第516話 弓月の刻と火龍の翼、兵士に待ち構えられる
「そういえば、ユージンさん達はどうしたのでしょうか?」
「あ……完全に忘れてたよ」
「私も」
「私もです……」
「そんな約束してたかー?」
「していましたよ。後で合流しようって言っていましたよね?」
「なー? そうだったかー?」
「してた」
僕の勘違いではないみたいですね。
サンドラちゃんは覚えていないみたいですが、分かれる前にそんな話をした記憶があります。
「でも、もうこっちに戻ってきちゃったしまた戻るのはね?」
「うん。面倒」
スノーさんとシアさんはそう言いますが、約束でしたからね。
僕たちは宿屋の方に戻ってきてしまいましたが、今も向こうで僕たちを待っている可能性は十分にあり得ます。
「それなら、私が連絡しておきますね」
「お願いします。一応、謝っておいてくださいね?」
「うん。そこまで気にしなくても大丈夫だと思うけどね」
僕も大丈夫だとは思いますけどね。
ユージンさん達なら笑って許してくれる自身が不思議とあります。
だからといって、約束を破ってしまった以上は一言でも伝えておいた方がいいと思います。
「魔鼠に伝えてもらったよ」
「ありがとうございます。ですが、魔鼠さん達で伝えられますか? ユージンさん達は魔鼠さんの言葉はわからないですよね?」
「平気だよ。お姉ちゃんたちに付いている魔鼠はカタコトだけど喋れる子ですから」
「魔鼠さんの姿で喋れる子が居るのですね」
それは驚きですね。
人化した魔鼠さんが喋れるのは知っていますが、魔鼠さんの姿で喋れる子はラディくんを除けば初めてかもしれません。
それだけ魔鼠さん達も成長しているという事ですね。
ですが、これで一安心ですね。
もう一度後で謝るにしても、これでユージンさん達が何も知らずに僕たちを待ちつづけるという事は避ける事が出来そうです。
なので、僕たちはそのまま宿屋へと戻る事にしました。
「あれ、何かあったのですかね?」
通行人の邪魔にならないように手を繋ぎながら宿屋へと戻ると、僕たちの視界にはドワーフの兵士さん達が集まっているのが見えました。
しかも、僕たちの泊っている宿屋の前で入口を塞ぐようにして集まっているのです。
「強盗でも入ったのかな?」
「そうだとしたら物騒ですね」
「従業員が心配」
「私達に出来る事があればいいのですけどね」
「燃やすくらいしかできないなー」
サンドラちゃんもそろそろ別の戦い方を覚えた方がいいかもしれませんね。
流石にその発想は良くないと思います。
確かにサンドラちゃんの扱う火属性魔法は強力ですが、逆にそれしか出来ないのは弱点にもなりますからね。
っと、それはまたの機会に考えるとして、今は目の前の問題を解決しないといけませんね。
「すみません、何かあったのですか?」
兵士の数は十人ほど居ましたが、その中の一人、出来るだけ暇そうにしている人を選び僕は声を掛けました。
「お騒がせしてすまないな」
「いえ、僕たちは問題ありませんよ。それよりも、宿屋の人達は大丈夫なのですか?」
「これといって問題はないから安心してくれ」
「強盗が立てこもっているとかではないのですね?」
「そんな事件ではないよ」
状況はわかりませんが、兵士さんがそう言うのなら大丈夫なのですかね?
とりあえずは、大きな事件とかではないようです。
それなら、どうしてこんなに兵士さんが集まっているのでしょうか?
それを尋ねようとした時でした。
「失礼だが、君たちが火龍の翼殿か?」
この中の隊長さんですかね?
集まっていた兵士さんの中で一番強そうな人が僕たちに声を掛けてきました。
「いえ、僕たちは弓月の刻というパーティーですので違いますよ」
「そっちだったか」
そっち?
という事は、僕達の事を知っているということですかね?
