第229話 シアの変化
豪勢な食事を堪能した僕たちは、ここ数日ダンジョンに潜っていた疲れを癒すため、早々に休む事になりました。
「それじゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさいです」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
キアラちゃんの部屋にスノーさんとキアラちゃんが入って行きます。
今日も二人は一緒に寝るみたいですね。
恋人同士なので当たり前といえば当たり前ですが、羨ましいですね。
でも、僕たちだって変わりませんよ!
「それじゃ、シアさん寝ましょうか」
「うん」
寝るのは僕の部屋で寝る事が多い……というよりもいつも僕の部屋ですね。
「あれ、どうしたのですか?」
僕が部屋に入ると、シアさんは何故か僕の部屋に入らず、部屋の前で立っていました。
「そういえば、仕事ラディに任せきりだった。まだ時間は早い。ラディの仕事の確認しとく」
「えっと、明日じゃダメなのですか?」
「ダメじゃない。けど、私が居ない間に変な人が居たら困る。こういうのは早い方がいい」
「そうですか……わかりました。僕は先に休んでいますね」
「うん。行ってくる」
明日から二日間は一度、ダンジョンに潜るのをやめ、溜まっているであろう仕事を一度やろうという話になりました。
僕もそろそろ魔法水の補充をしなければいけないですしね。
「久しぶりに一人ですね……だーいぶ!」
大きなベッドに僕は飛び込み、そのままお布団に潜り込みます。
シアさんが居たら、怒られるかもしれませんけど、今は居ませんからね。
「広い……」
けど、シアさんが隣にいないベッドはただでさえ広いのに、余計広く思えて、何だか寂しい気分になります。
「けど、シアさんは街の為に頑張っていますし、我慢ですよね」
最初は一人で寝るのはちょっと怖かったですが、壁の時計も音が鳴らないようにしましたし、一人でも怖くはありません。
たった一日くらい……一人でも大丈夫です。
そしれに、シアさんが仕事を終えたらきっと朝は一緒ですからね。
「おやすみなさい……」
いつもなら帰って来るおやすみの返事はありませんが、僕は一人、ベッドの中で小さく丸まって眠るのでした。
しかし、朝起きても僕は一人でした。
どうやらシアさんは帰ってこれなかったみたいです。
もしかしたら、ラディくんの仕事に支障があったのかもしれませんね。
後で、聞いてみた方がいいかもしれないですね。
僕に手伝える事があるかもしれですからね!
スノーさんとキアラちゃんは僕たちよりも早く仕事に出かけたようで、珍しく僕は一人で朝食をとることになりました。
といっても、ジーアさんが近くにいてくれますので、食べるのは僕一人ってだけで、孤独ではないですけどね。
「けど、珍しいですね。いつもならリンシアさんが一緒ですのに」
「はい、どうやら昨日は帰ってこれなかったみたいですね」
シアさんとの繋がりのお陰でシアさんの居場所はわかります。
相変わらず、シアさんは仕事場にいるみたいですね。
「それじゃ、行ってきますね」
「はい、お仕事頑張ってくださいね」
ジーアさんに見送られ、僕はお仕事の為にチヨリさんの元へと向かいます。
「寒いですね……あっ」
いつもなら、朝はシアさんと一緒に仕事に出かけているので、思わず話しかけてしまいました。
しかし、僕に返事をしれくれるひとも、手を繋いで僕の手を温めてくれる人は今日はいません。
隣にシアさんが居ない。
たったこれだけなのに……調子が狂う感じがします。
いつもならあっという間に着く筈のチヨリさんのお店までの道のりが遠く感じます。
シアさんのいる詰所は反対方向にあるので、そっちが気になっちゃいます。
うー……気になるならせめて朝の挨拶だけしてシアさんの顔を見ておけば良かったです。
今からでも……。
戻ろうかなと考えていましたが、今度はあっという間にチヨリさんのお店まで来てしまいました。
「チヨリさん、おはようございます」
「うむー。おはよう、久しぶりだなー」
「そんな事はないですよ?」
「そうだったかー? まぁ、早速だが手伝ってくれなー」
「わかりました」
まぁ、僕がここで仕事をしていればシアさんが警邏で通りますし、それまでの我慢ですね!
