第457話 弓月の刻、森の調査を始める

 「それにしても、どうしてこんなに魔物が少ないのでしょうね」


 魔物の痕跡なども探しつつ、僕達は山を目指して進んでいます。

 

 「ラディ達が駆除してるというのも一つの理由ですね」

 「でも、この辺りに出没するのはゴブリンとかばかりなのですよね?」

 「そうみたいだね」

 「でも、流石におかしくないですか?」


 前々から思っていたのですが、ナナシキに広がる森は広く、奥まで進めば虎族の領地に広がっている森にまで続いているらしいです。

 その為には、山を迂回したり、川を渡ったりしなければいけませんけどね。

 それでも、出没する魔物の数が明らかに少なく感じます。


 「確かに、それだけ広い森にも関わらず魔物が少ないってのはおかしいね」

 「魔素が少ないから?」

 「そうかもしれないなー」

 

 確かにこの辺りは魔素が少ないですね。

 

 「そうなると、奥がどうなっているのかというのも気になるところですね」

 「そうだね。ま、その前に山を少し見てみないといけないけどね」

 

 これが今回の予定ですからね。

 まずは、山の麓を目指し、その後に山の反対側、森の奥といった順番に調査をしてみる予定を立てました。

 まぁ、山の麓まではラディくん達が既に調査してくれているので何もないのはわかっていたりしますけど。

 それでも、僕だからこそ感じ取れる事もあるだろうという事で、一応目指している感じです。


 「けどさ、本当に転移魔法禁止で進むの?」

 「その予定ですよ」

 「そっかー……」

 「スノー、そんなに嫌な顔をしない」

 「スノーさんの気持ちはわかるけどね。でも、これは大事な事だと思うの」

 「そうだなー。私は楽しみだぞー」

 「楽しいのは楽しいけどさ。でも、大変だと思うよ?」

 

 そして、今回の冒険には一つ制限を設けました。

 それは、僕の転移魔法は禁止という制限です。

 深い意味はありませんが、あまり便利な事に慣れてしまっても冒険の醍醐味が半減してしまうと思いますからね。

 まぁ、余程の緊急事態が起きた場合には使う予定ではありますけど、多少の困難に遭遇したくらいでは使わない予定ではいます。

 だって、普通の冒険者は転移魔法なんて使ったりしませんからね。

 

 「っと、魔物の反応ですね」

 「どの辺?」

 「この先を進んだあたりです」

 

 山に向かって歩いていると、魔物の反応がありました。

 しかも、その近くには人の反応があります。

 と言ってもこれは……。


 「ヂュッ?」

 「ラディくんの配下ですね」

 「そうみたいだね」


 魔物が集団で固まっていると思ったら、ラディくんの配下たちでした。

 まぁ、まだまだラディくん達の支配地域テリトリーなので居るのは当然ですけどね。

 でも、どうしてこんな場所で集団で固まっているのでしょうか?


 「あら、皆さま……どうかなされたのですか?」

 「あれ、エヴァちゃんも居たのですか?」

 「はい。今日はいい天気ですので、お散歩日和です」

 

