第265話 補助魔法使い、恋人を取り戻す
漆黒の光が収まり、シアさんの顔がはっきりと見えるようになりました。
「ん……」
それと同時に、シアさんの目に光が戻ります。
少し青ざめたような表情も徐々に生気が戻り、健康そうな肌色へと戻っていきます。
少し心配でしたが、大丈夫そうですね。
「シアさん……だいじょー……んんっ!?」
重ねていた唇を離し、シアさんに体の状態を聞こうとしましたが、今度は再びシアさんによって唇を塞がれました。
「んんんっ!?」
しかも、いつもよりも激しく、情熱的な口づけで、ただ唇を合わせるのではなく、僕を求めるようにシアさんの舌が僕の口の中で動き回ります。
しかも、僕の腰に腕を回し、頭も抱えられているので逃げる事もできません!
「ぷはっー……」
一分くらいその状態が続いたでしょうか、ようやくシアさんがゆっくりと唇を離してくれました。
「ふぇ?」
あれ、何か足に力が入りませんよ?
それに、何だか頭も少しだけボーっとします。
「ユアン、平気?」
「はい……僕は大丈夫です」
シアさんが崩れそうになった僕を支えてくれました。
「ごめん。ちょっと魔力を貰いすぎた」
「あぁ、それでですか……でも、シアさんが無事で本当に良かったです」
濃厚な口づけを交わしていたのでそっちに気を取られていましたが、どうやらシアさんが僕から魔力を貰っていたのが原因だったみたいですね。
恐らくですが、契約が深まった時に僕からシアさんに魔力が流れて、シアさんと僕が成長するあれですね。
「ここ、どこ?」
「覚えていないのですか?」
「うん。気づいたらユアンとキスしてた」
シアさんが当たりをキョロキョロと見渡している辺り、本当に記憶はないみたいですね。
「シアさんは操られて、ここまで連れてこられたのですよ」
「そう。ごめん、迷惑かけた」
「いいんですよ。シアさんになら幾らだって迷惑をかけてもらいたいです。それが、シアさんの特権ですからね」
「嬉しい」
それに、それが僕の役割でもあります。
本当の意味でシアさんの主になれたと思いますし、何よりも恋人としてシアさんを護るのは僕にしか出来ない事です。
「リンシアが元に戻ったみたいで何よりだ。どうやったんだい?」
僕とシアさんとのやりとりをシノさんに見られていたようですね。
少し恥ずかしいですが、まだ終わりじゃありませんので仕方ないですね。
「シアさんに僕の血を与えました」
「なるほど。契約の上書きって事かな?」
「そういう事だと思います」
契約魔法の原理を全て理解した訳ではありませんが、この方法なら出来ると思い実行したら成功しました。
シノさんもイリアルさんの話を聞いていましたし、すぐに理解をしたようです。
「なるほどね」
そして、シノさんがルリちゃんの方へと歩き始めました。
「ルリ、戻っておいで」
そして、躊躇う様子もなくシノさんはルリちゃんへと口づけを行いました。
「ん……」
ルリちゃんが目を覚ました時のような声を出しました。
どうやら、シノさんの方も上手くいったみたいです。
「ん? んんー!?」
ルリちゃんが手がバタバタと動きだしました。
ゆっくりな動きではなくて、激しくバタバタ動いているのをみると、どうやら操られている状態から解除できたようですね。
それなのにです。
「んー!」
シノさんはまだ続けていますね。
しかも、暴れるルリちゃんの腕を抑え込んで身動き取れないように無理やりです。
「ん……」
次第にルリちゃんの動きが鈍くなっているのがわかります。
もしかして、
