第6話 「影が迫る」
―――ヴァチカン、ローマ法王庁
「では、確認されたのですね?」
「はい、聖書のヨブ記においてベヒモットと呼ばれ、有史以前にいた怪物バハムート、その霊的磁場を探知しました」
「しかし、この報告書にはその少女はまだ16歳だというではないですか」
「われわれ、イリアステルは、この少女をわずか一歳のころから、監視していました」
「そして今日、わたしたち、バチカンと各地の協力を支援している他宗教もしくは土着信仰のリーダーたちが、われわれと意見をおなじくし、「悪魔」の可能性のある存在として登録されました」
「だが聖書にはベヒモットは主がつくりし獣、人の驕りを打ち砕く者とされている。なあ、友よ。あの怪物が世に現れたということは、我々の驕りを主はお怒りになっているということではないか」
「ならば審判の日も近いということです。ですが私たちはもしそれが本当に事実だとしてもあの存在の言葉を聴かなければなりません」
「では、エクソシストを日本に差し向けるのだな?」
「はい」
「して誰を任命する」
「ガブレ・アモス神父に任せようと思っております」
「うむ、あの者以外に考えられまい、よろしい。すぐに準備せよ、日本の首脳に連絡するのだ」
「それだけで大丈夫か?法王よ」
そこには一人の少女がその目は少女のそれではなくどこか神秘的だ。
「おまえは・・・・・・」
「おれか?まあ、名前ならおまえたちはいろんな名をつけているが、さて、きさまは俺をなんと呼ぶかな?」
「きさま、どこから入った?ただの少女ではあるまい?」
「まあな、しばしこの子供の体を借りている、安心しろ、自分の憑り代に手荒なことはしない」
「私に何の様だ。今はおまえが何者かは問わん、おまえの用事をいえ、こうやって法王庁に入るからには、なにか告げるためにきたのだろう?」
「あれは、少し荒ぶっている。ずっとこの世を支えてきた存在が、こうやって世にでてきたのだ。もうすぐおまえら人類は、禁じられた力の片鱗を手にする。それはもうすぐそこまで来ている」
「禁じられた?なにをいっているのだ」
「分からないか?」
「それは海のそこにある、ある箱に収められている」
「まさか聖櫃か?」
「ある調査団がそれを発掘したらしい噂は聞いている」
「運命とは奇なるかな?あの箱は聖櫃などではないよ。あれは門だ」
「門?」
「大方、トレジャーハンターが宝物だと勘違いしてほりあてたのだろうが、それで海の聖獣は怒り狂っている、同様にベヒモスも」
「わからぬ、それをあけるとどうなる」
「きさまらが思っているような代物ではないのだ。あれがこの世の理をこの宇宙の構造をひっくり返さぬように神が仕掛けた封印なのだ、あれこそがまさしく神と対する者たちの棺だ。仕掛けはある一定以上の彼の者を封じ込められる、がそれを少しでも超えた質量を生成した場合。この宇宙は原初の姿にもどってしまうだろう。そう、コインの裏側をひっくりかえさないように、パンドラの箱は開けさせぬ。それをするなら貴様らは、あの怪物の本当の恐ろしさを知る」
そういうと少女は気を失った。
「長官、各国政府に伝達だ」
「法王、今伝令が入りました」
「どうした?」
「報告によると調査団の一人が箱を開けたらしいのですが、すると海中からなにかが船を粉々にし、それからその海域を中心に大きなハリケーンが発生、探査に向かった戦闘機が巨大な門のようなものを発見したということです」
「おそかったか」
「法王、まだ方法が一つ残っております」
「なんだ」
「あの少女です、彼女の言葉に耳をかたむけましょう」
「ふう、イサ・ヨシムラ、伝説のバハムートを目にした者とおなじ名を持ちその身にその怪物を宿すもの、か」
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