第15話「授業風景『数遊び』」
二時間目が終わって、三時間目は教室で数学だった。
「ああ、この白川先生の夏の特別スペシャル問題、やっぱ出来ねーわ、白川の理論上では、一学期の授業範囲を完全に理解していれば解けるはずなんだが、無理!しかし特典が惜しい」
「ほんまやなー、この問題一問やるだけで、今学期の成績は無条件で5になるって代物やからなー。わしもこれには頭ひねったでー。けどわからへんもん。しかたないから、これ以外の宿題をせこせこやるしかないんやからなー。ま、この問題だけはやらなくても成績や授業態度には影響しないからいいんやけど」
「おれもな、実は、ネット、数学必読書、挙句の果てには何とかの定理とかいう学校特別指定の本もよんだんだぜ?おかげで他の問題はもんくなくすらすら解けたぜ。だがこの問題だけはまるで悪魔が問題つくったみたいで恐ろしく興味をそそられて、とき進んでいくうちに気づいたら朝になってる。だがどうしてか最後の合算で計算が合わなくなる。まさに悪魔だよ。この問題のおかげで白川の数学はみんなこの問題をとこうとしてやっきになって結局できないけど、数学の成績はあがる。結局、白川の手のひらで踊らされてるんだ」
「ははは、この問題を額面通りに受け取るからだよ。実はこの問題、問題の中にすでにヒントはあるのだよ。だがみんな、わたしの授業範囲を完全に理解していればという言葉に引っ掛けられて、数学の本質とはとか余計に考え出すから余計に分からなくなるのよ。これはね、厳密に言うと計算を山のようにこなしてちゃんと一学期の課題を分かっていれば、あとは少し閃きがあれば解けるのよ?」
そこに立っていたのは、いつも頭の周りに数学の定理や公式が回っていると言う、色の白い秋田美人で、みょうに体がミニチュアサイズで顔も秋田美人というより秋田美少女といったほうがいいが、とにかく元気で口からすららと数学の公文が出てくる特殊スキルを持つ白川先生であった。まあいつものことだが背の高い男子によく子ども扱いされて膨れたあげく男子に頭をポンポンされて、さらに怒るけど長い綺麗な髪をツインテールをしてるかわいい先生である。
当然、藤沢と島の前に両者が座っていても頭の高さは立っている先生と同じと言う構図だ。いつも体より少し長い白衣をちょっぴり床に引きずってあるくその姿は、たとえその顔にどれだけ知恵をたたえた美少女でもしゃべればすぐに三歳児と見分けがつかなくなるあどけなさがいったいどういう成長期を経ていればこうなるのか何故か数学的に考えたくなってしまう。
「なあ、賢ちゃん、やっぱりどう考えてもおかしかないか」
「うーん、やっぱりそう思うか高ちゃん」
「おお」そのあと二人は声を揃えて言った。
「やっぱりこんなちんちくりんの三歳児キャラからあんな高等な問題がでてくるわけがない!」
「うあーー!ちんちくりんって言うなー!三歳児じゃないーっ!そうかおまえらわたしをそこまでばかにするなら見てろー!」
そのちっちゃな手がポールペンを持つとまるで何かが宿ったみたいにノートに描かれる数式。一秒も立たずに数式はそのちっちゃな手で描かれるちっちゃな文字でノートを埋め尽くし、次のページへ、驚嘆する二人。それがなにをあらわす数式なのかわからない、習ったことのない記号が次から次へ、そして三ページにわたるその記号で埋め尽くされたノートをこれみよがし短い手を突き出して見せ付ける白川先生。
「ふんっ、これを君たち、どこぞの科学者にでも見せてやるがいい。君たちは翌日には国際テロ重要参考人としてどこぞの取調室で尋問されるだろう、けどそのときになってこんなどこから見たって小学生としかみられない先生にちんちくりん呼ばわりして報復されてノートに描かれましたなんていってみろ。絶対しんじてもらえないから!そしたらわたし、最後までしらをきりとおしてやるもん!」
「おそろしいお子様やな、ほんと高ちゃんちょっとよくしかってやりいな」
「白川先生!」
「へ、はひい!?教師に暴力はダメなのだー!訴えてやるー!」
「白川先生・・・・・・後ろに校長が・・・・・・」
