第513話 弓月の刻と火龍の翼、武器屋に向かう
「今日はシアさんの武器を修理できそうなな人を探さないとですね」
「うんっ!」
みんなで温泉に入った翌朝、僕たちは鍛冶屋さんがある区域へと向かう事になりました。
結局の所、ロイさんはあれから戻りませんでした。
その為、ユージンさんは一人で宿に泊まり、僕とシアさんとサンドラちゃん、キアラちゃんとスノーさん、ルカさんとエルさんとそれぞれに別れて泊まる事になったのです。
そして、今現在は食堂にみんなでユージンさん達も含め全員で集まり、一緒に朝食をとっている所だったりします。
「でも、ロイさんが責任を持つと言ってくれたのですよね? 待たなくていいのかな?」
「あ、そういえばそうでした」
ナナシキを出発する前の話ではそうなっていましたね。
となると、勝手な事はしない方がいいですかね?
「それなんだけど、ロイからこれを預かってる」
「これは……地図ですか?」
「うん。この街の地図ね」
エルさんが
「これはわかりやすいですね」
その地図を一目見るだけで、何処に何があるかわかりそうですね。
僕たちが泊まった宿屋はエルさんの紹介ですが、その名前や道具屋さんなども記載されています。
「ここは何ですか?」
その中でも一件だけ強調するようにして、印がされている場所がありました。
「ここはロイがお勧めする場所ね。ロイが戻らなかった場合、ここに案内するようにお願いされてるの」
ロイさんが戻れなかったときの事まで想定して準備をしてくれていたのですね。
逆に、ロイさんが戻れない可能性があると思っていたとも捉える事が出来ますが、それはそれで気になるところです。
大きな問題になっていなければいいですけど。
「平気。ロイの心配はいらない」
「それならいいのですけど、何かあったら協力しますから言ってくださいね?」
「その時はね。だけど、本当に心配はいらないわよ。ユアンちゃん達は自分達の事だけを考えればいい」
そうは言ってくれますけど、心配ですよね。
僕たちが心配するのはお門違いかもしれませんが、それでも火龍の翼の皆さんとはこれからも親しい関係でいたいと思います。
それに、ロイさんがガンディアへと行く事になったのは僕たちが原因でもありますので、何かあった時に協力しないというのはあり得ません。
「それよりもいいの? お嫁さんが隣でそわそわしてるわよ?」
「あっ、大丈夫ですよ。ちゃんと忘れてないですからね?」
「うん。なら早くいきたい」
「そうですね。では、身支度を済ませて向かいましょうか」
「そうですね。お姉ちゃん達はどうするの?」
「私達も途中までは一緒にいくよ」
「俺もいい機会だし武器のメンテナンスをしてもらいたいからな」
「私とエルはその付き添いね」
やっぱりユージンも武器の管理はしっかりしているのですね。
剣を主に使うので当たり前の事ですけど、僕も見習わなくてはいけませんね。
「やっぱりこっちまで来ると更に暑いですね」
「移動するだけでも大変なんだけど」
「熱が籠ってる」
「慣れだなー」
「簡単に慣れないと思うの」
僕たちが泊まった宿屋が外にあったからなのか、昨日の大きな穴が開いた場所へと再びやってくると、歩いているだけで汗が滲んできます。
これはまた帰ったら温泉に浸かって汗を流さないといけませんね。
もちろん、悪戯ばかりしてくるエルさんとルカさんとは今度は別に入らせて頂きます。。
「あっちだね」
そんな僕の思いには気づかず、エルさんが地図を片手に僕たちを先導し、昨日入ってきた横穴とは違う場所を通り抜けると、そこはまた外に繋がっていました。
「珍しい造りの家が多いですね」
横穴から外に出ると、石造りの建物がたくさん並んでしました。
これも種族の特徴なのですかね?
