第494話 補助魔法使い、天敵と出会う
「反応があるのはこの先ですね」
「この先って言っても、何もないですよ?」
「という事は、やっぱりこの下なのかな?」
「降りるしかなさそうだなー」
探知魔法で捉えた反応を頼りに僕たちは崖沿いを歩いてきましたが先に続くのは崖ばかりで龍神様の姿は一向に見えてきません。
となると、スノーさんの言う通り、谷を降りた先に龍神様が居ると考えるしかありませんね。
上を見ても青空が広がるばかりで、何もいませんからね。
「どうやって降りる?」
「それが問題なのですよね」
改めて谷の底を覗いてみますが、相変わらず真っ暗な闇が広がっていて、どれくらい深いのかもわかりませんし、谷の底がどうなっているのかもわかりません。
「魔物の反応がなければ飛び降りても良かったのですけどね」
「どれくらいの反応があるのですか?」
「んー……十匹くらいの反応はありますね」
「それなら問題ないんじゃない?」
「そうかもしれないですけど、少しだけ様子がおかしいのですよね」
魔物には色んな種類がいるのですが、ここまでジッと動かない魔物も珍しいと思います。
まぁ、暗闇の中だからジッとしていると考えれば普通かもしれませんが、それがどうしても獲物を待ち構えているように思えて仕方なかったのです。
「けど、あまり大きな反応ではないのですよね?」
「そうですね。この反応からするとE~Fクラスの魔物だとは思いますよ。まぁ、一体だけCランク程度の魔物も混ざっていますけどね」
「それなら問題ない」
「そうだなー」
シアさんとサンドラちゃんは問題ないと言いますが、僕は正直不安です。
魔物の反応だけをみるならば問題ありませんが、暗闇の中で同じように戦えるかどうかはまた別ですからね。
逆に普段から暗闇に潜んでいるような魔物の方が優位に戦えるので、想定よりも苦戦すると僕は読んでいます。
「まぁ、ユアンの防御魔法がCランク程度の魔物に壊されるとは思わないし、大丈夫だと思うよ」
「それは自信ありますけどね」
「それで? どうやって降りる?」
話が振りだしに戻りました。
魔物の問題もありますが、まずはどうやって谷の底へと降りるかが第一の問題です。
「降りる方法は色々とあるけど、一番安全なのはユアンが飛んで降りて、そこで転移魔法陣を設置する方法じゃない?」
「僕がですか? まぁ、それが一番安全だと思いますけど、流石に一人は怖いですよ」
「大丈夫。私が一緒に行く。それとも帝都の時みたく私が着地するから一緒に飛び降りる?」
「いえ、それはもっと怖いから嫌です。それに、底が見えないので、見余って地面に激突してしまう可能性もあるので、危険ですよ」
あの時は本当に怖かったですからね。
落ちている時も怖かったですし、蜂の群れに飛び込むのも怖かったです。
なので、あのような時の事を再び体験するのだけは遠慮したいです。
っと、それで思い出しましたね。
「そういえば、スノーさん達はあの時どうやって帝都に降りたのですか?」
そういえばあの時、僕とシアさんが先に飛び出してしまったので、あの後の事を知らなかったのですよね。
帝都の防衛が終わってから色々とあったので聞く機会もなく、すっかり忘れていました。
「あの時は私達も飛び降りたよ」
「えっ、飛び降りたのですか?」
「そうですよ。サンドラちゃんが龍化を解いたので正確には落ちたが正しいですけど」
「そういう指示だったからなー」
確かに、龍が帝都の上空を飛んでいたら更に騒ぎが大きくなるという話しをあの時にしましたね。
ですが、まさかそんな事が起きていたとは思いもしませんでした。
「よく無事でしたね」
「自分でもそう思うよ。まぁ、みぞれとルークがいれくれたお陰でどうにかなったね」
「危なかったら私がどうにかしたから大丈夫だけどなー」
「それでも怖かったですよ。それにびしょびしょになりましたし……」
どうやら、みぞれさんとルーくんのお陰でどうにかったみたいですね。
話を聞く限りでは、みぞれさんとルーくんが水と風のクッションを魔力でつくり、みんなはそこに落下したようです。
感覚でいえば、高い所からゆっくりと勢いを殺しつつ、水の中に飛び込むような感じだったみたいです。
「楽しそう」
「楽しくはないと思いますよ?」
「そう?」
「そうですよ。僕は少なくとも安全に降りたいです」
「残念」
シアさんはやってみたいみたいですね。
ですが、びしょびしょに濡れる事になる事を改めて伝えると、それは嫌だとどうにか諦めてくれました。
「まぁ、ここは僕がいくしかありませんね」
「大丈夫?」
「ゆっくりいけば大丈夫ですよ。それに、光魔法で先を照らしますので、そこまで怖くはないと思います」
「ごめんなー。私が龍化できれば良かったのになー」
「仕方ないですよ。谷の幅はそこまで広くないので羽ばたくのは大変ですからね」
という事で、谷の底に向かうのは僕とシアさんになりました。
全員で降りる事も一応はできますが、僕が飛ぶのに慣れていないという事もあり、安全を考慮して二人で降りる事にしたのです。
「では、ちょっと待っててくださいね」
「わかったけど、無理はしないようにね?」
「何かあったら直ぐに連絡してください」
「気をつけてなー?」
「平気。底についたら転移魔法陣を直ぐに起動するから、準備しとく」
「では、行きましょうか」
みんなから心配されながら、僕とシアさんは手を繋ぎ、谷の底へと向かいます。
「やっぱり暗いですね」
「うん」
どうやら予想していたよりも谷は深く、ゆっくりと降りているのも影響してか、数分経っても底にはたどり着けず、暗闇の中を進む事になりました。
もちろん光魔法で辺りは照らしていますよ?
