第10話「豊村伊佐の過去」(後編)

俺は伊佐という少女だったときの話に愕然とした。家庭が少し大変とかそんなもんじゃない。

 だが伊佐は、それがほんとならほんとに人間なのか?いや俺は信じるよ、おまえを。

 だからおまえの過去も真正面から受け止める。

「伊佐のIQレベルは200を軽く超えている。だがわしも両親も伊佐を無理に他の子と引き離して英才教育などしようとは思わなかった。なぜなら伊佐の良いところは、その心根だったからだ。だが伊佐が退屈なときは、いろんな工夫をした、パソコンを家に用意したり図書館に通わせたり。伊佐はまたたくまに知識を吸収してしまうので、知り合いの親切な教授の助手の手伝いをさせたり、武術でもより深い知識を持った人物の弟子にしたり、だが伊佐が中学生になったとき、異変が起こった。もうとうに忘れてしまっていた。

だが、そんな伊佐にもっといろんなものの楽しさを教えたものがいた。ある日本の山中にすむ、仙人だっだ。絵画、書、彫刻、舞に音楽、あらゆる諸芸に通じ、また武道を極め、仙道においては、無限の技を持つ者らしい。そして、そのお人からあらゆる道を教わった。そして伊佐は、それら全てにおいて一つの悟りを、得て、仙道の術によって、自分の運命を知るに至った。仙人曰く、それを知らせるために自分は山へ降りてきたという。あの化け物のことが蘇った。彼女の中に宿りしものの正体を捉えたのだ。彼女のなかには有史以前の地球にいた怪物が眠っていたのだ。仙人はそれらは、この世界の奥の奥の方に生きている、神がつくりし怪物だと言った。

なぜ、そんなものが伊佐のなかに生きているのかは知らないが、いずれ、災いを起こすといった。伊佐は、そこで自分の体に宿りし大いなる者の存在を知ったのだ。奴は、ずっと伊佐という存在を大きくすることで自分の存在を隠していた。

伊佐という器は、人間としてはあまりにも巨大、だから奴の存在のもつ巨大さもその心の奥に内包できたということだ。古くからのそういった怪物は、とりわけ自分の姿を隠すのがうまい、イルミナティはこの怪物がどういった名前と階位をもつ存在なのかを調べていた。伊佐自身も仙人の指示により、伊佐は思わぬ行動に出た。なんと自分を子供のときから監視していた、イルミナティにその調査を依頼したのだ。先ほどもいったとおりこの子は他人に恐怖や嫌悪というものを抱かない。それが、両親が目の仇のようにしていた組織への調査という行動をとらせた。両親はもちろんわしもそんなわけの分からない、組織に伊佐をあずけることは反対だった。すると伊佐は、両親に自分がなにかあったときのために護衛についてもらうという条件をだして、イルミナティに干渉することを両親に承諾させた。わしの知る限り、伊佐の両親はほとんどアンダーグラウンドの戦場の傭兵のなかでは最強を詠っていた夫婦だ。その二人が護衛にまわるとなれば、イルミナティも下手には手が出せない。なにより伊佐自身が神仙の域にある術者であるから、そしてそのうちに宿りしものがそこしれないので、イルミナティは、慎重にならざるをえなかった。なにしろ、その時点では伊佐にやどるものが神に敵対するものかそうでないのかまったく分からなかったからだ。それからあらゆる調査が始まった。まず、交霊術による霊的存在との通信をとろうとした、しかし彼女の体の中の霊的存在はまったく呼びかけに答えなかった。

イルミナスという組織は、教会が「悪魔」とするこの世に仇なす全てのものを調べる機関だ。だが、この伊佐に宿るのはどうも「悪魔」と判別するには、矛盾するところがありすぎた。まず、イルミナティが言うには、憑り代である伊佐という存在が、まったく精神的にも肉体的にも高位の存在であるというのだ。伊佐は、仙人によってあらゆる道に一つの悟りを得ている。イルミナティのどんな人間も伊佐に、人間的尊敬を覚えたという。彼らは、教会の教義に厳格だ。だから、神という存在にしか答えられない問いというものをいくつも知っている。そして彼らはそれらをまるで伊佐という存在をためすようにことごとくぶつけてみたのだ。だが彼女は、面白そうにそれらを聞いて。その場にいる人間すべてに納得のいく掲示をしてみせた。それは、「悪魔」が人を惑わすようでもあり、「神」が、人を使わした指示のようでもあり、イルミナティの人間はさらに迷った。だが、しだいに誰もが彼女がこんなふうに自分を扱っているというのに嫌悪や恐怖を一切もたない、伊佐の心に救われていた。

