第545話 弓月の刻、今後の方針を決める
「ま、リアビラにはそのうち行くとして、次はダンジョンマスターの事についてだね」
そこは避けては通れない道ですが、今すぐにリアビラに行くわけではありませんからね。
まずはリアビラの状態を確かめ、頃合いを見計らう所から始める事が決まりました。
幸いにもリアビラに詳しい人がこの街にいますからね。その方からリアビラの事を聞くのもいいと思います。
といっても、スノーさんから上がった話もすぐには解決しなかったりもします。
「改めて思い返しても、簡単な条件なようで難しい条件ですよね」
ダンジョンマスターになるための条件はエル様に教えて頂きました。
そして、その条件は光の龍神様が大きく関係していたのです。
「まさか、ダンジョンを作ったのは光の龍神様だと思わなかったなー」
「それだけ大きな力があるという事にも驚きです」
そうなんですよね。
ガンディアにあったダンジョンとナナシキにあるダンジョンの創造主は光の龍神様らしいのです。
しかも、それだけではなくこの世界にあるダンジョンの全てに光の龍神様が携わっているとエン様は言っていました。
どうやら光の龍神様は他の龍神様と比べて様々な能力が頭一つ抜けているようで、龍人様の中でリーダーみたいな立場らしいのです。
「問題はその龍神様が何処に居るかなのですよね」
「うん。誰も居場所を知らないと言うから困った」
どうやらダンジョンマスターの交代は光の龍神様にしか出来ないらしく、ターディス様は光の龍神様に直接ダンジョンマスター任命されたような形みたいです。
といっても、本人はいつのまにかダンジョンマスターになっていたらしく、光の龍神様には会ってはいないみたいですけどね。
「私と同じようなものだなー」
「確かにそうかもしれませんね」
サンドラちゃんがダンジョンマスターになった時は、龍人族の人に狙われ、命からがらナナシキのダンジョンに逃げ込んだのが始まりでした。
実際には一度命を落としたみたいですが、もしその時にダンジョンマスターに任命されていなかったら、今この場に存在していないと思います。
ターディス様もそうですね。
甥であるソティス様の病気を治す方法を探していたらダンジョンに迷い込み、そこで命を落としかけたのが始まりでした。
その時にたまたまエン様がターディス様をみつけ、たまたまエン様の元を訪れていた光の龍神様がターディス様をダンジョンマスターに任命し、命を救ったのがターディス様のダンジョンマスターとしての始まりのようです。
「厄介なのは光の龍神様が既に起きていて、移動しているって所だよね」
今の所、僕たちは水、風、炎の龍神様と出会い、加護を頂いているのですが、どの龍神様も出会った場所を拠点にしていました。
まぁ、エン様は別ですが水と風の龍神様は僕が行くまで眠っていたので動けなかったというのが理由でしたけどね。
ですが、光の龍神様は違います。
スノーさんの言った通り、光の龍神様は既に目を覚ましていて、何を目的にしているのかはわかりませんが、人の姿で行動しているらしいのですよね。
「何処かで会っていたりするかもしれませんね」
「それはないとは思いますけどね。龍神様の反応は魔物と同じ反応ですし、あれだけの存在感があれば絶対に気付くと思います」
探知魔法をみれば一発でわかりますからね。
探知魔法は街とかでも使用しているので、すぐに気付く自信があります。
「それじゃ、私達が行った事のない場所に今は居るのかな?」
「魔族領とか?」
「その可能性はありえますね」
魔族領は可能性が低いとは思いますけどね。
これは聞いた話になりますが、魔族は龍神様を崇拝していないようで、代わりに邪神……まぁ、レンさんですね。
そっちを崇拝しているらしいですから。
「それじゃ、ルード帝国も探さなきゃならないのかー?」
「そうなりそうですね。もしくは、先に闇の龍神様を探し、そこから情報を得るかです」
「それが一番早いと思う」
「すんなりと闇の龍神様を探せればだけどね」
「リアビラが関わっている時点で何かしらは起こると思うの」
間違いなく何かしらは起こるでしょうね。
リアビラの上層部と言えばいいですかね?
