第483話 弓月の刻、クリスティアへと向かう
「皆さん、気をつけてくださいね」
「心配はいりませんよ。ローラちゃんは頑張ってチヨリさんから色々と学んでくださいね」
「はい! チヨリさんからの好意を必ずトレンティアへと伝えてみせます!」
リット様からお手紙を頂いてから数日後、僕たちはエルフの国へと向かう事になりました。
「では、行きましょうか。リット様もよろしいですか?」
「問題ありませんぞ!」
大丈夫のようですね。
「では、行ってきます!」
ローラちゃんを見送り、僕たちはまずはリット様の村へと向かいました。
転移魔法陣を設置してあった訳ではないので、僕がみんなを連れてそこへと転移魔法で飛ぶわけですが、流石にちょっとだけ疲れますね。
最初の頃に比べればかなりマシですけど。
「大丈夫?」
「はい、問題ありませんよ。それにしても、やはり静かですね」
出発をしたのが朝だからという理由もあるかもしれませんが、転移魔法で村の外に移動をし、リット様の案内で村へと入りましたが、村の中で活動している人はほとんどいませんでした。
「若い者はもう村の外に出ていますからな」
「逆に若い人は活動が早いという事なのですね」
ちょっと極端すぎませんかね?
まぁ、それがこの村のやり方みたいなので、口出しはしませんけどね。
「では、向かいましょうか。ちょっと時間がありませんので」
「そうなのですか?」
「そうですぞ? 既に手紙を受け取ってから随分と時間が経ってしまいましたからな」
「そうなのですね」
「はい。何せ、儂が手紙を受け取り、まだ平気だろうと随分と寝過ごしてしまいましたから」
「え? それは本当ですか?」
「はい。本当ですぞ?」
どうやらリット様の元に手紙が届いたのは一週間ほど前のようです。
そして、そこから三日寝過ごして、急いで僕達の元へとやって来たらしいです。
「もしかして、リット様が一人でやってきたのって……」
「はい。このままではマズいと思い、急いでいたからですな。護衛を用意する暇もなかったですぞ」
リット様が笑っていますが、笑い事ではないですよね?
それだけ余分にエルフの王様を待たせてしまっているのですから。
ま、まぁ……ナナシキからリット様の村までは三日ほどかかりますし、転移魔法でその分短縮できたと考えればちょうどいいですかね?
「んー……急いだ方がいいですかね?」
「いやいや、そんなに焦らなくても良いでしょう。どうです? みんなでお昼寝なんかでも?」
「おじいちゃん! 一度失敗してるんだからね!」
「あぁ、そうだったなぁ」
キアラちゃんがしっかりしている理由が分かった気がします。
見た感じ、キアラちゃんの両親ものんびりしている感じがしましたし、家族がこうならば自然と自分がしっかりしなければと思うのもわかります。
なんだかんだ言って、エルさんも凄くマイペースな人だったりしますからね。
ただ、その中で流されなかったキアラちゃんが偉いのだと思います。
まぁ、若い人が頑張るというこの村の方針のお陰もあるのかもしれませんけどね。
そう考えると、この村の方針はある意味正しいのかもしれませんね。
子供が成長する機会が沢山あるという事にもなりますしね。
「それで、クリスティアは何処にあるの?」
「ここから三日ほど歩けばクリスティアには到着しますぞ」
「ここから三日もかかるのですね……ん?」
意外と遠い場所にあるのだと思いましたが、リット様の言葉に違和感を覚えました。
「どうしたの?」
「あ、はい。ここから三日と言われたので、ちょっと変だなと思いまして」
「何がですか?」
「えっと、幾ら何でも、僕達の元に手紙が届くのが早すぎないかと思いまして」
「確かにそうだね。前回私達がここへと来たのは十日くらい前だったよね」
まだそれだけしか経っていないのですよね。
それなのに、僕たちへの招待が早すぎると思いました。
だって、徒歩で移動したならば、リット様がクリスティアへと連絡するので三日、その返信が三日は最低かかります。
更にはリット様が三日寝ずごし、急いで僕達の元へと移動していると考えると、それだけ十日ほど時間が掛かっていてもおかしくありません。
幾ら何でも、早すぎませんかね?
「となると、特別な連絡手段を持っていると考えるのが妥当ですが、リット様、その辺りはどうなのですか?」
「申し訳ありませんが、そこはお答えする事ができませぬな」
「わかりました」
どうやら答えられない何かがありそうですね。
そう考えると、少し警戒した方がいいかもしれません。
もしかしたら、転移魔法を使える人がいるという可能性も十分にあり得るのです。
転移魔法は使い方次第ではかなりの脅威となるのはみんなも十分に理解していると思いますので。
「ちなみにリット様は転移魔法を使えたりしますか?」
「いえ、儂は使えませぬぞ」
私は、ですね。
どうやらこれで決まりです。
「わかりました。では、大人しく徒歩で向かいましょうか」
「そうだね。この道では馬車も使えそうにないし」
「そもそも、私達は乗り物がない」
「そろそろそういった移動手段が必要かもしれませんね」
「そうですね。移動手段が徒歩というのは舐められるかもしれないですしね」
逆に移動が面倒になりますが、ナナシキのお偉いさんは、馬も用意できないと思われるかもしれないですからね。
まぁ、冒険者としては必要ないかもしれませんが、もし為政者として活動をするのであれば、舐められない為にも必要となりそうということです。
そうなると、護衛も一応は用意する必要もあるのですかね?
