いかにして人々は、

花るんるん

第1話

 「何だね、これは」

 いや、あの。この間の会議の議事録でして。

 「全文筆記なら、誰にでもできるんだよ。小学生にだって。要点を書かなきゃ。要点」

 で、要点筆記をしたら、「大切なところを書いてない」と皆の前で、叱責するんだろ? お前の魂胆は見え透いてるんだよ。

 「何だね」

 いや、あの。

 「『いや、あの』じゃないんだよ、まったく」と皆の前で叱責された時点で、僕は当座、失うものがなくなった。

 いや、自由、自由。

 「当座、失うものがなくなる」ぐらいで、「これだけの自由が手に入る」なら、安いもんだ。

 「そうかな」

 何だい?

 「そもそも、君が自由を手にすることは永遠にないのだから、無意味な問いだ」

 いや、でも、抹茶アイスにするか、シュークリームにするか、それくらい選べますよ。

 「だから、『それくらい』なんだよ。全文筆記のスズキ君。要点が分かってないな」

 抹茶アイス食べたら、幸せな気持ちになります。

 「シュークリームを食べても、幸せな気持ちになるんだろ?」

 そりゃ、まあ。

 「幸せな奴だ」

 ありがとうございます。

 「本当に、幸せな奴だ」

 本当に、ありがとうございます。

 「要点筆記の議事録、明日までに仕上げとけよ」

 はい。『議題 アドロイドは、抹茶アイスまたはシュークリームの夢を見るか』のやつですよね。

 「いや。それは、第1227号会議だ。私が頼んでいるのは、第3854号会議のやつだよ」

 はい。『議題 いかにして人々は、イワシの頭を信じるようになるか』ですよね。『結論 無理』って、やつ。

 「大切なのは、議論の過程なのだよ」

 200ページ近い分量ありますもんね。

 「大切なのは、会議だ。皆で話し合ったということが、大切なんだ。それに比べたら、結論なんて、どうでもいいんだよ。ああ、楽しみだ。会議での検証過程が適当であったか、会議しなくては」


 無駄。

 会議も上司も無駄。

 スズキも無駄。


 「何だね、今のは?」

 フクロウの仕業です。

 「フクロウ?」

 このパソコンとクラウドでつながっているサーバー上のAIですよ。

 「なるほど。本気で腹を立てたら、おとな気ないということか」

 ま、AIの推論の元となるデータは、全社員の愚痴なんですけどね。

 「はばたくか」

 はい?

 「フクロウとともに」

 いいですね。

 「本気か?」

 いえ、全然。

 僕達は生き延びなければならない、どこかで。お前みたいなやつをかわしながら。

 「何だね?」

 できました。第3854号会議の要点筆記。フクロウにクリック一つでお願いできますから。

 「君は何も分かっていない。君が、君自身の居場所を狭めているということを」

 大丈夫ですよ。叱責されやすいよう、適当に間違いを入れる設定にしていますから。

 時間も空間も全ては、僕達に付随する(実際、「達」を僭称するほど、僕に友達はいないけど。ま、お前を「僕達」に入れる気はさらさらないけどな)。全ては、僕達次第で、心地よい世界を。

 「私がそんな狭量だと?」

 違います?

 ほらっ、窓の外には、リアルなフクロウがはばたいています。そろそろ僕達もこんな場所から、はばたきませんか?

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いかにして人々は、 花るんるん @hiroP

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