第13章 龍神編~風~
第482話 閑話 帝都でデート?
「久しぶりに帝都に来ましたが、普段はこんなに賑やかなのですね!」
タンザの街よりも多くの人が行き交う街を見て僕は驚きました。
帝都に来るのは二回目ですが、前回は帝都が襲撃されている時に来たので、街並みをこうしてゆっくりとみる事も出来ませんでしたし、人の姿も全く見る事は出来ませんでしたからね。
「ちょっと、はしゃぎ過ぎじゃないかい?」
「そうですかね?」
「そうだよ。あまり目立ってはいけない事だけは忘れないようにね?」
「大丈夫ですよ。こうして髪の色も金色に変えていますし、変装もしていますからね」
「だから余計にだよ。僕の事がバレたらかなり面倒な事になるだろうしさ」
むー……。
折角のお出かけなのに、気分が下がる事は言わないでほしいですよね。
僕だって、最初は乗り気じゃなかったですよ?
帝都に行くというのはハッキリ言って危険です。
貴族の人には伝わっているみたいなのですが、まだまだ黒髪と白髪の獣人が忌み子と思われている可能性は十分にありえます。
それでも、どうしても僕と一緒にお出かけしたいというので、仕方なく来た訳です。
それで、ちょっと楽しくなったからって注意されるのはちょっと不服ですよね?
「それは悪かったよ。だけど、姿がバレてはいけないのは君もわかるよね?」
「それはわかりますよ。ですが、その為の変装じゃないですか。僕は金髪にしていますし、シノさんだって人族の姿になっているので大丈夫だと思いますよ」
そうです。
今日は珍しくシノさんと二人でお出かけに来ています。
僕は付き添いなので特に用事はないのですが、シノさんがどうしても行きたい場所があるというので一緒にやってきたのです。
それなのに、シノさんはちょっと不機嫌そうにも見えるのですよね。
「だからこそだよ。帝都の人々はこっちの姿の方が馴染みがあるだろうからね」
「そうかもしれないですけど、その格好なら絶対に気付かないと思いますよ?」
「だから余計に目立ちたくないのさ」
「でも、とっても可愛いですよ?」
スカートをひらひらとさせて自分の姿を改めて確認するシノさんは女の子にしか見えないですからね。
「可愛いと言われても嬉しくないけどね」
「どうしてですか?」
「僕は男だよ?」
んー……男の人が可愛い服を着て似合っていれば問題ないと思いますけどね。
「そもそも、どうして僕がこんな格好をしなければいけないんだい? 別に僕も髪の色を変えればいいと思うのだけど?」
「男性と女性が一緒に歩いていると、恋人と思われそうだからですよ」
それだけは嫌ですからね。
あ、別にシノさんが嫌いという訳ではありませんよ?
ただ、シノさんはお兄ちゃんですし、僕にはシアさんが居ますので、変な勘違いされるのは困ります。
「君も変な所に拘るね。勘違いなら勝手にさせておけばいいじゃないか」
「むー……シノさんは乙女心がわかっていませんね」
「僕は乙女じゃないからね」
「学ばないと、女の子になれませんよ?」
「別になりたくないからそれでいいよ」
まぁ、僕もわかりませんけどね。
でも、シノさんには素質があると思うのですよね。
今のシノさんの格好はみんなに好評でしたし、エレン様に求婚されるくらいですから。
「とりあえず、用事を済ませようか。こんな所で油を売っていても仕方ない」
「それもそうですね」
という訳で、僕たちは帝都の街を歩き始めました。
「それにしても、凄い人ですね」
「帝都だから当然さ。色んな人が様々な理由で訪れるからね」
「例えばどんな理由ですか?」
「人の数だけ理由はあるさ。腕に自信があるものは兵士に志願したりね」
ルード帝国は実力主義の国。
自分の実力さえ示すことが出来れば、一芸で生きていけるみたいです。
もちろん戦う力だけではなく、知能や商才などでも認められれば、帝都で生きていけるみたいです。
ですが、常に戦いに身を置く覚悟があれば、みたいですけどね。
実力主義というのは、食うか食われるかの世界ともいえるらしいので。
「僕はそんな世界で生きていきたくはないですね」
「同感だね。だから、アルティカ共和国で暮らす事を決めたんだ」
それだけシノさんも大変な思いをしてきたという事ですね。
「でも、どうして今日は僕なのですか?」
人を避けながら、シノさんとはぐれないようにして歩いていると、ふとシノさんと二人きりな事に疑問を持ちました。
だって、どうやらお買い物をするみたいですが、お買い物なら僕は必要ないですよね?
