第533話 弓月の刻、ドワーフ王と対談する

 「とりあえず、魔力酔いは治してしまいますね」

 「わりぃな」


 悪いのは僕ですけどね。

 模擬戦とはいえ、ちょっとやり過ぎた感は否めませんから。


 「どうですか?」

 「ちょっと変な感覚だったが問題ない」


 良かったです。

 これで、ドワーフの王様まで搾取ドレインを気に入り、トーマ様みたくなってしまったらどうしようかと思いましたが、その心配はなさそうです。


 「治してもらったならさっさと起きろ」

 「ちっ! おい、てめぇ親に向かって何しやがる!」

 「うっせぇ! 嬢ちゃん達に無理言って時間作って貰ってるのはこっちだろうが!」

 「あぁん? てめぇには関係ねぇだろうが!」

 「嬢ちゃん達は俺の恩人なんだから関係あるに決まってんだろ! ちったぁ考えろボケっ!」

 

 あー……心配ないと思いましたが、別の問題が早速発生してしまいましたね。

 ロイさんが王様を蹴飛ばすと、それに怒った王様が勢いよく立ち上がり、ロイさんの胸倉を掴んで言い合いにになってしまったのです。


 「止めなくていいの?」

 「んー……いいんじゃないですか? 案外あれってロイさん達なりのコミュニケーションなのかもしれませんし」

 「違うと思うんだけど」

 「でも、間に入って止めたくはないですよね?」

 「それは遠慮したいかも……」

 「相当勇気がいるだろうなー」


 しまいにはお互いに殴り合いが始まってしまいましたからね。

 ですが、二人を見ているとやっぱり親子だとよくわかります。

 仲が悪いのは本当みたいですが、どうしても怒り方とかがそっくりなのです。

 

 「いい加減にしやがれっ!」

 「いってぇな!」


 王様と実際に模擬戦をしたのでわかりますが、王様は結構強いです。

 ですが、流石に連戦した後ですし、何よりも現役の冒険者であるロイさんには敵わないようで、ロイさんの鋭いパンチで王様が転がりました。

 それでも立ち上がる辺り、結構タフですよね。

 っと、いつまでも見ている訳にはいきませんね。


 「あの、まだ続きそうですか? 続きそうなら日を改めますけど?」


 二人の距離が離れた隙を見て、僕は間には割って入りませんが、ロイさんにそう尋ねました。


 「親父しだいだ……おい、どうすんだ?」

 「仕方ねぇな。ロティ、この決着は後でつけるから覚えておけ!」

 「あいよ。嬢ちゃん達、済まなかったな」

 「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、ロティというのは……」

 「俺の愛称だ。ロイは冒険者として活動をしている時に使っている」


 ロイさんも冒険者の時は名前を変えていたのですね。

 どうやら本名はロティスと言うらしく、そこから愛称がロティとなっているみたいですね。


 「まぁ、俺の話はいいだろう」

 「そうでしたね」


 と言っても、僕から話す事は特にありませんので、僕たちの視線は自然と王様へと移りました。


 「なんだか、俺が悪者みてぇじゃねぇか」

 「実際にそうだろう。嬢ちゃん達の模擬戦に勝手に参加して混乱させたんだからな」

 「そうだけどよ、別に迷惑ではなかっただろ?」

 「あ、はい。迷惑ではなかったですよ」


 というよりも、迷惑だなんて言えるはずがありませんよね。

 ここで迷惑だと言ってしまったら、僕たちが王様をボコボコにした理由に繋がってしまいそうですからね。


 「だってよ」

 「ちっ! 本当に済まないな。親父に道楽に付き合わせちまって」

 「いえ。僕たちは大丈夫なので気にしないでください。それよりも……」


 むしろ、王様が僕たちが遠慮なくボコボコにした事を気にしていないのならそっちの方が助かりますね。


 「あぁ、そうだったな。親父、いい加減挨拶くらいしろ」

 「いちいちうるせぇな! 今からしようと思ってたんだよ!」

 「なら早くしろよ」

 「わかってるよ! ……あー、知っての通り、俺がこの国の王だ。名前はノルティス・ガンディア。ノットでも呼んでくれ」

 「ノルティス様ですね。僕はユアン・ヤオヨロズです」


 これも恒例となりましたね。

 こういった時は、僕が代表となりみんなを一人一人紹介するようになりました。

 僕が名前を挙げて紹介し、みんなが一言挨拶するという形です。

 

 「なんだ、お前ら結婚してんのか」

 「はい。シアさんは僕のお嫁さんです」

 「そうか。大事してやれよ」

 「はい、勿論です!」


 良かったです。

 どうやらノット様は女性同士の結婚を否定する人ではないみたいですね。

 中には禁忌といって、嫌な顔をする人もいるみたいなので、少しだけ不安でしたが安心しました。


 「それよりも場所は移さねえのか?」

 「あん? なんでだよ」

 「別に親父の威厳なんてどうでもいいけどよ、相手は大事なお客様だぜ? 普通もてなすだろ」

 「いちいちめんどくせぇんだよ。堅苦しくなった話も進まねぇし」

 「ったく……嬢ちゃん達、悪いがこの場所でもいいか? 親父に悪気はねぇんだ」

 「あ、はい。僕たちは気にしないので大丈夫ですよ」


 むしろ、こっちの方が気楽でいいです。

 

 「すまねぇな。ほら、続けろ」

 「おめぇが話の腰を折ったんだろうが!」


 最早ここまで来ると仲良く見えてきますね。

 本人たちは否定しそうですが、思った以上に関係は悪くなさそうで良かったです。

 だって、お互いに言いたい事を言いあえる仲ってなかなかありませんからね。

 という事で、王様との対談は模擬戦をしたこの場所で行われる事になりました。


 「それじゃ、まずはあの件からだな。ロティ、少し後ろを向いて耳を塞げ」

 「あいよ。嬢ちゃん達も同じようにしてくれ……ユアンの嬢ちゃんはやらなくていいからな」

 「はい? わかりました?」


 僕だけやらなくていいのですね?

