたいわ。

でも貴女はきっとあたしの事なんか忘れてるわ。

昔は馬鹿みたいに笑ったのに。

今ではそれも過去なのよ。

あたしは彼氏と日光東照宮に来ていた。

「徳川家康は東照大権現になってここに祀られたんだな…」

彼の言葉にあたしは頷く。

歴史の話はよく分からないけれど…豊臣秀吉から徳川家康の時代になって日本は鎖国した。いわゆる幕藩体制というやつだ。

「ミー君、あたしは神様なんかになりたくないよ…」

あたしの言葉に彼が笑う。

「由紀乃は神様より総理大臣のほうが向いてるかもな」

神様も総理大臣も荷が重い役目だ。

あたしたちは遊園地の観覧車に乗った。

「個人としては幾多の失敗を重ねたが、しかし恐縮はせぬ。失敗はわが師なり。失敗は我が大なる進歩の一部なり。偉人であり、総理大臣であった大隈重信の名言だ」

彼はしたり顔で私に言う。

「ミー君は名言大好きだもんね」

あたしは彼に笑い掛ける。

もうすぐ冬が終わる。

春になる前にあたしは彼ともう一度東京に来るんだ。

終