それなのに、辺りは暗いままなのです。
ですが、その理由は直ぐにわかりました。
「底に向かうにつれて、谷の幅が広がっていますね」
「これならサンドラも飛べそう」
「まぁ、入口が狭いのでどちらにしても無理ですけどね」
これが自然にできた谷だとしたら、やっぱり自然って凄いですよね。
谷というのは元々は川などが流れていて、長い年月をかけて地面を削ってできたり、地震などの影響で地面が陥没したりしてできると聞きました。
どちらの影響でできたのかはわかりませんが、どちらにしても自然の影響で出来たのであれば、これはとても凄いものだと思います。
「ちなみにですけど、シアさんの影狼で谷底を先に調べる事って出来ますか?」
「無理。これだけ闇が深いと影は呑み込まれる」
影から影は造れないって事ですかね?
「それなら仕方ないですね」
「ごめん」
「いえ、謝る事ではないですよ。こうしてシアさんが寄り添ってくれるだけでも僕は十分安心できますからね!」
「うん。離れないから安心する」
こうなったら僕はもう無敵です!
シアさんにぎゅーってしてもらえると、それだけで僕は誰にも負けない気持ちになれます!
と思っていた時期が僕にもありました。
「あれ、何か急に進まなくなりましたよ? 底についたのですか?」
「違う。私の足はまだ浮いてる」
シアさんの足が先に底へと辿り着いたかと思いましたが、どうやら違うみたいですね。
まぁ、それはわかっていましたけどね。
光魔法は僕たちの足元に浮かんでいて、まだ先がある事を教えてくれていますからね。
「それじゃ、どうして進まないのですか?」
「ユアンが飛んでるから?」
「いえ、僕は下に降りていますよ?」
風に吹き上げられているという感じでもありませんね。
そうだとしたら直ぐにわかる筈です。
では、原因は何でしょう?
もしかしたら、この先に結界みたいなものが張ってあり、進めないようにしてあるとかですかね?
ですが、そうだったら何かしらの魔力などを感じそうなものですよね?
んー……となると?
「わかった」
原因を考えていると、突然シアさんがポンと手を叩きました。
「何がですか?」
「さっきから引っ張られてると思ったけど、それが原因」
「そうなのですか? 僕は何も感じませんよ?」
「ユアンは平気。私が引っかかった」
「引っかかる?」
むむむ?
シアさんは原因がわかったと言っていますが、言っている意味がよくわかりません。
引っ張られるだとか、引っかかるだとか、言われてもわかりませんよね?
「ねー、シアさん。何があったのですか?」
「言っていいの?」
「はい。言ってくれなきゃわかりませんよ」
「わかった。まずは、周りを見渡す」
「周りですか?」
足元を照らしていた灯りを僕たちの周囲へと移動させます。
すると、何かが見えましたね。
「なんですか? あの白い団子みたいなのは」
「餌」
「餌? 食べ物なのですか?」
「そう。魔物の餌」
「あんなものを食べる魔物がいるのですね……ってもぞもぞ動いてませんか?」
光に反応したのでしょうか?
光を近づけると、団子がまるで生物のように動き出しました。
「もしかして、生きてます?」
「うん。新鮮な餌の方が栄養がある。それに腐ったら食べられない」
腐った肉とかを好んで食べる魔物もいますけどね。
まぁ、大概の魔物はその場で餌を捕え、その場で食べるというのが多いのも確かです。
「それじゃ、あの白い団子は保存食みたいなものなのですかね?」
「間違いなくそう」
「頭がいい魔物ですね」
「違う。あれは習性」
「魔物独自の行動パターンという事ですね」
「魔物だけじゃない。あのタイプはああしているのが多い」
「そうなんです…………ね?」
あれ……気のせいですかね?
僕もその習性をもっている生物の事を知っているような気がしますよ?
えっと、状況を少し確かめてみましょうか。
僕たちは今、下に向かっていたら急に動けなくなりました。
まぁ、動けないのはシアさんですけどね。
手足とかは動くのですが、何かに引っかかったように下に降りるのを邪魔されている状態です。
そして、周りには生きたまま捕まっている白い団子。
そして、それは魔物の習性……。
「あっ……し、しあさん」
「何?」
「これって、もしかして……」
「うん。多分、想像通り」
「ま、マズいですよ! 早く脱出しないと……」
「遅い。もう近づいて来てる」
シアさんの言葉を証明するように、シアさんを通じて振動が伝わってきました。
びよんびよんって跳ねるような振動が伝わってきたのです。
そして、その振動は徐々に大きくなり……カチカチっと歯がぶつかるような音が聞こえました。
そして、僕は後悔しました。
状況を確かめるために、僕は音の方へと光を飛ばしてしまったのです。
「あっ……」
光がこの状況に陥った原因を照らし出しました。
なんとそこには、八つの目玉をもった、僕の天敵が映し出されていたのです。
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