幸せなフクロウ

@ns_ky_20151225

幸せなフクロウ

「『幸福度指数』? 変わった指標だな」

「ええ、たしかに技術的な用語としての正確さはどうかと思いますが、広報としては大衆にアピールする点を重視しました」

「で、明らかにそれが高い転用先がある、と」

「はい、こちらをご覧ください。転用先が農場、特に果樹農家で運用されている機体の回収率、微障害発生率、苦情発生率は他と比べて明らかに低くなっています」

「それで、運用成績は恐ろしく高いな。最初に見たときは間違いかと思ったぞ」

「しかし、誤りではありません。そこで、開発とも協力し、この優秀性を一般にも分かりやすく表す指標として新たに幸福度指数を設定したというのが経緯になります」


 会議室に集まった皆の見る画面には手のひらから少しはみ出すくらいの小型の機体が映し出されている。それに重なるように各種の指標のグラフが表示されていた。


「具体的には? メディア発表するに当たって、数字の資料ばかりでなく、もっと何かないのか」

「は、転用先の農家のご協力を頂きまして、運用状況の撮影を行いました。それを元に短くまとめたのがこちらです。」


 画面が切り替わり、企業ロゴと『平和を守るための力』というラテン語のモットーが映し出された。それからカットの多い戦場の動画となった。


 そこでは反射のない黒色塗料で塗装されたさっきの機体が羽ばたきながら浮遊していた。フクロウの羽を研究して開発された翼は音を立てず、他の推進機関には見られないほどの機動性をも実現していた。

 落ち着いた女性の声がかぶさり、機体を操作する人工知能は猛禽類、特にフクロウの神経系を複製して製作され、この小型飛翔戦闘体の性能を極限まで引き出していると説明した。


「この前置きはもっとさらっと流そう。もう戦争はほとんどないし、我社のイメージを損ねるだろう」


 画面はさらに切り替わり、今度はゆったりした音楽と、広大な果樹農園の様子になった。月のない夜を表現しているらしい。


 ネズミが現れ、果樹の花や果実をかじった。また、地中のイメージ映像になり、そちらではモグラが根を痛めつけていた。それらは何かの主観映像として表現されていた。


 その主観の主は転用された小型飛翔戦闘体だった。赤外線など各種光学センサーや微小な音を捉えるマイクからの情報を人工知能が分析し、ただのノイズデータと目標とすべき農業害獣を区別した。


 すぐに数匹のネズミを発見し、駆除優先順位をつけると監視していた枝から音のない翼で飛び立つ。機体下部の爪で次々と的確に急所を狙い即死させ、引っ掛けたままごみ処理施設に放り込んだ。


 分かりきっている事とはいえ、その場の皆が引き込まれる映像だった。


「良くできているな。少し手直しはいるが、大体これでいいだろう。進めてくれ」

「ありがとうございます」

「だが、ひとつ聞いていいか。なぜなんだ。なぜ農場に転用された機体のみ幸福度指数が高いんだ?」


「開発が言うには、元がフクロウだからではないかと」


 皆笑った。


「いいえ、冗談ではありません。他にも警備や監視業務などに転用されていますが、爪で対象を攻撃しているのは農業害獣駆除用のみです。害虫駆除は殺虫剤や低出力レーザーですから」

「そんな事が理由なのか」

「はい。実は実験的に投射武装、あ、いえ、失礼。小型の針を射出するオプション装備を試しました。わざわざ近くまで飛んでいかなくてもいいようにです。電池の節約が目的でした。結果はご想像のとおりです。幸福度指数は他の業務と変わらないくらいにまで下がりました」


「猛禽類、特にフクロウを使ったのは開発期間短縮と費用節約のためだったが、そんな影響が残ったとはな。だが、現に効果を上げているし、これから来る戦争のない世界で我社が生き残るためにはこういう方向に転換していかなくてはならないだろう」


 全員が注目する。


「それでは、我々はこの『幸せなフクロウ』を売り込んでいこう」


 画面では、翼を広げ、爪を展開した機体がネズミに襲いかかっていた。


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