トレンティアのお家は木製の家屋が多かったのですが、ここに並ぶ建物は石造りの建物ばかりで、どの建物からも煙がモクモクと立ち上っています。
「あの様子からすると、火を使っているからかな?」
「そうかもしれないね。木造の建物だと何かあった時に直ぐに燃え広がってしまいますからね」
という事は、鍛冶をするためにこういう造りになっているという事ですね。
そういえば、僕たちの泊った宿屋は石も使われていますが、木造で作られている箇所が多く、他のお店やお家も同じような感じでしたね。
「それにしても、人が全然いないですね」
もちろん、通りに人がいないという意味です。
探知魔法を使えば、人の反応は沢山ありますし、金属を叩くような高い音があちらこちらから響いているのがわかります。
ですが、その割に人の姿はほとんど見る事が出来ないのです。
「出歩く意味がないからじゃない?」
「どうしてですか?」
「仕事が家の中だから」
「ナナシキの人が畑仕事中に意味もなく街の中を歩いたりしないのと同じだと思うの」
「ですが、剣などを作って販売するのであれば店頭に立ったりしてお客さんとかに宣伝しますよね?」
「そうだなー。買ってくれる人に宣伝した方が売れるよなー」
「売りたいのなら確かにそうだね」
これは考え方の違いかもしれませんね。
僕とサンドラちゃんはいつもお店の前でポーションとかを販売しています。
これは何を売っているのかを宣伝する為でもあります。
一応は何を売っているのかは看板を立てているのでわかりますが、読んで貰えなければ意味がありませんからね。
「それはドワーフという種族の拘りかもね」
「どんな拘りですか?」
「自分が魂を込めて作った武器を無暗に売るのではなく、自分の目で確かめ、認めて貰い、買ってもらう。そういう拘りがあるんじゃないかしら?」
「そういう考えは好き。それが運命の出会い。私がユアンに出会って、契約したのと似てる」
ちょっと違うと思いますけどね。
でも、そういう考えもありだと思います。
所謂一目惚れって奴ですよね。
一見するとただの剣に見えても、何故かそれに惹かれるというのはあり得る事だと思います。
「後はお客さんが少ないってのもあるのかもね」
「今の所、私達以外にお客さんらしき人は見てないですね」
それもあり得そうですね。
僕たちもお客さん来なかったらお店を閉めてしまう事がありますし、そもそも基本的にお客さんがいないのならば、店頭で待っているだけ無駄になってしまいます。
「ま、気にしても仕方ないし、シアの剣を直しにいこうか」
「そうですね」
「それじゃ、ここからは別行動ね。地図は渡しておくよ」
「ありがとうございます。でも、エルさん達はいいのですか?」
「俺達なら問題ない。ロイから別の店を紹介されているからな」
「ユージンの剣はミスリルだから、扱う場所が違うみたいなのよ」
「そうなのですね」
ドワーフの人でも得意分野が違うという事ですかね?
確かに、鉄とミスリルですと性質が全然違いますからね。
何が違うと聞かれると困りますけどね。
「それではまた後で」
「あぁ。また後で合流しよう」
そう言って、ユージンさん達は三人で行ってしまいました。
「では、僕たちも地図を頼りに向かいましょうか」
「うん。場所はどの辺?」
「端の方ですね」
「また歩くのかぁ」
「地図を見る限りはそんなに遠くないので大丈夫だと思うよ」
「こんな事なら甲冑は脱いでくればよかったかも」
「私も我慢してる。スノーも頑張る」
「そうだなー。情けないなー」
まぁ、一番の厚着はスノーさんだから仕方ないと思いますけどね。
それに、みぞれさんの力を使っていませんので、その状態で我慢してるのは偉いと思います。
という事で、僕たちもシアさんの剣を直すためにロイさんから紹介されたお店へと向かいました。
これでシアさんの元気も戻ってくれると嬉しいですね。
どうしても気になる時は気になるみたいでふとした瞬間にそわそわしたり、小さなため息をついたりしていましたからね。
ですが、それも今日までです!
きっとシアさんの杞憂も今日までになる筈です!
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