シノさんだって収納魔法を使えますし、相手がルリちゃんだって構わない筈です。
アカネさんは赤ちゃんを身に宿しているので、連れてこれないのはわかりますけどね。
「今回ばかりはルリにお願いする訳にはいかないからさ」
「そうなのですね? でも、僕である理由はありますか?」
「君が一応は女の子だからだよ?」
一応は余計です!
僕はぺったんこですが、これでもちゃんと女の子です!
「冗談だよ。だけど、君が女の子だからこそ頼めるお願いがあるんだ」
「僕が女の子だからですか……あっ!」
今日の僕は頭が冴えているのかもしれません!
シノさんの言葉で欲しい物がピンときましたよ!
「そういう事なら早く言ってくださいよ。女性の下着も欲しかったのですね?」
「はい?」
むむむ?
シノさんが訳が分からないといった顔で僕の事を見てきます。
ですが、それ以外に考えられませんよね?
「えっと、女の子の格好をしていますが、中途半端なので下着まで揃えようと思ったのではないのですか?」
「いや、僕にそんな趣味はないからね?」
「でも、シノさんが穿いてるのは男性用の下着ですよね」
「当然だよ。だけど、女性の下着はいらないからね? あぁ、でもプレゼント用にならいいかもね。アカネもずっと買い物が出来ていないからさ」
あぁ、なるほど。
そうやってプレゼントをする振りをして、後で自分でつけるという事ですか。
それなら納得です。
ですが、そこまでして誤魔化したいのですかね?
そういう事なら妹として黙っていてあげるとしましょうか。
「では、下着を買いに行きましょうか」
「いや、それは後でいいよ」
「いいのですか?」
「うん。目的はそれじゃないからさ」
どうやら他にも目的があるみたいですね。
ですが、これ以上は思い浮かぶものはありませんね。
なので、僕は大人しくシノさんについて行く事にしました。
そして、辿り着いた先は……。
「シノさん……僕たち、場違いですよ」
「そうかい?」
「そうですよ。こんなに高いお店、初めてです」
目の前に様々な宝石が並べられたお店でした。
手に取るのも怖いほど高いアクセサリーや宝石が沢山置かれている場所です。
まぁ、頑丈そうなガラスの中に商品は並べられているので、実際には手は触れられませんけどね。
「そうかな? 僕としては一番手ごろだと思うけど?」
「こ、これが手ごろですか?」
やっぱりシノさんの金銭感覚はおかしいです!
いえ、お金を沢山持っているのは知っていますよ?
それでも、宝石一つ一つの金額が、金貨ではなく、白金貨の単位で表記されているのはどう考えても高すぎます!
「んー、これなんかどうかな?」
それなのに、僕が驚いている横では普通にシノさんは商品を見ています。
そして、シノさんが指を向けた先には、ラピスラズリと書かれた宝石が輝いていました。
「これは、指輪ですか?」
「そうだよ。今日は結婚指輪が欲しくてね」
「結婚指輪……あっ、それでルリちゃんを誘う事が出来なかったのですね!」
「そういう事。こういうのは驚かせてあげたいでしょ?」
わかります!
シノさんに驚かされるのはちょっとだけ頭にきたりしますが、こういう驚きなら許せます!
ただ、驚く反応を楽しむのではなく、相手を喜ばせる為に驚かせるのなら、相手も幸せですからね!
