第7話刺激的なおいなりさん
「あー、いい湯だ」
時間は二十一時。俺はのんびりと入浴剤をいれた乳白色の湯船に浸かっていた。
筋肉痛の身体にお湯の効能が染み渡ったような気がする。
鈍く痛む筋肉を揉みほぐしつつ、今日という日を振り返る。
まさか、妻が出来るとはな。わずか一日で叶えてくれるなんて神様気前良すぎるぜ。
まあ、その神様が今の妻なんだが。
というか、冷静に考えて結婚出来るのか? 戸籍とか色々問題あるよなあ。うーん……。
悩みながらさらに深く身体をお湯に沈めていく。
勢いで決めちゃったけど、大丈夫だろうか。
「尋ー? タオル置いとけば良いかのう?」
「あ、すまない、ありがとー!」
扉越しにいなりの影の現れ、声をかけられる。
まあ、色々勢いで決めたとしても、嬉しいから大丈夫か。なんか、いなりといると幸せだし。
「おー、良かったのじゃー!」
扉越しでも分かるくらい耳がピコピコ、尻尾がぶんぶん動いてるのが分かる。
……尻尾ぶんぶん?
あれ? 今日尻尾見たっけ?
「じゃあ、妾も入ろうかのう」
「ええええええ!?」
勢いよく開かれた扉の向こうには、いなりがバスタオルを巻いて現れた。
バスタオル越しに主張する胸、バスタオルの隙間から現れた尻尾、顔を赤らめるいなり。
もう、たまらんです、はい。目のやり場に困る。
お湯が乳白色で良かったと思いつつ、湯船の中で体育座りをした。
「ふっふーん。夫婦の仲良しの秘訣は一緒に風呂に入ることと昔拾った書物に書いておったからのう」
「なんなんだ、その書物は」
「快○天と書いておったのう」
それは参考にしてはいけない書物です、はい。紛うことなきエロ本だね。何読んでんだ。
いや、参考にしてくれると嬉しいけども!
「いやー、あの本はたくさんイチャイチャしておったからのう。仲良しの秘訣のバイブルじゃな」
参考になったのじゃ! と言わんばかりにドヤ顔を見せるいなり。
……きちんと、説明するべきだろうか。このピュアピュア神様、なんというか無防備すぎる。
受け入れた俺が言うのもなんだけど、すごく心配だ。主に頭が。
まあ、説明はいずれはするとしてだ。目のやり場に困りすぎる。
「とりあえず、入ったらどうだ? 寒いだろ?」
「そうじゃな! 入るのじゃー!」
嬉しそうな顔をして、いなりは風呂場に入ってくると、風呂桶でお湯をすくい身体にかける。
バスタオルは水分を含み、いなりの身体にはりついた。
まるで、身体のラインを強調するかのように胸を、腰を、尻をはりつくそのタオルに俺は目を奪われた。
「ひ、尋? そんな目で見られるとすごく恥ずかしいのじゃが……」
いなりは俺の視線にもじもじしながら抗議する。
そのもじもじすら、可愛らしいと思う。
「す、すまん、見惚れた」
俺は慌てて視線を逸らし、天井を見上げた。
湯気がベージュの天井をくぐもらせているが、俺の脳裏に焼きつくいなりの裸体はくぐもることなく主張し続けている。
眼福だが、目に毒だ。
「そ、そうか、見惚れたか。まあ、妾は身体には自信あるからのう」
目線を逸らしてるので良くは分からないが、いなりの満更でもない声が聞こえる。
その顔はおそらく照れ笑いを浮かべているのだろう。
「そのー、俺には刺激が強すぎる。一緒に入りたいのはやまやまなんだが、また今度でいいか?」
すごく恥ずかしい事だが、俺の心臓は祭りの太鼓のように鼓動を連打している。
ひと月分の鼓動を今の五分程でうっているのだ。
俺は自分のヘタレぷりを嘆きつつ、いなりをチラ見して提案する。
「そ、そうかの? まあ、それなら仕方ないかのう」
「すまない。じゃ、じゃあちょっと目を逸らしてくれる? その、俺も恥ずかしいし」
「わ、わかったのじゃ」
俺のお願いに、いなりは了承して視線を逸らす。
いなりの視線が逸れたのを確認すると、俺は湯船から身体を出して、風呂場を後にした。
「おっきい……」
「ん? な、なんか言った?」
「な、なにも言ってないのじゃ」
何か聞こえた気がするが、いなりに否定されたので空耳だろう。
俺は扉を閉めて急いで身体を拭いた。
……洗濯カゴに積まれているスエットの下を覗きたい衝動を抑えながら。
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