 そう言って、エヴァちゃんは木々の間から零れる光を見ました。

 なるほど。

 人の反応があると思ったらエヴァちゃんだったのですね。

 どうやら、エヴァちゃんは魔鼠さん達と一緒に森でお散歩をしていたみたいです。


 「でも、一人じゃ危険ですよ?」

 「大丈夫ですよ。この辺りは魔物も少なく、皆さまが一緒に居てくださりますから」

 「「「ヂュッ!」」」


 僕達が居るから安心してと魔鼠さん達が鳴きました。

 まぁ、危険な魔物も居ませんし、何かあれば一斉に魔鼠さん達がやってくるので安全といえば安全ですけどね。


 「それより皆さまは何しにいらしたのですか?」

 「僕達はギルドに頼まれて森の調査をしている所ですよ」

 「ギルド?」


 どうやらエヴァちゃんはギルドというものを知らないみたいですね。

 どうやらそこから説明しないといけないみたいですね。


 「まぁ、それではユアンさん達は凄い強いのですね!」

 「そこまでですよ。上には上がいますからね」


 実際にBランクというのは頑張れば到達できる人が多く存在しますからね。


 「それでもです。私は見ての通り、腕っぷしも弱く、魔法の扱いにも長けていません」

 「得意不得意があるので仕方ないですよ」

 「そうかもしれません。ですが、私も戦える力があれば、ラディくんの力になれると思うのです」


 みんなのではなくて、ラディくんのというあたり、ラディくんに対して好意を寄せていそうですね。


 「戦える力が全てではありませんよ。ラディくんにしか出来ない事がありますし、エヴァちゃんにしか出来ない事だってありますからね」

 「私にだけにしか出来ない事、ですか?」

 「はい。ラディくんの為にご飯をつくってあげたり、家の掃除を頑張ったりしてあげるだけでも、十分に支えになると思いますよ」


 僕達にとってのリコさんやジーアさんがそうですからね。

 あの二人がメイドさん達を纏め、家の事を全てやってくれるお陰で僕達は安心して冒険をして、安心してお家に帰れるのです。


 「なので、エヴァちゃんがラディくんの為にしてあげたいという気持ちが一番大事だと思います」

 「勉強になります。私、色々と学んで頑張ってみますね!」

 「はい! その意気です!」


 ラディくんも幸せ者ですね。

 こんなに健気な彼女? がいるのは羨ましいです。

 まぁ、僕も負けていませんけどね!

 カッコよくて可愛くて凄く頼りになるお嫁さんが居ますからね!


 「では、僕達は先に進みますね」

 「はい……あ、ユアンさん一つお願いがあるのですが、よろしいですか?」

 「はい、何でしょうか?」

 「えっと、ラディくんが魔物の村を作ろうとしているのは知っていますか?」

 「はい、知っていますよ」


 まだ記憶に新しい戦争。

 最初の相手は鼬族、狼族、鳥族の三カ国が相手でした。

 そして、その戦いの緒戦と言っていいのかわかりませんが、狼族と鳥族に挑んだのはラディくん達の魔物軍団で、見事に狼族と鳥族を降伏へと追い込んだのです。

 その時の報酬がこれです。

 魔物たちにも人権が欲しいというもの。

 その一歩としてナナシキの領土に村を作り始めたのです。


 「ご迷惑でなければついででよろしいので、もし住みやすそうな場所がありましたら教えて頂きたいのですが、どうでしょうか?」

 「もしかして、エヴァちゃんがお散歩していた理由がそれだったりしますか?」

 「はい。それも理由だったりします」


 少しでもラディくんの力になるためにやっていたのですね。

 ようやくこんな場所までお散歩しに来ている理由に納得がいきました。

 そういう事なら断る理由もありませんね。


 「わかりました。ですが、期待はしないでくださいね?」

 

 必ずしもいい場所が見つかるとは限りませんからね。

 ラディくん達は魔物ですが、その場所で人のように暮らすというのならば、色々な条件が必要な筈です。

 

 「ありがとうございます! では、私はお邪魔になりますので、この辺で。どうかお気をつけて」

 「はい。エヴァちゃんも帰りに気をつけてくださいね」

 

 それにしても、こんな場所でエヴァちゃんに会うとは思いませんでしたね。

 でも、それだけ自由に生活してくれているのは嬉しく思います。

 ずっと閉じ込められていた生活で失われた時間は戻ってきませんが、それ以上に今の生活を楽しんで貰えたらいいですよね。


 「でも、こんな場所に住む場所はありますかね?」

 「探せばあると思う。リコとジーアの村があるくらいだから」

 「でも、あの場所はユアンのお母さんが開拓した場所だし、また条件が違うんじゃない?」

 「龍人族の加護があるみたいですし、その影響もあって暮らせているのかもしれないね」

 「その辺はどうなのですか?」

 「どうなんだろうなー。私が元々暮らしていた訳ではないからなー」

 

 サンドラちゃんが何かした訳ではないみたいですね。

 流れ的には、先に滅んでいた龍人族の街にサンドラちゃんが逃げ込み、そこで一度死んで、管理者となって、その後にお母さんがリコさん達の村を作ったという感じですかね?

 となると、リコさん達の村もまだまだ謎が多いですね。

 

 「まぁ、リコさん達の村は置いといて、今はラディくん達の村になりそうな場所と森の調査ですね」

 「そうだったね」

 「いい場所あるといいね」

 「うん。けど、ないなら作ればいい」

 「そう簡単にはいきませんよ」

 「そんな事ない。オルフェならどうにか出来るかもしれない」

 「そう言われると、出来そうな気もしますね」


 そういえば、オルフェさんは森をつくる事が出来ましたね。

 新たに作った森の調査もまだですし、最悪その森を開拓するのもありかもしれませんね。

 人が住めるかはわかりませんけどね。

 そんな雑談をしつつ、僕達は森の調査を再開しました。

 そして僕達はこの後、困難に遭遇する事になりました。

 まさか、僕達の決めた制限があんなに大変な事を引き起こすとはまだ知らなかったのです。

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