その方達には僕たちの情報は伝わっている筈ですので、そんな僕たちがリアビラへと行ったら、必ず何かしらの行動をしてくると思っています。
かなり恨みを買っている筈ですからね。
「とりあえず、私がダンジョンマスターになれるのはまだまだ先になりそうかな」
「そればかりは仕方ないと思うの」
「出来れば早いうちになりたいけどね」
「何で?」
「出来れば若いままでいたいじゃん。私だけ年をとっていくのは嫌だよ」
「別にそんな事でスノーを省いたりしない。だから、安心するといい。スノーおばちゃん」
「そうなるのが嫌なの!」
女性にとって見た目の若さは大事ですからね。
キアラちゃんはエルフなので当然ですが、シアさんのお母さんであるイリアルさんも僕のお母さん達もそうですが、それなりに年を重ねているのに未だに見た目はかなり若いままです。
それを知っているからこそスノーさんは焦っているみたいです。
このままだとこの中で老けていくのはスノーさんだけですからね。
「ちなみにサンドラちゃんはどうなのですかね?」
「なー?」
「ほら、サンドラちゃんは小さいじゃないですか、ずっとその大きさなのかなと思いまして」
「なー! 小さい言うなー!」
そうは言っても、僕よりも小さいですからね。
見た目の年だけをみれば十歳くらいにしか見えません。
まぁ、僕も成人としてみられた試しがないので大して変わりませんけどね。
「確かに気になる。サンドラはそれ以上は成長しないの?」
「私は常に成長してるぞー。龍神様に加護を授けて頂いているからなー」
「中身はそうかもしれませんけど、外見の変化はありませんよね?」
「あるぞー! よくみとけー!」
そう言って、サンドラちゃんは両手をぎゅっと握ると、なななー! っと全身に力を込め始めました。
すると……。
「どうだー?」
「大きくなりましたね」
「私と同じくらい」
なんと、背が一気に伸び、顔つきも大人っぽくなり、可愛らしい見た目から美しい女性へとなりました!
しかも変化はそれだけではありません。
頭に生えている翼も二回り大きくなり、尻尾も地面につきそうなくらいに太くなって伸び、胸も……むむむ。
シアさんくらいまで大きくなっています。
「これで馬鹿にされないぞー?」
でも、口調は変わらないのですね。
あの見た目で間延びした喋り方は凄く違和感があります。
「凄いですね。それが龍神様から貰った加護の影響ですか?」
「うんー。エン様から加護を頂いてから出来るようになったなー」
魔法の適性が増えたりするだけではないのですね。
これはまだまだ色々と調べる価値はありそうですね!
「な~……疲れたぞー……」
「大丈夫ですか?」
「うんー。ちょっと魔力を持っていかれたくらいだなー」
サンドラちゃんが元の姿に戻りました。
どうやら見た目を変化させるのは大変みたいで、見た目の変化には魔力を消費するみたいです。
獣化や龍化と似たような感じですかね?
「だけど、サンドラちゃんはその大きさが一番いいと思うの」
「うん。その大きさが一番可愛い」
僕もそう思います。
無理に大きくなって魔力を無駄に消費する必要はないですし、今のサンドラちゃんが一番可愛いですからね。
「それで、結局サンドラちゃんはこれから大きくなるのですかね?」
「それはあまり期待できないと思うぞー?」
「どうして?」
「私の本来の姿は龍の姿だからなー。あれが成龍の大きさだと思うー」
それでもかなり大きいですけどね。
僕たち四人を乗せてもまだまだ余裕があるくらいの大きさはありますからね。
そう考えると、サンドラちゃんは常に人化をした状態とも言えるのですかね?
それなら、今の状態から体の大きさを変えるのは大変なのだとわかりますね。
僕でいえば、獣化してそこから更に体を変化させるようなものですからね。
今の所はそんな自由には変化は出来ませんけどね。
「とりあえず、今後の方針は決まりましたね」
「うん。まずはリアビラの情勢を探る。その辺りはおとーさんが詳しいから聞いておく」
「それと光の龍神様の情報も探さないとなー」
「そっちはユアン達に任せるよ」
「私とスノーさんはミレディさんの住む場所と工房を決めておきますね」
ざっくりとですが、こんな感じですね。
「それでは、僕達はやる事があるので先に失礼しますね」
「やること? そんなに仕事が忙しかったっけ?」
「そんな所ですね」
チヨリさんにローラちゃんを任せきりになってしまっていますからね。
まぁ、今回は別件ですけどね。
またとある人に呼び出されてしまいましたからね。
「それじゃ、行きましょうか」
「うん」
「楽しみだなー」
「いいなー……」
「えっ、何々? 私以外みんな知ってるの?」
「そうですね。ですが、大丈夫ですよ。スノーさんもすぐに関係しますからね」
「凄く気になるんだけど!」
「明日にはわかる。スノーは大人しく待ってる」
「そういう事なら待ってるけど……なんか怖いんだけど」
いい勘をしていますね。
「大丈夫ですよ。危険はありませんからね」
「逆に不安なんだけど!」
「もぉ、スノーさんは心配し過ぎだよ。それよりも私達はお仕事だよ。やる事が山積みなんだから」
「えっ、それは明日からじゃないの?」
「今からでも出来る事はあるよ。ちゃんと仕事は持ち帰ってきましたから」
にっこりとキアラちゃんが微笑みました。
スノーさんはそれを聞いて、真反対の表情を浮かべていますね。
何だかご愁傷様です。
「では、お仕事頑張ってくださいね!」
キアラちゃんがスノーさんの相手をしているうちに、僕たちは逃げるようにリビングから移動をしました。
そして、僕とシアさん、そしてサンドラちゃんはとある場所へと向かいました。
スノーさんを驚かせるために。
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