第11話妻とお出かけ

「これで行くのか!」


 いなりは、アパート前に止めている白のSUVに興奮してぴょんぴょん飛び跳ねる。


 そう、この車のオーナーは俺。


 この車に乗って今からいなりの日用品等を買いに行く。


 足りないものが多すぎる、そもそも服がない。


 今着てるのも俺のロンTとジーンズを丁度良い長さになるように折り曲げて着ている。また、足元も俺のサンダルだ。


 彼シャツとかみたいな感じで、ダボっとしてるの可愛いと思うけども流石に支障をきたす。


 あと、下着。聞くところによるとさらしを巻いてるんだそうだ。


 ノーブラとは言わないんだろうけど魅惑的を通り越して蠱惑的に感じる。


 想像したら鼻から血液が三リットルくらい出てしまいそうだ。


 他にも必要そうなものいっぱい言ってもらったけど、それらを全部メモするだけでメモ用紙がびっしり埋まった。


 俺は買い物メモをしまい、買い物に向けての準備の為車の後部座席側の扉を開く。


 そして、シートを倒し後部座席がフラットな状態になるよう倒した。


 よし、これでたくさん買っても大丈夫だ。


「よーし、いなり。今から出発だからこっち側座ってくれ」


 後部座席を閉めて、いなりに助手席の扉を指差す。


 いなりは嬉しそうに必要以上に首を縦に振り、助手席の扉を開いた。


 そして、サンダルを脱いで乗り込むと、ちょこんとシートに正座した。


「ふかふかじゃー!」


 いなりは爛々と目を輝かせ嬉しそうに叫ぶ。


 そうだね、ダイニングにある椅子よりはふかふかだろうね。


 だけどなんでサンダル脱ぐんだ? あとその座り方なんだ?


 俺がキョトンとしているのに気付いたのか、いなりが不安そうな目で俺を見つめた。


「え、わ、妾なんか変かのう?」


「あ、いや、まあ変かな? サンダルは脱がなくていいし助手席も足を崩して座っていいんだぞ?」


「そうなのか? は、恥ずかしい……。わ、妾車に乗るのは初めてじゃから……」


 顔からボフッという効果音が出たんじゃないかと思うくらい顔を赤くして、すぐにいなりが両手で顔を隠す。


「一応花嫁修行とかで家事の仕方とか家電の使い方とかは一通り覚えたんじゃが、やはり体験した事がないのは苦手でのう……。ああ、ほんとに恥ずかしいのじゃ……」


 いなりは、今にも泣きそうな程のか細い声に声量を減らしながらサンダルを履き直してまた助手席に座る。


 ただ、俯き顔を隠したままあげる事はない。


 ただ小さく唸り声をあげていた。


 俺は微笑ましく思いながらニヤニヤと運転席に乗り込んだ。


「ほらいなり、次はシートベルトを着けてくれる?」


 俺は身を乗り出して、いまだに顔をあげないいなりにシートベルトを着ける。


「ひ、尋? ち、近い! 近いのじゃ!」


「え、あ、すまん!」


 照れながら慌てふためくいなりに、俺も慌てて距離をとる。


 やばい、おっぱ……胸があと二センチのとこにあった。なんで当てなかった俺!


 悲しき後悔を心に刻みつつ、感情を飲み込んで自分のシートベルトを装着した。


「ひ、尋が近くてドキドキしたのじゃ……。ああ、なんで近いなんて言ったんじゃろ……。押し付ければ良かったのじゃ……」


 いなりは顔を赤くしたまま、ぶつぶつと呪詛のように何かを呟きながら俯いたままだ。


 ただでさえ恥ずかしがってたのに照れも相まって落ち着くまで時間がかかるだろう。


 まあ、今から行くショッピングモールに行けば興奮して元気になるだろう。


 気楽に考えながらエンジンをかける。


「よし、行くぞー!」


 照れるいなりに声をかけ、ちゃっかりとオーディオをラブソングに変えながら俺はアクセルを踏んだ。

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