優雅なトリ様は少し抜けている
サクライ
第1話
「そこだ!!!!!!」
空気が震えるほどの大声に紛れて、なにかが宙を割く音がした。反射的に床に転がってから、その判断が正しかったことを知る。
「……おい、危ないだろ」
「なんで避けるんだ」
「避けるに決まってんだろ」
「この僕のストレスのはけ口にされるんだから大人しく刺さっておけばいいのに」
「ついでにそのまま天国に逝っちゃうだろーが」
ため息をついて壁に刺さった羽を抜いた。指先で摘んだそれは確かにふわふわとした羽なのに、確かにコンクリート製の壁に刺さっていたのだからゾッとする。一体どれだけの強さで投げればこうなるのか。俺の体に穴が開かなくて本当に良かった。
「んで、高貴で素晴らしいジュルク様はどうしてこんなとこにいるんですかねぇ」
「どうしてか、なんて僕が聞きたい。お前のとこの警備役に立たないな」
「一応この国最高峰なんだけどな〜??」
危険人物という意味合いではむしろ警備は成功しているような気がする。会うなり、数年ぶりに出会った友人に凶器を差し向ける男は危なっかしすぎる。
どかりと簡素なパイプ椅子に腰掛けている仕草は、まるで王座にでも座っているかのような尊大なものだ。キラキラとした金髪に端正な顔立ちは、振る舞いに合っていると思わなくはないが、こいつの出身は普通の田舎の村に住むフクロウ族のはずだ。よくもまあそれほど自信たっぷりになれるものだ、とため息を吐く。
「そもそもなんで来たの? 俺に会いに来てくれた?」
「そういうこと言ってて悲しくならんのか?」
「おっそういう返し方する?俺結構ガラスのハートよ??」
「うるさい。俺が来たのは、王が俺をお呼びだったからだ」
無造作に投げて寄越された封筒には、見慣れた蝋封がされている。一言断って開いた手紙も、たしかに王の直筆のようだ。直々にお呼びとはまた。
「そもそもなんだ、お前側近のくせに聞いてないのか」
「俺はこの間まで遠征に行ってて帰って来たばっかり、休暇中だったんだよ」
「ほーう。どうだ戦況は」
「最悪だよ。ネコ族相手に大苦戦。だから暴れ鳥のお前が呼ばれたんだろうよ」
チラリと見た中身には、『貴殿こそがこの国の切り札』だとかなんとか書いてある。俺たちはただの兵なわけだ、とは思わなくはないが、プライドエベレスト野郎のこいつを呼び寄せるにはそれぐらい書くのも然り。
「それでなんでこんなとこに連れてかれて、俺が呼ばれてんの?」
「何故か通してもらえなかった。お前を呼べばなんとかしてくれると思ってな」
「へ、へえ」
これは実は頼りにしてもらえてたりしているんだろうか。俺今頼られてる? ほころびかけた口元は、どうしたんだ変な顔して、という一言に搔き消える。お前から見りゃ大体の顔が変だろうよ。
「あー、なんて言ったのさ」
「手紙を見せて、種族と名前を名乗ったぞ?」
「じゃあなんでここにいるのさ」
「だから俺が聞きたい」
思いため息が二重にこだまする。原因が全くわからない。ただただ、ミスだろうか。いや、でもな。この友人は少し間の抜けたところがあるしな。
ヒントにならないかと思い返した思い出は、俺が焼かれそうになったり、俺が溺れかけたり、俺が危うく犯罪者に間違われたり、国際問題に発達しかけたり…… よそう。これ以上思い出しても余計な悪夢が増えるだけの気がする。
「……あ、」
「なんだ、分かったのか」
「もしかしてさ、“フクロウ族”って名乗った?」
「もちろんだが」
「だからだよ!!」
わけがわからないと眉を潜めた友人は相変わらずらしかった。
「戸籍上は、ミミズク族だろお前!!フクロウ族の中のミミズク族!!まぁた忘れてたな鳥頭め」
「お前だって鳥だろ!……そうだったか?」
「そうだよ。何度間違えたら気が済むのかねぇ」
「……くそ、すまなかったな」
「いいよ。早く王のとこ行こうぜ。んで飯食おう。昼飯まだなんだ」
「分かった」
立ち上がり身なりを正す友人を見て、改めて代わりのなさに安堵する。全くこうも変わらないものか。俺は少し老けた気がする。
懲りずに思い出に浸る俺に気づいたのか、この国の切り札のフクロウ、いやミミズク様は、眉を潜めた。
優雅なトリ様は少し抜けている サクライ @sakura_kura
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