sentaku

飛鳥 祐矢

第1話 選ぶのは

「今回で、契約を延長しないことになりました」

エージェントから、告げられた。

非正規、43歳、先が見えない。


仕事、どうしよう。

不安しかない。


今の職場では、人間関係に恵まれず、一緒になった上司とは、仕事以外の会話をしたこともなく、社員同士では、打ち解けて、自分を含む、非正規の人間には、見下したり、自分で手に負えないような仕事をふってくる。


心の底では、ずっとやめたいと思っていた。

だけど、やめたら、生活ができなくなる。


葛藤・・・


非正規、スキルだけが頼り。少ないパイを奪い合う。

おまけに、会社の都合で、必要がなければ、さっさと首を切られてしまう。


そんな立ち位置。


どこで、そうなったのだろう。

そして、これから、どうなるのだろう。


身体に良くないのは、分かっている。

だけど、生きていかないといけない。


『20時、、そろそろか」


微妙なタイミング、駅地下のスーパー、通勤帰りの電車が、大量の人を一気におろす。

そのタイミングを間違えると、「半額」シールのついたお惣菜は、「あっと」いう間になくなってしまう。


2割引きから、半額に・・・

同じようなお考えの人がいるのか分からないが、

そのタイミングで、お惣菜は一気になくなる。


今日も、やっと、半額の、春まきをゲットすることができた。

300円が150円、、この差はでかい。

でも消費税があがったら、それも厳しくなるかもしれない。


自分に栄養を与えるには、いいものを食べないといけない。

分かってはいる。

だけど、それは、無理。

生活で何を削らなくてはいけないかといったら、『食』

最悪、一日パン一食。

だけど、それは、さけたい。

そこまで、みじめになりたくない。


嗚呼、どうして、こうなんだろう。


面接、落ちまくり、今の派遣は、本当にやっとのことで、見つかった仕事だった。

いつも、ぎりぎりのところで、救いの手が差し伸べられる。


どこか、心の奥で、そんな、「何か」を感じることはある。


だけど、人生を振り返った時に、「山あり、谷あり」とはいうけれど、「谷、谷、谷?」「山、山、山」

ああ、どっちでもいいや。


贅沢したいわけではないんだ。


ささやかな収入と、安定した暮らし。

もう、半額お惣菜に悩まない。


そんな暮らしがしたいだけなんだ。


そんな、ある日、

いつもは気にとめもしない

『占い』の文字が、目にとまる。


『占いかあ』


30分、3000円。

痛い、痛すぎる。


だけど、あまりにも、不幸。

これが好転するとしたら、3000円は安いのではないか。


暗い室内、アロマ?お香?何かの香りが漂っている。


「あの・・占ってほしいのですが」

「はい。」


その、女性は、ベールをかけていて、目だけが出ていた。


女性の言われるまま、時が流れていく。

占いって、こういうものだろうか?


「なるほど、この先が不安であると。」

「はい、勤めていた会社も首になり、不安しかありません」


「あなたは、どうしたいですか?」

「えっ?」


正直、びっくりした。

いわゆる、なんというか、「あなたには、こうこうこういう(霊)とか、こういう原因があって、こうなったとか」言われるかと思っていた。


「あなたは、あなたが、思ったままの存在です。今までも、これからも。」


「あなたが、どうしたいか、それによって、この先の未来が決まります」


「どうしたいかといわれても・・・」


「大丈夫、心配しないでください。

あなたは、今までも、やりたいことをやってきました。

あなたが、どの道を選ぼうと、それは、あなたの自由であり、権限です。

人は、何かのせいにしたり、環境のせいにしたりしますが、そうではなくて

あなたが、なりたいものに、あなたはなっただけなのです。」


「そんなバカな、このみじめな人生を自分が選択したなんて、嘘だ!」


沸騰寸前だった。


「もういいです!」と九分言いそうになったその時、


「もし、道に迷ったら」


「あなたの肩に止まって、よりそっている『梟』に、尋ねてみてください』


「え?!」


「あなたは、自分をすごく、低くして、嘆き悲しんでおられるようですが、これまでの人生で、何かに助けられたと思ったことはないですか?

あなたは、すごく幸運な方です。

今までもずっと、その肩によりそっている『梟』のお導きがあったはず。

人生は迷路のようなもの。行き止まりに見えそうでも、必ず、ゴールはあります。

には、それが見えるのです。」


そういって、時間が終了した。


あらためて、女性の言った言葉を繰り返す。


「自分は何になりたいのだろう」

「自分はどうしたいのだろう」


梟がそっと笑みを浮かべているような、そんな気がした。










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