第50話幸せの重み
「尋、かたいのじゃ……」
「仕方ないだろ」
「それに、大きい……」
「……いかがわしい言い方やめない?」
風呂上がりに寝室に戻ると、いなりが背中を流したお礼にと俺の肩を揉んでくれた。
だが、いなりは意識してかしてないか、多分後者だとは思うけれども、なんともまあ想像が膨らむような言い方で俺の肩を揉んでいる。
「だって尋のかたくて大きいんじゃもん! 事実じゃもん!」
「事実だけどな、肩がかたくて、肩が大きいと言ってくれ。誤解を生む」
「どういう誤解を生むんじゃ!」
俺の抗議を逆ギレで返すいなり。
ち○ちんの事だよ! とは言えない。
流石のいなりもそれくらいはわかるはずだ。
答えられずに口をつぐむ俺を見て、勝ち誇ったようにいなりが鼻を鳴らした。
「ほらー、言えないのじゃ。なら、妾の言い方は直さないからのう」
「ぐぬぬ。そっちがその気なら、俺にも考えがあるぞ」
「ふふーん、何をする気かはわからぬが、何をされても平気じゃよ?」
俺は、反省しないいなりを尻目にある袋を取り出す。
何を隠そう、フクリで購入した服が詰まった袋だ。
いなりを褒める為と、お詫びのつもりでたくさん買ったし、たまちゃんに選んでもらった物だ。まず、間違いなくいなりが気にいるだろう。
実際、いなりはフクリとかかれた袋を見て、ワナワナと震えた。
「それは、フクリの袋! しかもパンパンじゃ! ま、まさか、買ってきたのかのう?」
「ふふふ、そのまさかだ。いなりが頑張ったと聞いたから、買ってきた。しかも、たまちゃんに選んでもらったからいなりに似合う素敵な服がいっぱいだぞ」
「妾に似合う服? それはくれるのかのう?」
「どうしようかな? さっきの態度がなあ」
「むう、意地悪。謝るのじゃ、なんでもするから許して欲しいのじゃ」
俺が袋を渡すそぶりを見せないと、いなりが半泣きで俺のパジャマの袖を掴んでぐいぐいと引っ張る。
パジャマといい、普段着といい、下着といい今のいなりはフクリで全身をコーディネートしている。
完全にお気に入りなのだろう。
そんなお気に入りを目の前にたらされて、生殺しの状態。人参の前の馬のようなものなのだろう。
「なんでもするって言ったな?」
「で、出来る事だけじゃからな?」
「そんな変な事しない。俺がして欲しいのはいなりが俺の事をたくさん愛して欲しいという願いだけだ」
我ながら気持ちの悪い台詞を吐けたものだと思う。
まあ、特にして欲しい事はないし、強いて言うならたまちゃんから聞いたいなりがどうしても結びたい縁の誰かより強く縁を結んで欲しいと思ったからだ。
嫉妬はしないようにするとすれば、いなりの一番の愛が欲しいからな。
俺の意図を知る由もないいなりは、一瞬呆れたような顔をしたが、すぐににんまりと笑って俺に飛びついた。
そのまま俺を押し倒して、耳元で囁く。
「欲張りめ」
そのままぎゅっと抱き締められて、幸せの重みを体全体、主に胸元に感じる。
俺はニヤニヤと幸せを噛み締めた。
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