 何をするつもりかわかりませんが、ロイさんの指示に従い、シアさん達は後ろを向いて耳を塞ぎました。

 

 「これで大丈夫ですか?」

 「うむ。問題ないだろう」


 僕の質問にノット様は静かに頷き、背筋をピンと伸ばしました。

 そして。


 「この国の王として、また父としてソティの病を治してくれた事に感謝致す」


 僕に向かって深く頭を下げました。


 「あ、いえ! たまたま僕が治せただけなので、気にしないでください!」


 まさか頭を下げられるとは思いませんでした。

 王様が頭をさげるなんて普通はありませんからね!

 だけど、それで納得しました。

 この姿を誰にも見せないために、ロイさんも含めみんなに後ろを向かせたのですね。

 そして、場所を移さなかったのもきっとこうするためです。

 他の場所ですと、メイドさんや兵士などが傍に居たりしますし、王様との対談とあれば、どんな事を話したのか、どんな行動をとったのだとかを記録したりするのです。

 なので、敢えてこういう形で非公式な対談となるようにノット様はこの場所にやってきたのだと思います。

 それを考えたのは多分ロイさんですけどね。

 

 「礼は別の形で返させて貰うがいいか?」

 「はい。ですが、僕としてはお礼は既に済んでいると思っているので、高価な物とかは要らないですからね?」

 「わかった。邪魔にならないものを考えておく」

 「ありがとうございます」


 お礼の言葉で十分ですからね。

 ですが、王様からの褒美を受け取らないと逆に失礼にあたりますので、僕はそう伝えました。


 「もういいか?」

 「あ、はい。大丈夫ですよ。みんなも振り向いて丈夫です」

 「わかった」


 耳を抑えていた手を離し、みんなは振り向きました。

 というか、完全に聞こえていますよね。

 流石にノット様が頭を下げた事は見えていないと思いますが、話が筒抜けだったと思うのであまり意味ないと思うのは僕だけでしょうか?

 ともあれ、これで対談も終わりですかね?


 「それじゃ、本題にはいるぞ」

 「え、終わりじゃないのですか?」

 「当たり前だ。まだ、何も話してないだろうが」

 

 てっきりソティス様の件だと思っていましたが、違うみたいですね。

 だとしたら何でしょうか?

 思い当たる節が全くありません。

 すると、ノット様は僕から視線を外し、鋭い視線でシアさんを見ました。


 「お前、ミレディに剣を直してもらったな?」

 「私?」

 「そう、お前だ」

 「うん。直してもらった。それが何?」

 「…………ミレディの様子はどうだった?」

 「頑張ってた」

 「楽しそうだったか?」

 「うん。凄く」

 「そうか……」


 ノット様の目元が緩みました。

 

 「えっと、ノット様はミレディさんの事を知っているのですか?」

 「当然だ。この国で知らねぇ奴はいねぇよ」


 まぁ、あれだけ他の鍛冶師に人気があったくらいですし当然ですね。

 

 「ですが、どうしてノット様がミレディさんの心配をするのですか?」

 「別に心配なんてしてねぇよ。ただ、ちょっと気になっただけだ」


 むむむ?

 それなのに、わざわざシアさんにミレディさんの事を聞くのは変ですよね?

 しかも、その話を聞くためにわざわざ僕たちの所にやってきたくらいです。

 何かあるに決まってますね。

 そして、その予想は当たりました。

 暫く考え込むようにしていたノット様が顔をあげると、真っすぐに僕を見て口を開きました。


 「ユアン殿の街はいい所か?」

 「はい。傍からみたらわかりませんが、僕たちはどの街よりもいい場所だと思っていますよ」


 色んな種族の人が集まり、みんなで協力していますからね。

 差別もなく、みんな平等というのはとてもいい事だと思っています。


 「そうか。だったら、ミレディをユアン殿の街に住まわしてやってくれねぇか?」

 「え? ど、どういう事ですか?」

 「そのままの意味だ。この国を出る時、ミレディを一緒に連れて行ってやって欲しい」


 ノット様の口から予想外の言葉が飛び出ました。

 僕としては優秀な鍛冶師がナナシキに居るのは凄く有難い事です。

 ですが、ミレディさんの気持ちもありますし、ミレディさんを失うという事はガンディアの大きな損失とも言えます。

 なので、僕はその理由を詳しく聞く事にしました。

 それを聞かない事には判断できませんからね。

 無いとは思いますが、ミレディさんが実は極悪人という可能性もあります。

 流石にそうだとしたら、僕たちだって受け入れる事は出来ません。

 そして、王様の口からミレディさんの事が語られました。

 

 「ミレディはな、俺の弟の娘なんだ」

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