第471話 弓月の刻、大精霊と戦う

 「へぇ。刀を使うのね」

 「驚きましたか?」

 「意外だったのは確かね」


 これで、第三の試練も無事に合格ですね。

 一番心配だったサンドラちゃんも危なげなくトレントを倒していますし、問題はなかったみたいです。

 まぁ、トレントは樹型の魔物なので、サンドラちゃんにとっては相性が良かった相手ですしね。


 「それで、次はどうしますか?」

 「そうね。次はこの子の相手をして貰おうかしら」


 いよいよですね。

 フルールさんの隣に、大きなトレントが現れました。

 

 「いいのですか?」

 「大丈夫よ。そんなに軟な子ではないから」

 「本当ですね?」

 「えぇ」


 フルールさんは自信あるみたいですね。

 ですが、少しだけ心配です。

 あのトレントさんには搾取ドレインを教わる際に関わった事があります。

 その時に、魔力を抜きすぎて少しだけ枯れてしまった事もあったのですよね。

 なので、本気で戦った時にそのまま倒して消滅してしまうという心配もあります。

 

 「ユアン」

 「はい。わかっています。甘い事は言ってられない、ですよね?」

 「わかってるならいい」


 大丈夫です。

 それ以上に大事なのは仲間ですからね。

 敵に遠慮をして、味方が傷ついてしまったら元も子もありません。

 

 「ふふっ、成長したわね」

 「見ての通りです」

 「それならば、こちらも本気で行くわね……貴女達も協力しなさい」

 「わかりました」

 「お姉ちゃん達も頑張ってね!」


 むむむ……。

 これが最後になりそうな気がしますね。

 トレントさんの後ろにフルールさんとみぞれさん、ルーくんが並び、トレントさんを盾にするように浮かびました。

 トレントさんが前衛で、フルールさん達が後衛って事ですかね?

 何にせよ、これはかなり大変な戦いになるような気がしてきました。


 「ユアンどうする?」

 「そうですね……」


 何とも言えません。

 フルールさんの攻撃は僕の防御魔法を壊すほどの力があるのは知っていますが、みぞれさんとルーくんが単体でどれほどやれるのかは未知数です。

 そして、何よりもあの前衛を任されたトレントさんがどれほどの力を有しているのかもわかりません。


 「とりあえずは様子見する?」

 「それは愚策なような気がしますけどね」

 「うん。戦いには流れがある。一度押されたら押し返すきっかけを作るのは大変」


 そういう事ですね。

 ならば、ここはまず全力で挑むのがいいと思います。

 それに、みんなには内緒ですけど、最終手段も二つほどありますしね!


 「という訳で、僕たちから攻めましょうか」

 「来るのね?」

 「はい。フルールさん達も準備はよろしいですか?」

 「いつでもどうぞ」


 いいみたいですね。

 では、行きましょうか。


 「スノーさんとシアさんはまずはトレントさんを倒す事だけを考えてください」

 「了解したよ」

 「後衛は?」

 「後衛は僕が守りますよ」

 「わかった。任せる」

 「私達はどうするんだー?」

 「キアラちゃんとサンドラちゃんはフルールさん達の妨害をお願いします」

 「わかりました。サンドラちゃんはフルールさんをお願いします。みぞれさんとルークは私が足止めするね」

 「任せたぞー」


 サンドラちゃんにフルールさんの相手はちょっときついかもしれないですが、同時に二人を相手するのも無理と判断したのか、キアラちゃんがサンドラちゃんに指示を与えました。

 これで、僕たちの戦いの方針は決まりましたね。

 となれば、後は戦闘を始めるだけですね。


 「では行きますよ……遠慮はいりません。出し惜しみはなし。最初から全力です!」


 長引いてもいい事はありませんからね。

 先頭の合図を告げるように、僕はみんなに付与魔法エンチャウントを授けます。

 スノーさんとシアさんには身体能力向上ブースト付与魔法エンチャウント【斬】を与え、キアラちゃんには付与魔法エンチャウント【突】を与え、サンドラちゃんには魔力が向上するフェアリーウィンドを掛けておきます。

 

 「スノー、後に続く。蔦による攻撃は私が防ぐ」

 「任せたよ。本体への攻撃は私がするよ」


 付与魔法エンチャウントを授けると同時に、シアさんが動き出し、それに続くようにスノーさんが駆けだしました。

 

 「面白くなりそうね……だけど、そう簡単に近づけると思わない事ね」


 シアさん達が動きだすと同時に、フルールさんもトレントさんに指示を与えたのか、トレントさんが動き出しました。

 

 「凄い数だなー」

 「視界が埋め尽くされてるね」


 やはり一般的なトレントとは違うみたいですね。

 トレントさんから無数の蔦が伸び、シアさんへと一斉に襲い掛かりました。

 ですが、僕のお嫁さんがその程度で止められる筈がありません。

 

 「遅い」


 シュパパパパパーってシアさんがトレントさんから伸びた蔦を双剣で切り刻みました。


 「スノー」

 「わかってる」


 スノーさんが身を捻りながら跳躍をしました。

 その瞬間、スノーさんが走っていた場所に地面から蔦が生えたのです。

 凄いですね!