 だが、伊佐の誕生の瞬間に起こったことがやはりイルミナティは気がかりだった。

そして、もしかしたら神の御使いの一人がまさに今我々の前に現れたのではと思い始めた。だが一人、伊佐をどこまでも邪見する組織の幹部がいた。そのものは、どこまでも伊佐に宿るものに挑戦的だった。神にしか答えられない問いに不可思議な力で答えるなど、人間の身でそれをするならやはり伊佐は悪魔だと、ここでこのものは伊佐に一つ問いを出した。おまえは、自分をいったいなんだと思っているのか?と伊佐は実に朗らかに笑って、

「わたしは気持ちよく人間であり女だよ」といった。この一言がこの幹部の反感を買ったやはりただの人間にすぎないのだ。ならこいつは聖者か魔女かのどちらかだ。火あぶりにしてみれば、わかる。

この幹部の男は少々人間が小さかった。そしてとても臆病だったのだ。彼は無意識に伊佐を怖がっておったのだろう。そしてあろうことか伊佐に向かって銃口を向けた。あらかじめ、この者は伊佐とその親が手出しできない弱みを握っていた。伊佐の中学生の時の友達を人質にとっていたのだ。そしていった。

「おまえとそこのこいつの親ども、絶対に抵抗するな、抵抗すればこの友達を殺す。なあに、神がおまえに味方するなら、なにか奇跡を起こすさ」そいつは、自分が今どうなってしまったか分かってなかった。というかこの幹部の男を知っているものならその時点で気づくべきだった。いやそもそもイルミナティという、悪魔を探し出す組織がその懐中に悪魔を宿した人間が潜伏していたことに誰一人気づかなかったのだ。

そう、その男には、ルシフェル、地獄の魔王そのものが宿っていたのだ。

そして、そう、その事件そのものが魔王の画策した罠だった。

ルシフェルは狡猾だった。この臆病な男だったらこれくらいする、そう踏んだ、ルシフェルは、その時点で伊佐に宿りしものを知っていてその上で、その宿りし者の意図を踏み潰さんがための小細工をしたのだ。これでも宿りし怪物が姿を現さないなら、ルシフェルは、銃弾に込めていた魔力で絶対に伊佐を殺すつもりだった。もし失敗したとしてもルシフェルはまた地獄の底にもどるだけだろう。

だが、伊佐の中に宿るものはそこまで甘くはなかった。そしてその場にいたものは驚愕の光景を見た。どのぐらいの大きさか、数学で表すのは無理だろう。そのものは、そのものの住む世界そのものをそこに現出させた。そして自分の計り知れない大きさを持って全てを威圧するのだイルミナティの誰かが言った。「バ、バハムート!!」

魔力の宿った銃弾などはもはや意味をなさない、なぜならその者の威圧は、銃弾を放つという行為さえ、いや、その者のまえではいかなる抵抗もできるものはいなかったからだ。

男に宿っていたルシフェルは、その存在を知ってはいたものの、それで下手に刺激してはいけないものと悟った。

この魔王の小細工は、眠っていた怪物を起こしそして、イルミナティに言いようのない恐怖とその場での全てのものの気絶を引き起こした。

かくして、伊佐に何がやどっていたかは、確認されたのだ」

「バ、バハムート?あの俺の夢に出てきた?」

「なんだとおまえ、夢でみたと?」

「ああ、いや確かかは分からないが、ものすごい大きな化け物だったよ、そのせいで夢の中で気絶していたがな」

「伊佐・・・・・・」

「やはり、賢治、おまえはわたしの運命になにかをもたらす存在らしい」

「だがこれで伊佐の宿っている者の正体を知った。なあバハムートとはなんなんだ」

「バハムート、旧約聖書にでてくる神が五日目に創造した獣だよ、あらゆる獣の王であり。その巨躯で大地を覆いつくす存在。神の傑作にして、完璧な獣。旧約聖書での名はベヒモス。あの有名なアラビアンナイトでバハムートと呼ばれるようになる、一貫しているのはすさまじく巨大だということある娘がバハムートを見たときそのあまりの大きさに気絶した三日の間気絶していたが、意識を取り戻してもまだバハムートは通り過ぎていたらしい」

「だが結局、これから何が起きるんだ?」

「それは山を降りてみんとわからんということだ」

 話が終わってもうあたりは日が暮れてきていた。

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