第26話「天と海、そしてそこに潜むもの」
六機の戦闘機は乱気流の中へ突っ込んだ。雷が蛇のように連なり風があらゆる方向へ
吹きすさぶ。
『豊村さん、私はここから離脱するわ。今高町さんの伝令が入ったの!私の力が必要みたい。ここからはあなたの力で進むのよ』
「細川さん!?待ってくれ、ここを抜けるには細川さんの力がっ!」
『豊村さん、あなただって霧深く山切り立つ樹海の奥地、古の仙人にあったのでしょう?もっとあなたの力を信じてあなたの力は私なんかよりもずっと優れているのだから』
一機の戦闘機が乱気流に飲まれて消えて行った。
『伊佐!細川は大丈夫だ。あいつがこんな乱気流程度でやられるはずがねえ!伊佐、今は目の前の事に集中するんだ』
『賢治!分かった。父さん、運転は任せたよ』
突然、伊佐は戦闘機の窓を開けた。ものすごい風を受けているのに身じろぎもしないで平然としている。そして何事かを唱え始めた。すると乱気流が晴れていって別世界が顔を出した。そして窓を閉める。父親は後ろでぎゃあぎゃあ言ってるが聞く気はない。
「ここは……」
そこは空と海とが限りなく広がる巨大な空間だった。海はさざ波一つ立たず、まるで透明な鏡のようで空には太陽と月が同時に昇っている。それどころか、この太陽系の9つの惑星が不気味にとても近く見える。ここはなにかどこか異星のような匂いがある。
「なんだ、これは。伊佐どうなってるんだ」
「リヴァイアサンだ。いやそれにバハムートもだ、おかしいとは思ったんだ。あんなに巨大な銀河系より大きな生物がなんの仕掛けもなくこんなちっぽけな惑星に姿を表せるわけがないんだ。おそらくここらいったいは時空を超越した異次元なんだ。いってみれば聖獣たちの夢の中かな、夢ならばどんな仕掛けも自由だからな」
「だけど、これは夢じゃない、現に戦闘機はわずかながらガソリンを食いながら物理原則どうりに動いてる」
「だからリヴァイアサンともなればここに銀河系ひとつくらい空間を用意するくらい朝飯前なのさ、存在そのものがバハムートもそうだが規格外なんだどんなことを起こせても話は通じる。現にみろ、高度計を上空一万メートルに居るはずの私達が見ろ、高度計が振り切れて壊れてしまっている」
「つまり聖獣がゆうゆうと泳げるくらいのとんでもない高さと深さの天と海があるってこと?」
「そういうことだ、気をつけろよ、みんな。アラビアンナイトのようにその巨大さだけで失神してそれまでだっていうことだってあり得るからな」
だが突然ことは起こった。下の方で見渡す限りの海が大きく一うねりの渦が周り始めた。下にものすごい巨大な何かがいるのは分かった。
「なんだ、あの海、なんて深さだ。渦の底が見えないぞ」
「ひいいい、わたし。サメが駄目なんです。嫌っ!見たくない!きっと一口で食べられちゃうんだ」
「落ち着いて織花さん。いくら大きくたって前もって予測しておけば失神するなんてことにはならないわ。いい?サメが怖いのはどうしてか冷静に考えてみて。それはたぶん潜在的に太古に同じような目に私達の祖先が会ってるからよ。青くどこまでも深い海のなかからゆらりとあの姿が迫ってくる。それがDNAに刷り込まれてるだけよ」
「あ、あのうなんだか余計怖くなったんですけど、水族館で一度わたしのすぐそばをあれが通り過ぎたのがリフレインしてます。あ、だめです。豊村さん、短い間でしたがありがとう」
渦はどんどん広がってとうとうそいつは姿を表した。轟く海のうねりが轟音となって響いている。
海上に奴の背の突起が何本も浮き上がり始めた。ざっと見て一つの突起の高さがエベレストよりも高い。それが何本も連なってまるで山脈でもみているみたいだ。しかしその山脈は、滝のような水を滴らせ渦をどんどん大きくしていく。
そして海がとてつもなく澄んでいるせいなのかだんだんと奴のシルエットが見え始めた。海に大きく巨大な影を落とし、波を打ってうねっている。
『豊村!織花が失神した!もともとこの戦闘機にのっていることだって織花にはきつかったんだ、俺達はなにかと鍛えているから平気だが織花は素人だ。戦闘機のGに耐えるのだってきついはずだ!』
そうだった、わたしともあろうものがそんなことに頭が回らないとは、だが、今は目下のリヴァイアサンを相手にしなければならないあいつはどう出てくる。リヴァイアサンはバハムートとは違う。神が最強の生物として生み出した海蛇神だ。その性格は獰猛で冷酷無比、絶対にこちらがわになにか仕掛けてくる。どうして奴は何故、渦なんかを作っている?何が目的なのだ?どう戦えばいい!
