第523話 補助魔法使い、刀と語り合う
「ここなら、大丈夫ですかね?」
僕たちが外にいてもミレディさんは気付いたので少し不安ですが、ミレディさんが近くに居ないと刀の変化には気付かないかもしれませんので、僕はその場で収納魔法から刀を取り出しました。
「ん……これは、怒っているのですかね?」
なんとなくですが、そう感じました。
実際はわかりませんけどね。
ですが、このままにしておくとまたミレディさんに迷惑をかけてしまいそうなので、僕は刀を抜きました。
「改めて見ると、綺麗な刀身ですね」
今まで意識して見てこなかったからですかね?
シアさんの剣とはまた違う漆黒の輝きに目を奪われました。
黒なのに輝きって変ですけどね。
「わっ! えっと? もしかして喜んでいるのですか?」
刀を抜き、刀の事を褒めてあげると、僕の意志とは関係なく刀が握るの手の中でカタカタと震えはじめました。
ミレディさんが意志があると言っていましたが、本当だったみたいですね。
「けど、勝手に動くというのはちょっと怖いかもしれません」
すると、今度は今度はピタリと震えが止まりました。
その代わりに、少しだけ不穏な空気が流れ始めた気がします。
「今度は拗ねちゃったのですかね?」
僕の言葉で一喜一憂してるように思いました。
なんだか、手のかかる子供みたいで大変です。
っと、またそんな事を考えると僕の考えが伝わって、怒っちゃうかもしれませんね。
「刀さん、今まで刀さんの気持ちを考えず、淋しい想いをさせてしまってすみませんでした」
傍からみると今の僕は変な人に見えるかもしれませんね。
だって刀をジッと眺めながら、刀に謝っているのですから。
ですが、他の人になんと思われようが関係ありません。
僕は刀さんに正直な気持ちを伝えます。
「正直な所、僕は剣士としての腕前はひよっこで、刀さんの扱いは下手だと思います。きっとこれからも迷惑をかけると思います。だけど、刀さんの事は大事に扱いますので、この先も僕に力を貸して貰えないでしょうか?」
都合のいい事を言っているのは十分に承知しています。
だけど、これが僕の本心です。
「えっと? 許してくれるのですか?」
カタカタッ。
刀が頷くように二回震えました。
それに加え、不穏な空気が静まり、逆に優しい空気を感じた気がします。
どうやら許して貰えたみたいですね。
けど、ここからが大事です。
「それで、刀さんはどうしたいですか?」
当然ながら返事は返ってきません。
まぁ、刀は喋れないから仕方ありませんけどね。
それでも、問いかけて返事を頂けることはわかりました。
なので、僕は幾つかの選択肢を刀さんに提案します。
「収納魔法にしまわれるのは嫌ですよね?」
カタンッ。
頷くように一度だけ縦に刀が振るえました。
「僕の腰に差すのはどうですか?」
カタカタカタカタカタッ!
それがいいと言っているみたいですね。
刀さんから溢れる空気が喜びに満ちている気がします。
本当にそう言っているのかはわかりませんけどね。
それでも、僕と一緒に居たいと言ってくれている事はわかりました。
「わかりました。これからは、収納魔法ではなく、僕の傍に居て貰いますね」
はーい! と刀さんから返事がありました。
これで一件落着ですかね?
いえ、これだけではダメですね。
何がダメと言うと、刀さんを刀と呼ぶのがダメな気がします。
「刀さんには名前はありますか? ないのですね?」
どうやら刀さんに名前はないみたいです。
「それなら、呼びやすい名前を考えてもいいですか?」
大丈夫みたいですね。
むしろ、急かすように今日一番の震えが手から伝わってきます。
しかし、ここで問題が発生しました。
僕って何かの名前を考えるのは苦手なのですよね。
サンドラちゃんに関しては割と即席ながらいい名前になったと思いますが、やっぱり名前を考えるのは苦手です。
「なんでもいいのですか? ダメですよ。ちゃんと刀さんが気に入る名前で、僕が呼びやすい名前じゃないと」
名前は大事ですからね。
「僕につけて貰えれば問題ないって? そこまで信用されても困りますよ」
それでも刀さんは何でもいいと言って聞きません!