そして、ルリちゃんが膝から崩れ落ちそうになり、ようやくシノさんがルリちゃんから顔を離しました。
「あ……シノ様、しのさまぁ……」
「うん。どうやら元に戻ったみたいだね」
ルリちゃんを抱えたまま、安心したようにシノさんは言いますが、結構前から戻っていたと思いますよ。
それに気づかないシノさんではないはずです。
「けど、いいのですかね?」
「うん。アカネにバレたら怒られる」
ですよね。
アカネさんというお嫁さんがいながら、ルリちゃんを取り戻すためとはいえあんなにキスをしていたのですから、きっとバレたら怒られると思います。
「大丈夫だよ?」
僕たちの会話が聞こえていたようで、シノさんが動けなくなったルリちゃんを抱っこして戻ってきました。
「本当に大丈夫なのですか? それって浮気みたいなものですよね?」
「傍からみればそうかもしれないね」
「いや、どう見ても浮気ですよ」
もしシアさんが他の人とそんな事をしていたら、僕はすごく怒る自信があります。
「浮気じゃないよ。だって、ルリは僕の第二の妻になるからね?」
「「え?」」
驚いた声が重なりました。
一つは僕のもの。
そして、もう一つは。
「わ、私がシノ様の妻ですか!?」
何故かルリちゃんでした。
「うん、アカネとも話して決めたんだ。だって、あの家に住んでいて肩身が狭いでしょ?」
「そんな事ないです」
「あるよ。いつも気を遣ってくれているじゃないか」
そりゃ気を遣いますよね。
新婚さんの住む家に一緒に住んでいるのですからね。
例え、メイドさんみたいなことをやっているとしても、ルリちゃんはシノさんの従者ですし、他人ではありません。
「でも……」
「まぁ、ルリが嫌だというのなら無理は言わないし、ルリを取り戻すためとはいえ、唇を奪った事は謝るよ」
「そんな、シノ様が謝る事ではないです! それに、凄く嬉しいです」
「それじゃ、僕と結婚してくれるかい? 立場としては第二夫人となってしまうけど、それでもいいのならだけど。勿論、アカネ同様に愛するよ」
「はいっ! これからもシノ様の従者として妻として頑張ります!」
まさかの急展開ですね。
「でも、お嫁さん二人ですか。問題はないのですか?」
「ないよ。ルードでは普通の事だからね」
むしろ、王族ならば複数のお嫁さんが居るのは当たり前の事みたいです。
時には政略結婚として、好きでもない相手と結婚する事もあるみたいですね。
まぁ、普通といっても王族や位の高い貴族など、お金に余裕があって、血を絶やさない為と理由があるみたいですけどね。
けど、ここはアルティカ共和国です。
ルードの常識が通用するのでしょうか?
「僕たちの住む街はルード帝国の領地ではないけど、アルティカ共和国から土地を授かっているし、ルード帝国のやり方でも問題はないはずさ。そもそも、アルティカ共和国でも複数の妻を娶ることはあるしね」
通用しなくても通用させるつもりみたいですし、アルティカ共和国でも問題ないみたいですね。
「シアお姉ちゃんごめんなさい」
「何が?」
「シアお姉ちゃんよりも先に私がお嫁さんになっちゃいます」
「平気。私もすぐにユアンと結ばれる予定」
「なら、結婚式は一緒にやろうね!」
「うん」
僕とシノさんが話している間、シアさんとルリちゃんが会話をしていましたが、いつの間にか合同で結婚式をしようって約束をしていました。
まだシアさんと恋人になったばかりで結婚の話題すらあがっていないのに気が早いですよね?
でも、合同で結婚式をするのならスノーさんとキアラちゃんも混ざったら賑やかになりそうですよね!