「それで、どう思う?」
「なんで僕に聞くのですか?」
「いや、意見を聞くために君を連れてきたんだろう?」
「違いますよね? 高いお店に僕を連れていって、僕が慌てる姿が見たかっただけじゃないですか?」
「それもあるかもね」
そうに決まっています。
実際に、僕がお店に入ってからずっとシノさんは笑っていましたからね。
そのせいで店員さんから変な目で見られてしまいましたからね。
きっと、僕の事を不審者と思ったのかもしれません。
「まぁ、そこはシノさんが心を込めて選んだ方がいいと思いますよ」
「そうかな?」
「そうですよ。というか、もうそれを買う気でいますよね」
「そうだね。これならルリの名前にも相応しいだろうしね」
「えっと、ラピスラズリがですか?」
「うん。倭の国ではこの色を瑠璃と呼ぶんだ」
そういえば、シノさんの名前の由来もそんな感じでしたね。
確か、シノノメでしたっけ?
「アカネもだね。っと、会計を済ましてくるよ」
「えっと、僕は?」
「そこでお人形さんになって待っているといいさ。立っているだけなら怪しまれないからね?」
怪しまれているのはシノさんが原因です!
ですが、そういう前にシノさんは店員を呼び、商品を取り出して頂いて奥の部屋へと行ってしまいました。
その間、僕はずっとその場から動く事も出来ず、ただただシノさんが部屋の奥から戻ってくるのを待ち、十分くらいですかね?
ようやくシノさんがペコペコと頭を下げる男性に挨拶をされながら戻ってきました。
「よし、ここでの用事は終わりだね」
「やっとですね。でも、よくすんなりと買えましたね?」
「お金はあるからね」
「いえ、普通ならああいうお店って色々と手続きがあるんじゃないですか?」
「さぁね?」
あー……これはまた何かやってますね?
僕だって高いお店の事くらいは少しは知っています。
高い商品を取り扱っているという事は、お店の信頼が大事です。
万が一、偽物が混ざっていたら大変な事になりますからね。
なので、その為の手続きや、万が一お客さんの方に問題があって、買った後にそっくりな偽物を返品に来た場合などを考慮して色々と審査などもある筈です。
それなのに、シノさんは直ぐに帰ってきました。
そして、奥の部屋から男性がシノさんをお見送りに来たことから、何かしらの権力を使ったと思います。
「あまり権力を振りかざしてはダメですからね?」
「わかってるよ。今回だけさ」
「本当ですか?」
「本当だよ。今日は別の用事もあるからさ」
まだあるのですね。
でも、流石にこれ以上は下着以外に買う物は思い浮かびませんよ?
「違うよ。残りの時間は君の為さ」
「僕のですか?」
「そうさ。初めての帝都を君に楽しんで貰おうと思ってね。だから、色々と案内してあげるよ」
まさか、そんな心遣いがあるとは思いませんでした。
「でも、実はシノさんが楽しみたいだけだったりもしますよね」
「半分はね。妹との時間を取り戻すという意味もあるからね」
僕だって、帝都の事はもっと色々と知りたいですからね。
それに、何だかんだ色々とあって、シノさんと……お兄ちゃんと二人で過ごす時間はありませんでしたからね。
「そういう事なら仕方ありませんね。では、案内をお願いしますね、お姉ちゃん?」
「お兄ちゃんだけどね」
「今はどっちでもいいのですよ! あっ、あの屋台が気になります! 行きましょう!」
「はいはい。はしゃぎ過ぎて迷子にならないようにね」
大丈夫です!
流石に迷子になるほど子供じゃありませんからね。
それに、探知魔法を使えばシノさんの位置は簡単にわかります。
という事で、僕たちは日が落ちる頃まで二人で帝都を回りました。
お兄ちゃんと二人きりというのは何だか変な感じがしましたが、たまにはこういうのもいいかもしれませんね。
あ、ちなみにですが、ちゃんとシノさんに下着は買ってあげましたよ?
自分で買うのは躊躇っていたので、今日のお礼に僕からプレゼントさせて頂きました。
複雑な表情をしていましたが、きっと喜んで頂けたと思います。
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