 シアさんもスノーさんも今の攻撃を予知していたみたいです。

 そして、着地したスノーさんは勢いを殺さずに再びシアさんの後に続きながら、トレントさんとの距離を縮めていきます。

 あの様子ならば、トレントさんは二人に任せて大丈夫そうですね。

 

 「では、私達も頑張ろうね」

 「うんー。私はフルールなー」


 二人の活躍を見守りたい所ですが、そうもいきませんね。

 シアさん達がトレントさんへと接近したのを見て、フルールさん達にも動きがありました。

 なので、僕たちはその妨害へと行動を移します。


 「ルーク、ごめんね!」


 魔法をシアさん達に向けて放とうとしたルーくんにキアラちゃんが矢を放ちました。


 「ちょっと、お姉ちゃん! 今、本気で僕の事狙ったでしょ!」

 「当り前だよ。弟を躾けるのは私の役目でもあるからね」


 迷いのない矢は真っすぐルーくんへと向かい、ルーくんは慌てたように放とうとした魔法を防衛へと回しました。

 しかし、その間にもみぞれさんがシアさん達を狙っていますね。

 ここは僕がサポートですね。


 「スタンスパーク!」


 水と風魔法の複合魔法を僕は放ちます。

 攻撃魔法ではありませんが、水の精霊さんに有効だと思われる雷属性の魔法です。

 それをみぞれさんから放たれた水魔法と相殺するようにぶつけます。


 「そのような魔法も使えるのですね」

 「威力はないので安心してください」


 その代わり、痺れてしまいますけどね。

 ですが、その攻撃も予知されたのか水を切り離すことによって防がれてしまいました。

 まぁ、妨害できたのなら十分ですね。


 「私も忘れないでね?」

 「忘れてないぞー?」


 みぞれさんとルーくんの攻撃は僕とキアラちゃんが防ぎました。

 なので、今度はこちらから仕掛けさせて貰います。

 

 「飛んでけー」


 両手を掲げたサンドラちゃんが大きな火球が生み出されました。

 

 「え、嘘でしょ?」

 「フルール様、お下がりください」

 「ここは僕たちが止めます!」


 フルールさんがサンドラちゃんの生み出した火球に驚いています。

 侮りましたね?

 サンドラちゃんの扱える火の魔法は凄いですよ?

 火の魔法だけに限れば、火龍の翼のルカさんにだって負けていませんからね!

 そこに僕のフェアリーウィンドが加わっているのです。

 まともに受けたらただでは済まない筈です!

 そして、その火球は真っすぐにフルールさん達に飛んでいきました。

 その結果……。


 「流石は龍人族ね。少し焦ったわ」

 

 モクモクと煙があがり、その中に三人の姿が浮かび上がります。

 防がれてしまったみたいですね。

 ですが、それも想定済みです。

 

 「残るはフルールさんだけですね」

 「何を言っているのかしら? 私の方はまだ……」

 「手遅れですよ?」

 「フルール様、ここまでのようです」

 「やられちゃいました……」


 フルールさんを護るようにしていた、みぞれさんとルーくんがゆっくりと落ちていきます。

 それと同時に……。


 「こっちも終わった」

 「楽勝だったね」


 トレントさんもゆっくりと倒れました。

 

 「という事ですよ」

 「やるわね」


 シアさん達の戦いはしっかりと見れませんでしたが、スノーさんがトレントさんの胴体を斬りつけ、シアさんが追い打ちをかけるように斬りつけた場所へと剣を突き刺したのは確認できましたね。

 その時に、魔法を使っていたようにも見えましたが、流石に何の魔法を使ったまでは見えなかったので残念です。


 「上手くいったね!」

 「そうだなー」


 キアラちゃんとサンドラちゃんも喜んでいますね。

 どうやら作戦が上手くはまったみたいです。

 

 「全く。非常識にもほどがあるわ」

 「そうですかね?」

 「そうよ。まさかキアラの矢に搾取ドレインを付与するなんて思いもいないもの」


 みぞれさんとルーくんが倒れた原因ですね。

 サンドラちゃんの魔法をみぞれさん達が防ぐと同時に、キアラちゃんは矢を放ちました。

 もちろん、致命傷とならないように足を狙ってです。

 痛みがあるかはわかりませんが、とりあえずは命に別状はないと思います。


 「それで、どうしますか?」

 「合格と言いたい所だけど、まだ私が残っているからね」

 「諦めたりはしてくれませんか?」

 「当然ね。やられっぱなしというのは性に合わないから。それに……」


 んっ……。

 フルールさんの魔力が膨れ上がりました。

 しかも、精霊魔法の魔力です。

 本来ならば感知するのが大変な精霊魔法が、簡単に感知できるほどの魔力をフルールさんが展開しています。


 「まだ、私は本気じゃないから」

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