「真心の隣に友情はあったりする」

第11話「登校日」

八月のまだ暑さの残る雲高らかな夏のことだ。この学校は夏休みに一度、登校日がある。

 よく良い環境には良い人物が集まるという。この学校の勉強はまったくゆとり教育を無視しているほど厳しい。

 そこで藤沢は学内トップ3に入る成績なのだから、実はものすごい努力家なのだ。藤沢にはなにやら小学校時代のファンがひそかに年々増していたり、保健の水沢先生もまた、ひそかに恋心を抱いているとかそういう話もある。

 片や、豊村伊佐という女性は、いちどたまたま、原宿に用があっていったときに、あるカメラマンにぜひ一枚取らせて欲しいといわれて、まあ、面白そうだからと撮ったその写真が、後日、モデルのファッション雑誌の一面を飾っていたというくらいの美人である。

 成績も常にトップであるし、言動も人の目を引くところがあるくせに、本人は周りに無関心という、彼女を恋人にしたい男子や恋人すら敷居が高すぎてけど憧れてしまう男子そして意外にも女子、そう豊村伊佐は、そのへんの男より下手をすると男らしいだからそれに惚れてしまう女子も少なくない。

 豊村伊佐と藤沢賢治が恋人同士になった。

 そんな噂が学校の生徒の中でこの夏休みの間に生徒から生徒へ噂はどんどん広まっていた。

 登校する賢治と豊村は、もはや学校中の噂の的だった。

 二人は、それらに全く関心がない。


「ねえ、賢治先輩ってあの豊村って子の何なのかな?」

「噂じゃ、夏休み中、二人で山に合宿にいったんだってよ?えー?だれに聞いたかって?馬鹿、新幹線で待ち合わせしてるとこを偶然みたやつがいるんだよう」

「はあ、豊村さんって、美人で学内でも成績いいし、はっきりいって憧れちゃうのよ、だけどなにか近づきがたいというか、なのに何故、あんな、ヤンキーくずれが・・・・・・!」

「ばかっ、あなた知らないの?賢治先輩は、学校一喧嘩強いのに武術部にもはいらない、昔は町内ボクシングチャンピオンだったらしいし、そのころから影で先輩のこと好きな子たちがすんごいんだって知らないの?」

もちろん、こんな噂などみんな二人に筒抜けだ。だがどれ一つとして二人の心を揺るがすことは出来なかった。そう、悪い噂は自然と対抗グループがいて消してしまうし。良い噂なら興奮して喋りあう程度で終わってしまう。

もはや、伊佐も賢治もお互いのことしか見えてないのだ。

今日の最初の出会いの一言からして、早朝ちょっと賑わす話題になるほどだったが。

「おお、伊佐、久しぶりの登校の癖によく遅刻しなかったな」

「ああ、夏休み、おまえのおかげでやはり退屈しなかったしな。今も、実はちょっと早起きしておまえの寝顔でも見に行ってやるかとおまえの家に行こうとしてたところだったんだがおまえ、朝めちゃくちゃ早くなったな」

「ああ、あの死ぬほどの合宿のせいで、早朝の鳥のさえずりで、おまえの裸思い出しちまって寝てるどころじゃなかったんだぞ!?」

「ほう、それじゃ、私の裸もまんざらじゃなかったのか。おい、はじめて私をからかったあの時の、おまえからなんだけっこうウブな反応だな」

「ば、ばかやろう、あの時は、本気で心配したんだぞ、俺のせいでこいつ、ショックで学校こなくなったりしないだろうなとか、いろいろ気をつかってたんだからな」

「あはは、あのからかい方でおまえがどこに気を使うんだ。まんまと私を男子更衣室につれこんでおいて」

「ふつう、きづくだろ。なかにはまだ俺以外の生徒もいたんだぜ?まったくおまえに女の子らしい羞恥心とか期待したのが馬鹿だったんだ」

「し、失礼な、わたしも羞恥心くらいあるぞ。その、おまえとのキスとか・・・・・・」

「おい、ええっ!?あのとき、妙に顔が赤かったのは・・・・・・」

「は、はじめてのことだったんだ。それにおまえは近くでみるとけっこうイケめんなんだよ。わたしが、なんの責任も感じづにあそこに立っていたと思って欲しくないものだ」

「おお、いや、すまねえ」

「なぜ、きさまが謝る?」

「いや、じゃじゃあ、俺たちもう恋人だよな?俺も何も感じずにされるがままになってたってわけじゃねんだぞ?あの時、ああ、こいつなら付き合ってもいいかなってマジでおもったんだからな」

「な、な、な、お、おう。こ、恋人だ!というか私は、おまえのことけっこう初めからきにしてたんだ。なんでか、なぜかこいつのやることなすこと裏目にでるから、見てると面白くってな、くっくっく、今思い出しても。わ、笑いが、あはははは!」

「くううう。おまえなあ、俺だっておまえみたいな美人みたことなかったからしょっちゅうおまえの行動見てたんだぞ。なのにおまえ、なんだ豪傑かよ。一挙一動、他人を驚かせて、おまえ、クラスじゃ、女子の人気すげー高いんだぞ?なんか、おまえを見てるとそこらの男子がかすんでみえるくらい。凛々しいらしいぜ?」

「え、そうなのか?そういえば、なんで私は不思議と周りからなにか敬遠されてるように感じたのだが」

「そりゃ、あたりまえだ。あんな、男よりも男らしい美女にそう気安く話しかけられるかよ。だけど、まあ、クラスの噂が一段落しておまえの居場所つーか定位置が見えてきて、おれとのことがなければ、まあ、女仲間の5人や6人出来てただろうな。人望あるんだぜ、おまえ、やることなすこと公明正大だし、裏表まったくねえし」

「そういうおまえこそ、一番おまえを気に入ってたクラスの男子一人がけっこう、おまえに気を使って話しかけてたんだぞ。気のいい関西風の奴でな、あいつは、もう無条件でおまえを友達だっておもってるぞ」

「えっ?それって誰?教えろ」

「おまえこそ、その私の女仲間とかいう人々のこと詳しく聞かせろ」

 それからは、まあ軽い痴話喧嘩が続いてお互い自分の周りの人たちの事を知る。

だがこの一連の会話を聞いていた、同登校ルートの男子女子は耳まで真っ赤になってこそこそと耳をひそかに傾けていたのだ。

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