第498話 補助魔法使い達、クリスティアへと戻る
「おかえりなさい」
「はい、ただいま戻りました」
日が落ち始め、辺りが暗くなり始めた頃、僕たちはクリスティアへと戻り、兵士さんに案内され、昨日泊った部屋に戻ると、部屋には既にオルフェさんが居ました。
「それで、オルフェさんの方はどうなったのですか?」
「まだ話合いは継続中ですよ。それよりも、一人多いようですが、そちらの方は?」
オルフェさんがちらりと龍神様を見ました。
「えっと、こちらの方はですね……」
そこまで言って、僕は困りました。
素直に紹介していいものなのか、僕は迷ったのです。
「風の龍神。なんかついて来る事になった」
「それは、本当ですか?」
「まぁ、本当です。信じられないかもしれないですけどね」
僕だったらとても信じられない話ですからね。
だって、こうしている分には普通の人間にしか見えませんからね。
「信じますよ。ユアンが嘘を吐く理由はありませんし、これだけの存在感があるお方です。その方が納得がいきます」
オルフェさんは龍神様から何かを感じ取ったみたいですね。
ですが、納得して頂けて良かったです。
今日起きた事を話そうとは思っていましたが、風の龍神様の説明をするのはちょっと手間でしたからね。
どう説明したらいいのかわかりませんので。
ですが、風の龍神様を連れてきたはいいもの、少し困った事があります。
「オルフェさん、部屋ってもう一つ借りる事はできますかね?」
「私は此処の人間ではないので何とも言えませんが、恐らくは大丈夫でしょう」
「それなら良かったです」
流石に初対面で、しかも龍神様と凄い人と同じ部屋で寝る事はできませんからね。
「ん? 私は別の所に行かなきゃいけないのか?」
「ダメですか?」
「別に構わないよ。けど、どうしてかなって思っただけさ」
「んー、流石に龍神様ですので、畏れ多いですし、龍神様は男性ですからね」
「そういう理由かー。別に私に気を遣う必要はないし、見た目の問題なら……ほれ、これでどうだい?」
「ふぇっ!? そ、そんな事が出来るのですか?」
龍神様の髪がにゅるにゅると伸び始め、肩くらいまであったかみが一気に腰辺りまで伸びました。
それに加え、ぺったんこだった胸がムクムクと大きくなったのです。
「人の姿は仮の姿だからな。見た目くらいなら直ぐに変える事が出来るよ」
「そうなのですね。これはどの龍神様も同じなのですか?」
「出来るよ。ただし、水龍も炎龍も自分の姿に拘りがあるだろうから、変えるかはわからないけどね」
その言い方だと風の龍神様には拘りがないと言っているみたいですが「私は気まぐれだから」と付け足すように言われてしまったので、その認識で間違いなさそうですね。
「それで、君たちの街にはいついけるんだい?」
「えっと、もうちょっとかかるかもしれないです」
「どうして?」
「んー……王様達の問題で色々とあったのですよ」
流石に内容までは答えられませんけどね。
「そうなのか。面倒だね、人間ってものは」
それは同意ですね。
どうしてみんな仲良くできないのかって僕も良く思います。
仕方ないと言えば仕方ないですが、自分の力を誇示したり、いい生活を送るために他人を蹴落とそうとしたりと考える人が多いのが時々嫌になります。
「でも、どうして龍神様は僕たちの街に行きたいのですか?」
「面白そうだから」
「えっ、それだけの理由ですか?」
「そうだよ? 君たちの街の事は風の噂で聞いているから」
「寝てたのですよ?」
「寝てたよ? だけど、風の噂は寝ていても得られるでしょ?」
当たり前だよね?
