第495話 補助魔法使い、暴走する
見ちゃいました。
久しぶりに、一番見たくない魔物を見てしまいました。
「ユアン」
「……ハイ」
「大丈夫?」
「ダイジョウブジャナイデスヨ?」
「やっぱり?」
「やっぱり無理です!」
なんでこんな魔物がこんな場所にいるのですか!
ズルいです!
ズル過ぎます!
よくよく考えればおかしいと思ったのですよ。
魔物が動かないのには何かしらの理由があるに決まっていたのです!
少し考えればわかりますよね?
この谷は凄く暗くて視界がほぼない場所です。
なので、動かないのは暗いからだと思っていましたが、それは魔物たちにとっても同じ条件に決まっています。
魔物たちは動かないのではなく、動けないと考えるべきでした!
当然ですよね?
だって、近くに自分よりも強い魔物が存在しているのですから。それくらい魔物たちだって感じ取ったり出来る筈です!
だからといって、まさか捕まって動けないとは思いませんでしたけど、動けない理由を考えれば何か理由があると考えなければいけなかったのです!
「ユアン、落ち着く」
「無理です! むしろ、どうしてシアさんは大丈夫なのですか!?」
「ユアンの防御魔法がある。安全」
そういう理由じゃないです!
僕たちの目の前には今にも僕たちを捕まえようとしている大きな蜘蛛が居るのです!
凄く大きいのですよ?
足の先端で僕の体くらいありそうな蜘蛛なのですよ?
怖くて気持ち悪くないわけがありません!
「それよりです……脱出しませんか?」
「どうやって? 私、糸に捕まってる」
「えっと、斬れませんか?」
「ユアンを抱えてるから動けない。離しても平気?」
「それはダメです!」
「それじゃ、ユアンがどうにかする」
「僕がですか?」
シアさんに隠れながらちらっと蜘蛛の方を覗いてみます。
うん。無理ですね。
足の先端だけ見えましたが、それだけで無理でした。
しかもです。
僕が蜘蛛を嫌いになった原因である黄色と黒の斑模様をしています。
そんな相手をするくらいなら、女神のレンさんと本気で戦った方がマシだと思います!
「それじゃ、どうする?」
「えっと、転移魔法で逃げます」
「出来るの?」
「出来ますよ。防御魔法で糸を外せば問題ありません」
「それなら、そのまま下に降りればいい」
「ダメですよ。蜘蛛だって糸を垂らしてついてくるでしょうからね」
獲物をみつけた蜘蛛はしつこい事を知っています。
なので、僕たちが視界にいるうちはきっとどこまでも追ってくるでしょう。
「なら視界にうつらなければいい」
「あっ! それは名案ですね!」
「うん。
シアさんの姿消えたので、僕もそれに合わせて
ですが、蜘蛛は離れようとしません。
『どうしてですか!?』
声を出すとバレそうなので、念話でシアさんに理由を尋ねます。
『糸が繋がってるから、場所はバレてる』
『そういう事ですね! なら、糸を切ります!』
防御魔法で糸を切断すると、急に体が動くようになりました。
しかし、それはどうやら失敗だったみたいです!
『別の糸に引っかかった』
『うー……急に外れたせいですね」
引っ張っていたロープが急に外れると後ろに転んじゃったりするあれですね。
僕とシアさんはポーンと吹っ飛びました!
ですが、これで蜘蛛との距離は離れられ……ませんでした!
『あわわわわっ! また来ましたよ!』
『仕方ない。糸の振動で蜘蛛は動く』
動きはそこまで速くないみたいですが、蜘蛛が近づいてくるのがわかります。
全方位を防御魔法で囲っているのですが、それを通じて振動が伝わってくるのです!
『シアさん、無理そうなので脱出していいですよね?』
『ユアンが逃げるなら逃げればいい。だけど、また降りるとなれば会う事になる』
『仕方ありませんよ。倒すなら別の方法もありますからね』
今はとにかくこの場所から離れたい。
僕はそれしかありません。
上に戻ればまたキアラちゃんに倒して貰えるかもしれませんからね。
ですが、そんな事を考えている間にも蜘蛛はあっという間に僕たちの所までやってきました。
動きは速くないですが、体が大きいので移動は速いみたいです。
そして、まるで僕たちがそこに居る事がわかっているかのように、再び牙をカチカチと鳴らしました。
そして、この時に僕はある事を思いました。
どうして、蜘蛛相手にこんな思いをしなければいけないのかって。
そうですよね?
こんな理不尽はおかしいと思います。
『ユアン?』
「はい、どうしましたか?」
『大丈夫? 様子が変』
「変じゃありませんよ? ただ、ちょっと思った事があってさ」
『何を?』
「怖いけどさ、怖いなら……その恐怖を取り除けばいいんじゃないかって」
『それは正しいとは思うけど……』
「だよね」
だけど、問題は……倒すにはどうしてもその姿をみないといけないって事になるかな。
あぁ……でも。
範囲魔法なら関係ないか。
攻撃魔法は色々な理由があって苦手だけど、それでも少しずつ克服しつつある。
「ユアン、それは危険」
「大丈夫だよ。魔力の元はシノだから。体は痛まないから」
「違う。そんなに膨大な魔力を使ったら色々と危ない」
「そんな事ないよ。大丈夫大丈夫」
シアは心配しているようだけど、何も問題ない。
だって、一番問題なのは、目の前に大きな蜘蛛がいるって事だからさ。
それ以外に何が起きようとこれ以上危険な事はないよね?
だから、私は攻撃魔法を使う事を決めた。
「ユアン」
「大丈夫。シアは安全だよ。私と一緒にいるからね」
「うん。離れない」
「そうしていて。ジッとしていてくれれば安全だから」
遠慮はいらないよね。
こんなに怖い思いをしたんだもん。
ちょっとくらいはお返ししないとね……。
「それじゃ、終わらせようか…………」
ちょっとだけ、混乱していたのかもしれない。
後で気付いたけど、私の想像以上に魔力は膨れ上がっていたらしい。
まぁ、シノの魔力を二つも使えば当然だよね。
兄なだけあって、相性はいいみたいだからさ。
そして、魔法を使った瞬間、まるで闇が晴れるように、一筋の光が空から降り注いだ。
蜘蛛がどうなったかは知らない。知りたくもない。
ただわかった事は、気づいたら、辺りには魔物が反応がなくなっていた事。
蜘蛛が捕まえていた魔物も居なくなっていた事。
そして、シアが言うには地形も変わっていたらしい。
けど、これで大丈夫。地形が変わろうが、何も問題ない。
悪いのはあんなところに巣を作っていた蜘蛛だからね。
だから、これでいい。
もう、怖いものなんて何もない。
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