「ちなみに、お母さんからは何て呼ばれていたのですか? 呼び名はなかったのですね。だから、尚更僕に名前をつけて欲しいと……」
だからこんなに喜んでいるのですね。
シノさんの名前も考えていなかったみたいですし、意外とお母さんっていい加減だったりするのですかね?
まぁ、何かしらの理由があるのかもしれないので、一概には言い切れませんけどね。
けど、困りましたね。
もし前の名前があったらその名前を参考にできそうでしたけど、どうやらそれは出来ないみたいです。
まぁ、その場合は○○二世とかになったかもしれませんけどね。
「あっ! 冗談ですよ! そんな名前をつけたりしませんので安心してください」
流石にそれは嫌みたいですね。
僕だって嫌です。
仮にですけど、僕の名前がアンジュ二世だったりユーリ二世だったら変だと思いますからね。
「やっぱり、ここは刀さんの見た目から決めましょうか」
サンドラちゃんがそうでしたからね。
赤色の綺麗な髪と頭に生えた翠色の羽がアレキサンドライトという鉱石から連想しました。
となると、刀さんは漆黒にの刀身からイメージするのがいいですかね?
「シンプルにクロなんてどうですか? え? ダメなのですか? さっきまで何でもいいと言っていましたよね?」
ですが、クロは駄目だと言われてしまいました。
むむむ……意外と我がままかもしれませんよ?
すると、そんな事はないと強く否定されてしまいました。
まぁ、ハッキリと嫌なものは嫌と言ってくれる方が僕としてもありがたいですけどね。
「ユアン、何してる?」
「あ、シアさん」
刀さんと話していると、隣の部屋からシアさんがやってきました。
どうやら様子を見に来たみたいですね。
「今は刀さんに名前をつけている所ですよ。仲直りしたので!」
「知ってる。ミレディがいい雰囲気になったと言ってた」
やっぱり伝わる物なのですね。
僕もそう思っていましたが、ミレディさんにそう言って頂けるのであれば、安心できます。
「でも、何で名前?」
「もっと仲良くなりたいなと思っていまして」
「それはいい事。だけど、さっきから独り言が凄い。だから心配になった」
シアさんは僕が変になったと思って様子を見に来てくれたみたいですね。
「大丈夫ですよ。ただ刀さんと会話をしているだけなので」
「会話? ユアンは刀の声が聞けるの?」
「聞こえますよ……あれっ?」
そういえば、さっきから会話が成り立っている気がしますね。
「どうしたの?」
「いえ、いつから会話が出来るようになったのかなと思いまして」
「気付かなかったの?」
「はい。気づいたら会話してました」
そういえば、刀さんもいつのまにか振るえたりして伝えようとしてこなくなりましたからね。
まぁ、僕に声が届けばその必要はないとは思いますけどね。
それにしても不思議です。
「気にする事はない。会話が出来るのはいい事」
「そうですよね。ちなみにですが、シアさんの剣に名前はあるのですか?」
「名前はない。強いて言えばユアンと私」
「シアさん?」
「ごめん。だけど、名前はないのは本当。ただ、相棒と呼んでる」
相棒ですか。
それはそれで信頼しているようでいい呼び方ですね。
だけど、折角なら呼び名はあった方がいいと思います。
「シアさんもこの際ですし、剣に名前をつけてあげたらどうですか?」
シアさんの剣も生まれ変わりますからね!
「そうする。ユアンは何て名前をつけるの?」
「まだ決まってないです。クロさんと名付けようとしたらダメだと言われてしまいましたので」
「まだ途中?」
「そうなりますね」
「なら、一緒に考える。いい名前つけてあげよ?」
「はい!」
そこから僕とシアさんは僕の刀とシアさんの剣の名前を考える事にしました。
「この名前でどうですか? うん、うん……なら決まりですね!」
結構な時間が経ってしまいましたが、シアさんの協力もあって刀さんの名前は決まりました!
刀さんもその名前がいいと言ってくれたので、これで決まりですね!
「では、今日から刀さんの名前は……」
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