戦国異聞鳶のボツエピソード
浅黄
関ヶ原ニテ
西暦1600年関ヶ原──
「豊久、逝くのか」
傷だらけの一人の武士に、同じく傷だらけの少女が問い掛ける。
両者、共にその顔に悲愴感は無い。まるで「明日は天気ですね」とでも言うような掛け合いだった。
「応、主にゃ世話になったわ」
「そうか。達者でな」
「応、そっちもな」
そう言ってからりと笑うと武士、島津豊久は刀を握り、部下を従え敵へと向かう。
それを少女は一瞥するもなく、背を向け駆け出した。己が望みを叶えるために。
立ち塞がる敵を斬っては捨て、斬っては捨て、少女は駆ける、駆ける。
そうして茂みに隠れるように身を潜ませる男の元へと辿り着く。
「ここにいたか、治部」
「主、生きておったか……!とうに死んでいるかと思ったわ」
「生憎、多少経文やら何やらが書かれた刀で斬られても、すぐには死なない程度には頑丈なんでね」
「鬼子と言えど貴様は難儀だな」
「ま、それなりは便利な身体さ。それより治部、時間は稼いでやるから早く逃げろ」
少女は握り締めた脇差しを軽く払い、着いた血を飛ばす。そして、不敵に笑った。
「何、その分の代金は刑部から貰ってる。気にするな!」
「しかし、貴様、その腹は……!」
治部、石田三成はぐっしょりと赤く染まった少女の腹部に顔を歪める。だが、少女は笑ったままだった。
「人間五十年とか上総介様も言ってたからな!気にするな!」
じゃあな、と呟くと少女は走り出す。
たった一人を目指して。
自軍は瓦解し、敵のやりたい放題のところを目立つように、わざとらしく少女は駆ける。
「『金目』だ!!首を獲れ!!賞金が出るぞ!!」
「無理だ!『金目』だぞ!?」
混乱する雑兵を嘲笑うかのように、少女は駆け抜け、そして切り結ぶ。
そして、走り抜けたその先にて、一人の大男が一際大振りな槍を手に佇んでいた。
少女は唇を一舐めすると、高く飛び上がり斬りかかる。
「さぁ、決着をつけようか!!本多平八郎忠勝!!」
「……」
忠勝は一つ息を吐くと、目にも止まらぬ速さで槍を奮った。その槍は無情にも少女を切り裂く。
……かの様に見えたが、少女はニンマリと笑うとその穂先を脇差しで往なし、そのまま忠勝へと迫る。
だが相手もそれは読んでいたのだろう。少女の胴を柄で薙いだ。小柄な少女の身体は中に投げられたが、そのままくるりと回り、着地する。
「……戦国最強の名は飾りじゃないか」
口元に着いた血を拭い、少女は笑う。心の底から楽しいとでも言うように。
その姿に、忠勝は眉をひそめる。
「……貴様こそ、その傷はなんだ。『鳶加藤』」
「『鳶』で構わないって言ってるじゃないか。本多平八郎忠勝。いや、同胞?」
「同胞になったことなど一度も無いわ」
「まぁ、そう怒るなって!挨拶じゃないか!」
少女、鳶加藤はからからと笑い声をあげる。そして、対峙する忠勝へと刃を向けた。
その時、鳶加藤は刹那の夢を見た。遠い昔の、泡沫の日々を。
戦国異聞鳶のボツエピソード 浅黄 @asagi-1582
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