第46話どうしても一緒にお風呂に入りたいのです。
晩御飯を食べ終え、洗った皿を流水ですすぐ。
手元は増えているが、心臓がうるさいくらいに鳴り始め、手以外の全ての身体の部位が熱い。
平静を装っているものの、いつもより皿と皿とをぶつけてしまい動揺がバレてしまいそうだ。
いなりは椅子に腰掛けて、スマホをぽちぽち。俺が教えてあげたゲームにハマったようで、楽しそうに遊んでいる。
「お湯はりが終了しました」
陽気なアラートが鳴り響き、お風呂が沸いた事が告げられる。
その瞬間いなりの耳がピンと張って、チラッといなりは俺の方を見た。
「沸いたみたいじゃなあ」
「そ、そうだな」
「あとどれくらいで洗えるんじゃ?」
「えーと、五分くらいかな?」
「……じゃあ、待つのじゃ」
いなりは俺の返事を聞くやいなやスマホに視線を落とした。
どうやらいなりは入るところから一緒に入ろうとしているようだ。
脱衣すら一緒にするのだろうか。それだと本当に恥ずかしいし、体育座りして動けなくなりそうなんだが。
本当は恥ずかしいから入る時間を大幅にずらしていなりをのぼせさせようと思っていたんだけどなあ。促してみようかな。
「先に入らないのか?」
「嫌じゃ。先に入ったら尋は恥ずかしいだのなんだの言って妾がのぼせるの待つじゃろ」
思惑がバレてる。
いなりはジロッと俺を見ながら、俺の思った事を全て代わりに言ってのける。
俺はそんな事ないと否定しつつも、それ以上促す事はやめた。
これは腹をくくらざるを得ない。
「まあ、もうちょいで終わるから。もう少しだけ待っていてくれ」
「うむ、全然待つのじゃ。尋の帰りを待つ心細さと比べれば、この程度の待ち時間なぞ平気じゃ。なんなら、楽しみな分全然待てるのじゃ」
嫌味をいなりから言われてしまい、心にぐさりと刺さる。
いなりから嫌味を言ってくるなんて今回が初めてだ。そう言いたくなるくらい心細かったのだろう。反省。
「あ、尋。背中洗うの忘れるでないぞ?」
「ああ。いなりの大事な身体だからな。丁寧丁寧丁寧に洗うと決めてる」
「どんだけ丁寧に洗う気じゃ」
「背中の皮がむけるくらいかな?」
「洗いすぎじゃ!」
いなりのツッコミが冴え渡り、ちょっとつり目ないなりを見ながら口を緩める。
背中の皮がむけるくらいは冗談だけど、丁寧に洗うのは本当。
俺なんかが触れてもいいのかとすら思うからな。
冗談を言いながら最後の皿をすすぎ、乾燥機に放り込む。
乾燥機のタイマーをセットし、濡れた手をタオルで拭うと、待ってましたとばかりに目をキラキラ輝かせていなりが立ち上がった。
「終わったな! じゃあ、行くのじゃ!」
いなりは脱衣所を指差して、駆けるように向かっていく。
その足取りは軽やかで、カモシカのように跳ねていた。
すごく楽しみだったのだろう。
対照的に、俺は心臓が口から出そうなくらい暴れていて息をするのも苦しい。
二回目の一緒にお風呂。……死ぬかもしれない。
自身の死因が婚約による興奮の為の心臓麻痺なんて恥ずかしい理由で死なないように祈りながら俺も脱衣所に吸い込まれていった。
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