『豊村、やばい。なにかやばい気配がする!もうじき奴は何かを仕掛けてくる!」
そのとおりだった。奴の渦はどんどんせり上がって高くなっていくものすごい海水の量にそこら中を埋め尽くす轟音。ゆらゆらと揺れる水平線がなにか危険なものを暗示していた。今や、この見渡す限りの海水が残らず渦となっていく。今や海は荒れ狂っている大波が渦の中になだれ込んでいく。戦闘機はそのすぐ上空を飛んでいる。
『おいおい、おれら、高度計が振り切れてるからわからんがかなり上空を飛んでいる筈だ。なのになんでこんなに海面が近いんだ、コレじゃいつか波にさらわれちまう』
『違う、高度は低くなったんじゃない、海面が上がっているんだ。その証拠にあの渦の中心を見ろ、ものすごい穴がぽっかり開いてそれでも底が見えない』
『なあ、リヴァイアサンは神が作った最強の生物なんだろ?ならこんなまどろっこしいことしなくても俺たちを倒せる筈だ』
『あいつは試しているんだ。例の箱だよ。あいつはこの穴に入って来いって言ってるんだ。箱があるとすれば海の底だろうからな。もし私らが一瞬でも躊躇したらその顎をあけて食らいつくつもりなんだ』
『一かバチかだな、よし行こうぜ。豊村!』
『ああ!賢治。全機突入!自由落下開始』
4機の戦闘機は一旦上昇したあと、そのまま、渦の中心へ自由落下し始めた。帰りの燃料を考えると、ここであまりスラスターを使うわけにはいかない。3機は、
エンジンを切って重力に身を任せた。
どれくらい落ちたろうか。一時間落ちてもまだこの深い渦の中心は続いている。だが確実に4機は目標に近づいている実感が湧かない、無限に時間がながれ、物理法則にしたがえばどんどん加速していっているはず、その証拠に機体の温度はどんどん上昇して機体の先端が熱く燃え始めている。
この果てしない巨大な空間に戦闘機という木の葉一枚にも満たない紙切れで突き進むことがどれほど勇気がいることか説明のしようがないほどだ。
『豊村!見ろ!』
賢治の指さした方向にそう水の壁のむこうに目を凝らすとだんだんとそのシルエットが見える。
はるかに巨大だ、その尾は、太く果てしなくとぐろを巻きながらこの水の壁をぐるりと周りそして遥か下方へ伸びていくその終わりは見えない。その影が水の壁に闇を落としている。その巨大な姿は自分たちの戦闘機をその巨体を惑星だとするならば、細かい粒子の粒くらいにしか見えないほどだ。それが波打って揺れている。
頭部は絶えず中央にあり、その目玉だけでも水の壁の向こうから見ると大きすぎて捉えられないくらいだ。しかし、その両眼は絶えず4機の戦闘機を凝視し恐れを抱かせる。はっきり言って海の渦の中から歪んでみえるその凄まじい姿は恐怖意外のなにものでもない。
そしてそいつはこちらの視線気付いたのか、凄まじい咆哮を挙げて牙をむき出しにして敵意を露わにした。何かわからない黒い化け物が眼を光らせて荒ぶっている。
いつその顎は開かれ4機をまる飲みにしないか分からない。
『見るな!あんまり見ると精神をやられる』伊佐は皆に注意を促す。
そのとおりだ。今や奴を見ているだけで奴の想念を直接、頭にぶつけられてるようなものだ。
そしてふと伊佐がこんなことを言った。
「・・・・・・なんて深い憎しみなんだ・・・・・・」
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