いいんじゃないの
あ
どちら様でしょうか
テンテンテロロンテンテンテン。
枕元のスマートフォンから放たれた甲高い電子音が僕の鼓膜を突き刺す。とどまることを知らない轟音に顔を顰めながら、この音を止めるべく、少し体を起こしてスマートフォンを操作する。実のところ、この攻勢はこれが初めてではない。それは毎朝十時から始まる。そこから十一時、十二時、十二時半、一時、一時半と熾烈な波状攻撃を仕掛けてくるのだ。全ては僕がアラームをセットしているから起こることなのだが。
なぜ、僕は幾重もの起床防衛線を敷いているかというと、些細な抵抗のためである。最初から午後一時まで惰眠を貪るのは解りきっている事なのに、もしかしたら早くに起きて、休日を有効活用できるかもしれないという希望を抱いているのである。`抵抗はした`という事実は重要だ。スマートフォンが示す時刻は午前十一時二分。
つまり、また寝る。
「まだいいか」
ああ、またしても悪の連鎖を断ち切ることはできなかった。ほんの僅かな後悔を胸に、再びベッドに横になり、毛布を掛け直して目を閉じる。
時間の無駄遣い万歳!寝たい時に寝て、起きられる時に起きる。自らが自らの意思に正直に、したいようにするのが一番じゃあないですか!全ては恣欲の赴くままに!
「いいんじゃないの」
冴えない男しかいないはずの六畳間に、女性的で柔らかい声が響き渡る。
「……は?」
思わず情けない声が漏れる。しばらくおしゃべりとは無縁の生活を送っていた所為だろうか、少し声はしゃがれていた。
恐る恐る目を開けると、ベッドの側に、純白のワンピースを着た女が僕を見下ろしている。
「は?」
数秒前と同じ言葉。最大限に見栄を張って行った、脳内大演説を見透かしたような一言を聞いた僕の、当然の反応だった。
「だれ?」
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