知らないなら知らないと言うはずですからね。
どうみても反応は僕たちを知っているように思えます。
「えっと、僕たちに何か用ですか?」
「その通りだ」
隊長さんらしき人は僕の質問に頷きました。
ですが、それ以上は答えてくれず、僕たちの反応を伺っているようでした。
これは話を聞かないと更に面倒な事になりそうですね。
「何の用ですか?」
「それは答えられない、というよりも知らない。俺達はただの案内役だからな」
案内役ですか。
となると、この兵士さん達は誰かの指示で僕達の所に来たという事ですね。
案内と言うくらいですので、危険はなさそうに見えますが、かといってそれを信用する訳にもいきませんね。
もしかしたら、口ではこう言っているだけで、実際には僕たちを捕まえに来ている可能性だってあり得ますからね。
「申し訳ありませんが、誰からの使いでしょうか?」
「それは答えられない」
「どうしてですか?」
「大きな騒ぎにしたくないからだ」
もう手遅れだと思いますけどね。
これだけの兵士さんが集まっていれば嫌でも目立ちます。
実際に何事だと様子を遠くから見守っている人の姿がちらほらと見えます。
「目的は?」
「知らされていない。俺達はただ、貴殿達と火龍の翼殿達を案内するように命令を受けただけだからな」
んー……やっぱり面倒な事になりましたね。
どうやらこの兵士さん達は誰かの指示で僕たちの所にきて、その人の元に僕たちを案内するのが役割のようです。
しかし、僕たちにも火龍の翼のみなさんにも敬意を払っているようには思えますね。
だからといって、素直についていく訳にはいきませんね。
「えっと、もし断ったらどうしますか?」
「どうもしない。その時は俺達が命令を遂行できなかっただけになるから気にしないでくれ」
それはそれで可哀想ですよね。
今の所、この兵士さん達は仕事をしているだけで、僕たちに危害を与えた訳ではありません。
それなのに、上の人から怒られるとなれば申し訳なくなります。
「どうしますか?」
「ユージン達を待つ。そこから決めればいい」
「そうだね。用があるのは私達だけじゃないし、そこから決めてもいいんじゃない?」
「私もそう思います。ここでバラバラで動くよりはいいと思うの」
それが一番ですかね?
ここで勝手な行動をした結果、ユージンさん達に迷惑をかけてしまうかもしれません。
「話は聞こえていたと思いましたが、もうすぐ火龍の翼の皆さんが戻ってくると思いますので、それまで待ってもらうことは出来ますかね?」
「少しくらいなら問題ない」
「それなら、そういう事でお願いします」
「わかった。俺達は外で待つ、答えが出たら声を掛けてくれ」
どうやら身柄を拘束される訳ではないみたいですね。
隊長さんらしき人にユージンさん達が戻るまで宿屋で休みたいと伝えるとあっさりと許可出ました。
しかも、探知魔法を使って兵士さん達の行動をこっそりと観察しましたが、宿屋の裏口を兵士さんで固めたりする様子もありません。
本当に僕たちを案内しに来ただけのようですね。
そして、暫くするとユージンさん達も宿屋に戻ってきました。
「嬢ちゃん、また何かやらかしたのか?」
「違いますよ! 今回はユージンさん達だと思いますよ!」
「俺達? 別に俺達は何もしていないぞ? まぁ、理由は大体察しているけどな」
やっぱり今回はユージンさん達が原因じゃないですか。
毎回毎回、僕が原因とは限らないと証明出来ましたね!
「ユアンちゃん達も関係すると思うけどね」
「僕たちもですか?」
「あぁ、直接は関係していないだろうが、無関係ではないと言えるだろうな」
大体察してというのは本当みたいですね。
ですが、僕には思い当たる節は全くありませんよ?
「まぁ、ついていけばわかるだろう」
「という事は、僕たちも行った方がいいという事ですかね?」
「その方がいいと思うが強制はしない。嬢ちゃん達が決めてくれ」
「それは、内容次第ですかね?」
「内容か? 内容はな……」
「ユージン」
「あぁ、そうだったな。これは俺達が言う事ではないな」
ユージンさんの言葉をエルさんが遮りました。
どうやら内容までは聞けそうにありませんね。
「危険はないのですか?」
「ないとは思う」
なら、大丈夫ですかね?
ですが、一応確認は必要ですね。
「ユージンさんがそういうのならいいんじゃない?」
「暇つぶしになる」
「後で何も知らないで大事になるよりはいいと思います」
「みんなと一緒ならなんでもいいぞー」
みんなは一緒にいくつもりでいるみたいですね。
それなら、断る理由はありませんね。
「決まりました。僕たちも一緒に行こうと思います」
「なら、早速いくとするか」
話し合いの結果、僕たちとユージンさん達は隊長さんらしき人に一緒に行く事を伝えました。
そして、そのまま兵士さんに先導される形でとある場所へと向かう事になりました。
でも、こうして兵士さんに連れられて歩いているとちょっと悪い事をした人に見えますね。
周りの人にそう思われていない事を今は祈るばかりです。
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