まぁ、それは後々考えるとして、まずはクリスティアに向かわないとですね。
「綺麗な場所ですね」
「うん。過ごしやすい」
先頭をスノーさんとキアラちゃん、間にオルフェさん、サンドラちゃん、リット様、そして最後尾に僕とシアさんが歩き、クリスティアに向かっています。
隊列組みたい所ではありますが、今回はリット様が加わっているので、安全を考慮して弓月の刻が挟むようにして移動する事にしました。
まぁ、リット様もオルフェさんも戦闘が出来るのであまり意味はありませんけどね。
「それにしても、見た事のない植物が沢山ありますね」
「勝手にとってはダメですよ?」
「わかりました。後で怒られたりしたら困りますからね」
「えぇ。エルフ族はそう言った所は煩いですから」
そうなのですね。
ルード帝国やアルティカ共和国では森に自生している植物は乱獲しない限りは採っていい事になっている場所が多いですが、どうやらクリスティアではダメのようです。
まぁ、その判断は国がするので仕方ありませんが、ちょっとだけケチ臭いですよね。
「仕方ありませんよ。どちらにしてもこの場所でしか生息できない植物なのですから」
「そうなのですか?」
「はい。この辺りに生えている植物の大半がマナを生み出す植物です。魔素の濃い場所では直ぐに枯れてしまうでしょう」
植物って不思議ですね。
暑い場所にしか生息できない植物もありますし、極寒の中や水の少ない砂漠でも生息する植物もあります。
ある意味、人間よりも逞しく思えます。
「でも、植物を育てるのは無理かもしれませんが、薬などに使えますよね?」
「そうですね。だからこそ、勝手に採ってはいけないのです。それが、生態系を守る為でもあり、エルフ国の収益に繋がるのですから」
「それもそうですね」
自然と共に生きるエルフ族にとってはこういった植物の一つ一つが貴重な資源になるのかもしれません。
どんな薬になるのかをチヨリさんに届ければきっと有効に使ってくれると思いましたが、怒られるのは嫌なので我慢ですね。
「では、今日はこの辺で野営にしますか?」
「そうですな。順調に進んで来られましたので、明日の夜にはクリスティアの手前までは辿り着けるでしょうな」
という事は、三日目の朝くらい、遅くてもお昼くらいにはクリスティアへとたどり着けそうですね。
「テントはやめた方がいいですよね」
「うん。魔物が生息している。何かあってからじゃ遅い」
「出来る事なら、リット様とオルフェさんはゆっくりさせてあげたいですけどね」
野営は慣れていない人にとっては大変ですからね。
風に当たるのと当たらないではそれだけでかなり違います。
幸いな事に、森の中は暖かいので助かりますが、それでもテントの中の方が休めるのは確かです。
「私の事なら気にしなくても平気ですよ」
「んー……でも、無理はしてはダメですよ?」
「心得ておりますよ」
そうは言っても、オルフェさんは野営には慣れていませんからね。
どうしても心配になってしまいます。
「仕方ありません。ユアンがそこまで心配するのであれば、これならどうですか?」
オルフェさんが懐から何かを取り出し、それを地面へとパラパラと撒き、地面へと手を置きました。
その瞬間。
「わっ!」
僕たちの周りから蔦が天へと伸び始めました。
「凄いです……」
「これらな安心できるでしょう?」
「確かに……」
安心どころではありません!
なんと、地面から伸びた蔦は僕たちを囲ったのです。
まるで、僕の使う防御魔法が目に見える形になったように、ドーム状に伸びたのです。
「なのに明るいのですね」
「この植物はヒカリゴケと同じ性質がありますからね。夜に灯りとしても最適でしょう」
ハイエルフって凄いのですね。
植物を自在に操れると聞いていましたが、ここまで出来るとは思いませんでした。
ローゼさんとフルールさんが力を合わせてやっていた事を一人でやったのです。
まぁ、規模が違いますけどね。
「これならテントは必要ありませんね」
「うん」
こうしてオルフェさんのお陰もあり、僕たちは野営を始めました。
補助魔法使いとしてみんなの安全を護る事を奪われてしまいましたが、仕方ありませんね。
しかし、僕の役割はこれだけではありません!
僕だってみんなの役に立てる事を改めて証明させて頂きます!
補助魔法使いの本領はここからですからね。
僕は机や椅子、そして料理を収納から取り出し、食事をしました。
もちろん、みんなの体を綺麗にするために
更に、転移魔法陣を設置し、いつでもトイレに行けるようにもして、みんなが快適に過ごせるように万全を期します。
みんなからは張り切り過ぎじゃないかと言われましたが、そんな事ないですよね?
別に、オルフェさんに役割を奪われたからといって負けたと思っていませんからね。
何故かオルフェさんに相変わらずですねと笑われてしまいましたが、それもきっと気のせいです。
そして、快適に森を進んだ三日目、僕たちはエルフの国へとたどり着きました。
そこでいきなり驚かされる事になるとは、僕は想像もしていませんでした。
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