第47話いなりに弄ばれる
「おっふろ、おっふろ、一緒にお風呂なのじゃ〜」
いなりは、脱衣所で自作の歌をご機嫌に歌う。
それとは対照的に俺の心臓はあっぷあっぷしていた。
バクバクと鳴り止まない心臓は俺の胸骨を破り、皮膚を破り、今来ているお気に入りのロンTすら破り飛び出していきそうだ。
落ち着く為に息を深く吸い込み、同じだけ吐く。
「さあ、入るのじゃ」
「ふおおおお!?」
勢いよく、いなりは今着ていた黒いTシャツを捲り上げ、揺れる程大きな胸と、黒いブラジャーを露わにする。
俺は変な声で叫び、両手で顔を隠した。
これ、立場が逆じゃなかろうか。
指の隙間からチラリと見える黒いレースに目が離せない。
いなりの白い肌に、黒が映えているのがなんとも艶めかしい。
いなりは俺の視線に気付いたのかくるりと背を向けると、ニヤリと笑って振り向いた。
「ブラジャーを外してくれるかのう?」
いなりのその、たった一言の破壊力たるや。
日曜日まではさらしを巻いていた奴とは思えない台詞だ。
いなりは右手でその金色の髪を避ける。
髪に隠れていた背中は、ブラジャーの紐が占めついて少し赤みがかっている。そして、その中央には三連並んだホック。
外せば露わになる真っ白な肌を想像して、鼻の奥が熱くなった。
震える手を伸ばして、ピタリと手を止める。
「いやいやいや、考えたら一緒にお風呂は了承したけど、ここまでは了承してない」
「チッ。ヘタレめ。惜しいところじゃった」
冷静になって手を止め、最後の最後にヘタれる俺にいなりが悪態をついた。
策士だな、いなり。危うく体育座りするところだった。
いなりはブー垂れながらブラジャーを外すと、バスタオルを巻いて、下も脱ぎ始めた。
チノパンが床に落ちて、その上に黒い布も落ちた。
……男らしすぎて視線を逸らす暇すらなかったけど絶対ショーツだろう。
何も気にする様子のないいなりと、顔を真っ赤にする俺。
本当に、立場逆じゃないのかと思う。
いなりは自分が脱いだ服を全て洗濯カゴに突っ込むと、風呂場の扉を開いた。
ようやく入ってくれるか。
俺は安堵するとともに、心臓が落ち着いたら俺も続いて入ろうと思った。
そう思った矢先だ。俺の顔に衝撃が走り、目の前が一瞬暗くなった。
慌てて顔に手をやり、思わず何かを掴んだ。
ほんのり温かなそれは、黒くて大きくてレースが特徴的だ。
……俺の手には、ついさっきまでいなりがしていたブラジャーがあった。
「えええええええ!?」
慌ててブラジャーから手を離す俺に、いなりは悪戯っ子のような笑顔を浮かべて、ブラジャーを拾った。
「妾の温もりを感じたかのう?」
たった一言言って、ブラジャーも洗濯カゴに突っ込んだいなりは風呂場へと入っていった。
俺はただただ弄ばれて、熱が冷めるのに二分ほど消耗するのであった。
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