「うわおう!あの校長!これはですね教師としての権威を守るためでして、ってあれ、校長は?」
「たぶん、今日も学校の花壇の手入れでしょうね」
「藤沢くん!?」
「はあ、なんすか白川先生」
「もー、寿命が縮んだじゃないかっ?どうしてくれる!?」
「はは、それいじょう縮むものがないじゃないですか、いやだなー」
「また、それをいうー!」
「あ、それからこの数式ちなみにどんな内容なんです?」
「え、ただの反陽子爆弾の設計図ですよー。ちなみに私独自の公式なので、私以外には分からないし、大事な最後の一文節を書いてないのでまったく意味のない代物ですよー。わたしはこれでも教師!大事な教え子を路頭に迷わせるはずないじゃないですかー」
「先生、そんな知識があるのになんで科学者にならなかったんですか?」
「えーとね、それはね、やっぱり科学的成果は人類全体の精神的成長の上でなされるのが一番だと思うのですよー。だから私は教師として人類の成長に貢献して人類がこれくらいの技術をもつべき段階にたっしないかぎり、わたしの科学者としてのロードは始まらないわけです、へへー!」
「なあ、白川先生ってほんとは何者なんやろなー高ちゃん?」先生が自慢に浸っている合間、二人は先生に聞こえないような声で話す。もちろん先生の自慢など耳には入らない。
「わからん、だがあの幼稚に見える外見で人類を騙して、実は世界中の人間を自分よりちんちくりんにする気じゃないか?」
「ほんまかー?いや、ありうるかもしれん。そしたら人類はいつごろちんちくりんにされるんや?」
そんな二人をよそに白川先生はふたりのノートを見てみる。
「ま、でもこんな低級な問題がとけないようじゃ、まだまだ人類の進歩は先ですねー」と、二人の夏の特別スペシャルの問題欄に鼻歌まじりにペケを描く白川先生。その下の白川先生の数式文を見て、ふたりはすこし青ざめる。
「おっと、長話をしてしまいました。はーい、みんな授業を初めまーす。ノートを提出してください。ノートは新しいのを別に用意してありますねー?では、二学期への対策に少しだけですが二学期の分のお勉強をざっとですがやってしまいましょう、教科書は六十一ページ・・・・・・」
「だがまあ、なあ高ちゃん」
「ああ、賢ちゃん」
ふたりは、数式の最後の方を見て思う。数式の最後に書かれていたのは英語のことわざのようだった。There is a always light behind the clouds 「雲の向こうは、いつも青空」
「あの頭にはおよそ悪意というもんがないわな」
「ああ、だってちんちくりんの前に元気なお子さまだからな」
「おい、そこのバカふたり、いい加減にしないとわたしが怒るぞ?」そういったのはクラスの中で細川 百合と並んで夏の特別スペシャルを軽々と解いた豊村 伊佐だった。
「ねえ、豊村さん、あのスペシャル問題、解けた?わたしはぜんぜんダメだったよー」
「あ、ああ。ともちゃんは・・・・・・出来なかったんだ。あの問題・・・・・・」
「わたしには少しっていうか無理だよ。一週間くらい考えてうん、わたしには無理って納得しちゃったもん」
とんとん、いつものように後ろから静かに肩をたたく細川さん。
「大丈夫、わたしも解けたから。豊村さんはもっと胸をはっていいんだよ、だれにでもできることじゃないんだから」細川さんは、伊佐が困っているときいつもこんなふうに勇気づけてくれる。
「くっわたくしとしたことがこんな問題がとけないなんて。十万通りの手を考えつくしたのに白川先生はわたくしのうえをいく軍略を?」
「え、高町は、なに?これ少しはとけそうだったの?わたしはさー、もうこの数字の羅列で頭いたくなってさー」
「なにを言ってるのです、大橋さん、こと数学は、兵の全様や相手の国の国力を測るにとても重要なのですよ。そして自分の力量をそれに照らし合わせる、敵を知り己を知れば百戦始うべからずですわ」
「・・・・・・・高町はいつもそんなこと考えてんのか?別にだれかと戦争するわけじゃないんだから、もっと平和的に行こうぜ?ほら、だからその年で肩こりなんかになるんだよ」
「わ、わたくしの肩こりは、関係ないでしょう」