みたいに言われても、困ります。
それにしても、本当についてくるつもりでいるみたいですね。
この様子ですと、断ってもついてきそうな気がするので断りませんが、何だか色々と問題が起きそうな気がするのですよね。
何せ、僕の家にはしょっちゅう女神のレンさんが来ますので、そこで大騒ぎになる気がするのです。
まぁ、これは既に決定事項みたいなのでこれ以上話す事はありませんね。
更に突っ込んで機嫌を損ねたりしたらそれこそ大変です。
なので、僕は話を変える事にしました。
「それで、エルジェ様とナイジェル様はまだ話合っているとの事ですが、どこまで話は進んだのですか?」
「それがですね……」
オルフェさんが困った顔をしました。
「その様子ですと、進展していないとかですね」
「そんな事はないですが、まぁ話は進んでいませんね」
これは時間が掛かりそうですね。
どうやら話し合いは一応は進んでいるみたいですが、ナイジェル様がエルジェ様に対し、自分の考えをしっかりと伝えた所までは良かったみたいですが、ナイジェル様の意見を聞いたエルジェ様が泣き出してしまったみたいです。
エルジェ様の気持ちはわかりませんが、どうやら自分がとんでもない勘違いをしていた事にようやく気づいてくれたみたいです。
「それも問題」
「そうだよね。完全にナイジェル様に言いくるめられてるとしか思えないね」
「ナイジェル様と話した内容は本心だとは思いますが、簡単に信じてしまうのはかなりマズいと思うの」
「そうだなー。これからずっと掌の上で操られる事になるだろうなー」
僕もそう思いますね。
これからの事を考えれば、ナイジェル様の話を信じるのはいいですが、自分の意見も言わないとずっとナイジェル様の言葉通りに動く事になり兼ねません。
それでは操り人形でしかありませんからね。
「その辺りは本人はどう思っているのですかね?」
「弟と再び仲良くできるかもと喜んでいましたよ」
呆れたようにオルフェさんはそう言います。
ダメそうですね。
「あれと一緒」
「シア」
「前の」
「それならいい」
「楽しんでいる場合ではありませんからね?」
「わかってる。だけど、今後の事を考えれば、ナイジェルが政権握っている方が都合がいい」
「まぁ、その通りですけどね」
エルジェ様もナイジェル様も他種族との交流を望んでいるという点では同じ意見ですからね。
同じ意見ならば、しっかりとした考えを持ち、行動しているナイジェル様に任せた方がいいのは間違いないと思います。
何となくですけど、エルジェ様に任せたらエルフ族がただ利用される国になるような気がしてなりませんからね。
「まぁ、そこは私達が口を出す問題ではないし、正式に交流を結ぶようになってからでいいんじゃないかな?」
「私もそう思います」
「では、これからどうしますか? もう帰っても大丈夫なのですかね?」
一応は進展がありましたからね。
これで僕たちの役目も終わり、僕たちの目的も終わりました。
これ以上はクリスティアに留まる理由はないと思います。
それに、僕たちだっていつまでもナナシキから離れる訳にはいきません。
ローラちゃんだってナナシキで待っているでしょうし、ハーフエルフが追い出された理由をローゼさんに伝えたいとも思っています。
真実として受け取るのかわかりませんけどね。
「明日、その事を聞いてみればいいでしょう」
「わかりました」
という事で、今日の所はこのままお開き……と言いたい所ですが、そうもいきませんでした。
「そういえば、お前さんたちと一緒にいれば美味い酒が飲めると聞いたんだが、早速飲めるのかい?」
完全に日も暮れ、お腹が空いてきたので食事をとる事に決めた時、風の龍神様がそんな事を言い始めました。
「えっと、誰からそんな事を聞いたのですか?」
「風の噂だよ」
どんな噂ですかね?
何だか、このお方の前では隠し事が出来ないような気がしました。
結局、この一言が原因で、再びみんなでお酒を飲む事になってしまいました。
もちろんシアさんは禁止しましたけどね。
ですが、風の龍神様がみんなで飲むと言って聞かなかったので、結局シアさんも飲む事になってしまいました。
その結果……。
まぁ、今回は何もなかったと言わせて頂きます。
実際にはちょっとだけありましたけど、前のような事にはなりませんでした。
きっと風の龍神様がいたお陰でシアさんにも理性が残っていたのだと思います。
そして次の日。
僕たちはエルジェ様とナイジェル様とお話する事になりました。
ナナシキへと戻る事を伝える為に。
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