「あのー……私の事、忘れてない?」
「大丈夫ですよ。忘れていませんから」
イリアルさんが防御魔法の中で座っていました。
呼吸も荒くなっているので、濃い魔力濃度によって魔力酔いにかかりはじめているみたいですね。
「良かった。あっ、結婚式は私も呼んでくれるんだよね?」
「呼びませんよ。イリアルさんは敵なのですから」
「ひどい……」
酷くありませんよ。
だって、こんな事をして今更仲良く何てできそうにありませんからね。
「急に子供達が動かなくなったと思ったら、嬢ちゃん達がやってくれたんだな」
どうやらユージンさん達の方も無事に終わったみたいですね。
「助かりました。見ての通り、シアさんとルリちゃんを取り戻し、イリアルさんも捕まえる事が出来ました」
「それは良かったわ」
ユージンさん達をみると傷一つなさそうなので良かったです。
子供とはいえ影狼族の子共達です。それなりに戦闘能力はあってもおかしくはありません。
「実際には何発かは喰らったけどな。けど、嬢ちゃんの防御魔法が防いでくれたよ」
「それは良かったです。けど、よく無力化できましたね」
「違うわよ。本当に急に動かなくなったの」
そう言っていましたね。
子供達をみると、その場で俯き立ち尽くしているのが見えます。
シアさんが操られていた時と同じで、イリアルさんを防御魔法で遮断したからかもですね。
という事は、血の契約は防御魔法で遮断できる可能性が高いとわかりますね。
「それで、捕まえたあいつはどうするんだ?」
「そうですね……」
「そろそろ、本気で気持ち悪いよー」
座った状態から横になっちゃってますね。
けど、開放する気にはなりませんよね。
「ユアン、おかーさんを解放してあげてほしい」
「ルリからもお願いなんだよ」
僕がどうするか迷っていると、シアさんとルリちゃんが解放してあげて欲しいとお願いをしてきました。
「でも、イリアルさんは二人を無理やり連れてきたのですよ?」
誘拐と同じです。
もしシノさんがルリちゃんに
「違う。おかーさんは……」
「シア、あとは私が説明するわ」
「え? イルミナさん?」
コツコツと音を立て、洞窟の奥から姿を現したのはイルミナさんでした。
「ごめんね。こうするしか方法はなかったの」
イルミナさんが申し訳なさそうに僕達に頭を下げました。
「これはどういう事ですか?」
新手の登場に緊張が走ります。
シアさんとルリちゃんは連れてこられたのでわかります。
ですが、イルミナさんはどうなんでしょうか?
昨日の時点では、イルミナさんには変な様子はなかったと聞いています。
となると、最初からイリアルさんに協力していた可能性は否定できません。
つまりは……敵の可能性もあります。
「そんなに怖い顔をしないで? 私達は決してユアンちゃんの敵ではないから。むしろ、協力者……ううん、協力して貰いたい立場なの」
「また、勧誘って事ですか?」
「勧誘?」
「魔族の力になれって事ですよね?」
イルミナさんの眉間に皺が寄りました。
「そういう事ね……全くっ!」
イルミナさんが息を大きく吸い込みました。
「説明くらいしっかりしなさいっ!」
防御魔法で遮断されたイリアルさんの元へと近づくと、離れている僕でさえ耳を塞ぎたくなるような大きな声を出しました。
「せ、説明したもん」
「できてないからこんな事になっているんでしょうが!」
「うぅ、娘が怖い……」
僕を騙そうとした演技、にも見えませんね。
イルミナさんが鬼の形相でイリアルさんを叱っています。
「ユアンちゃん、本当にごめんね。私が最初から説明すれば良かったわ」
「えっと……イルミナさん達は敵ではないって事ですか?」
「違うわよ。だから、お母さんを許してあげてくれる? 心配なら拘束したままでいいけど、ちゃんと話せるようにはして貰えないかしら?」
「ユアン、私からも頼む」
「ユアンお姉ちゃんお願いだよ!」
むむむ……。
どうやら、僕の勘違いでもあるようですね。
「わかりました。拘束はまだ解けませんが、魔力酔いだけは治してあげる」
防御魔法を切り替え、防御魔法内の魔素を
「あ、楽になった。ありがとうね」
「お礼は要りません。ただ、ちゃんと説明して頂けますか? どうしてこんな事をしたのかを。それに、この場所を知っていた事もです」
信じるか信じないかは別として、話は聞いた方が良さそうですね。
それに、イリアルさんの事はシアさんのお母さんですし、争わなくて済むのなら争いたくはありません。
「えっとね……」
「あ、話すのはイルミナさんでお願いします」
「そんなー……」
仕方ないですよね。
お母さんよりもイルミナさんの方が説明が上手だと思います。
また、さっきみたく話が堂々巡りになるのは勘弁ですからね。
「わかったわ。どうしてこんな事をしたかというと……」
イルミナさんが今までの経緯……イリアルさんがナナシキの街へと訪れた理由から話してくれました。
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