「そうか?なんならわたしが柔軟の仕方でも教えてやろうか、肩こりなんか一発でなくなるぜ?その貧乳にも効くぜ?」
「とんでもなく巨大で余計なお世話でしてよ。それよりもさっさとノートをお出しなさい、前の人に渡さなければならないのですから」
「あ、そっかノート提出、今日だっけ」
「それと新しいノートを用意するのもお忘れなく」
「あ、やっべ、新しいノートなんか買ってねーよ、でも今のノートは提出しちゃうし」
「はい、これをお使いなさいな」
「お、い、いいの?あとで返せとかなしだぞ」
「あなたの行動パターンなど先読みしなくてもちょっと頭を回せば分かりましてよ、まったくこれだから運動だけの運動バカは」
「はは、でもてっことはわたしのためにわざわざノートを一冊余分に買ってくれたってことだよな。高町はなんのかんのいってやさしいよな」
「そうではありませんわ」
「えっちがうの?」
「正確には、あと三回あなたはノートを二学期中に用意できない日が来ます」
「へっ?」
「それは、あなたの不注意ですが、いくらあなたに注意を促してもあまり効果がないようですのでノートを一冊進呈することにしたのです」
「ていうことは、今日、わたしがノート忘れるのは」
「もちろん、読んでいましたわ」
「お、おまえどんだけ、頭がきれるんだよ、エスパーか!?おまえは」
「ふふ、これで兵法などがいかに有効な処世術か、少しはわかっていただけましたでしょうか?」
「く、くうう」
「ほおっほっほ。あ、あれ?」
「ん、どした?」
「わたしの筆箱の中身が消えている」
「ん?なんだ筆箱だけ持ってきて中身を忘れたのか」
「い、いえ一時間目はあったはず。そうだ桜花さんに休み時間に筆箱を貸したのでしたわ、でっでも筆箱はここにあるし」
「お、おい、ともの奴おまえの筆記用具そっくりそのまま使ってるぞ?」
「わ、わたくしとしたことが。わたくし、なぜか桜花さんの行動だけは読めないのです」
「あー、そりゃ、たぶんあいつ天然入ってるし、剣道じゃ、学校の伝説になってるくらいだからな。あいつにやられた奴の話じゃあ計算高い奴ほどあいつには敵わないらしいぜ」
「ま、まさかこんなに近くに好敵手がいたとは、いいでしょう。わたしも全身全霊を持ってお相手しますわ。というわけで大橋さん、ノートを進呈する代わりに筆記用具を貸してくださいな」
「高町、もうそこでおまえ、負けてるよ」
こうして、数学の時間は過ぎていったのでした。
白川先生は後にノートを返すさい。豊村 伊佐と細川 百合にだけは20ページに及ぶ数式の付録をつけて返したという。伊佐も細川も面白そうにそれを読んでいたという。彼女らに白川先生はどんな数式を教えたのだろうか?もし、反陽子爆弾のような恐ろしいテクノロジーの数式なら伊佐も細川もそれを一切読まず逆に先生に怒って突っ返したかもしれない。白川先生を良く知ってる理科の五十嵐教諭は語る。「白川先生は、あの小さな体に人を育てる種をいっぱい隠し持ってるんだ。そして何故か、白川先生の容姿が子供並なのは、種が勝手に芽吹かないように、眠らせてそのときがくるまで自分の心にしっかりしまっておくからだ」
そして、そのあと決まって彼は、顔を赤くしてこういう。
「白川先生には、わたしが一番教師として悩んでいた時期に目の覚めるような発言をくれた。わたしは、いつごろかあの小さい子供のような数学教師に憧れとなにかこう胸のたかなりを感じるようになってしまった。私の夢は、科学者として彼女の尊敬に値する者になること、そしたらそのときは・・・・・・」
五十嵐先生はいつもここで夢見るように話がとまる。理科の五十嵐先生はこのときだけは普段と別人だという。もっともこんな話はめったに生徒には口に出さない。五十嵐先生がこんなことを話す時は決まって本当に悩んでる生徒と会話する機会があったときだ。そのとき意外は、可愛い女子をおいまわし「少年よ志なんかより恋をしろ」とどこまでもセクハラな先生だったりする。
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