「お、今日はユアンちゃんがいるな」
「あ、おはようございます。今日と明日はちゃんと仕事しますよ」
「嬉しいな。これはみんなに伝えないとだな!」
チヨリさんの販売するポーションの陳列を手伝いつつ、僕の仕事場となる診療所の設置をしていると、さっそく見つかってしまいました。
みんなに伝えると言っていましたし、今日は忙しくなりそうですね。
前も少し休む時が多々ありましたが、その後は忙しくなりましたからね。
「ユアンー。診療が終わったら魔力水の補充も頼むなー」
「はい、午後になったら行ってきますね」
「うむー」
チヨリさんの販売するポーションも並び終え、暫くすると予想通り街の人がぞろぞろとお店の前に並び始めました。
「ユアンちゃん、ダンジョンに挑んでいるんだって?」
「はい、まだ潜り始めたばかりですけどね」
「ユアンちゃんよ、これ良かったら食べておくれ」
「いつもありがとうございます。寒い日は腰とか痛めやすいので気をつけてくださいね」
やっぱり、人がいつもよりも多く並んでいますね。
「ユアンちゃん、そっちのポーションを貰っていいかな?」
「はい、マナボトルですね」
「代金は、これでいいんだよね?」
「はい、大丈夫ですよ。ちょっとずつお金の扱いに慣れていってくださいね」
イルミナさんのお陰もあり、街の人もホントに少数ではありますがお金を使う人がで始めましたね。
使い慣れていないってだけで、使い方は知っているようなので、説明が不要なのは助かりますね。
といっても、貨幣の価値はよくわかっていないみたいなのは問題点ですね。
もちろん、ぼったくりなんてしませんよ?
適正価格でちゃんと販売をしていますからね!
それにしても……忙しいです!
僕は基本的に座って並ぶ人の相手をしている事が多いですが、人の数が多すぎます!
中には本当に怪我をしてしまった人もいるみたいで、時々ですが回復魔法を使う事もありますし、一人一人ちゃんと話を聞かなければなりませんのでそれが大変です。
「あ……」
一向に列が途絶えず、街の人を相手をしているとき、僕の視界の外れに僕の事を見ている人がいるのに気づきました。
シアさんだ!
僕も気付いていますよ!
それを伝えるべく、シアさんに向かって手を振ると、シアさんも小さくですが手を振り返してくれました。
ですが、それも一瞬。
シアさんはすぐに仕事に戻ってしまいました。
僕が忙しそうにしているので、気を遣ってくれたみたいですね。
だけど、いつもみたいに割り込んで話しかけてくれてもいいのに……昨日一緒に居れなかったせいか、そんな気持ちが込み上げてしまいます。
「ユアンちゃん、大丈夫か?」
「あ、はい! 大丈夫ですよ。 えっと、どこか悪い所はー……」
ですが、今は僕もお仕事中です。
折角来てくれた人の為にもちゃんとしなければいけませんね!
僕は気持ちを切り替えて再び街の人の診療を始めます。
だって、夜になればまた会えますからね!
それまでの辛抱です!
頑張りますよー!
だけど、夜になってもシアさんは帰ってきませんでした。
どうやら、仕事の事でやることが沢山あるみたいで夜も仕事をしなければいけないみたいです。
私の事は気にしなくて平気。
だから、先に休んでいて欲しい。
そんな伝言が残されていたのです。
「おはようございます」
「おはよう……ってどうしたの、朝から?」
「いえ、ちょっと眠れなくて……」
「ユアンさん大丈夫?」
大丈夫ですよ。
一応少しだけ眠りましたからね。
結局、朝近くになってもシアさんは戻ってきませんでした。
「そういえば、シアは?」
「昨日と一昨日と仕事場に行ったきりですね」
「えっ、戻ってきていないの?」
「どうやら、忙しいみたいですので」
「んー……。そんな話は聞いていないけどなぁ」
まぁ、全てが全てスノーさん達に伝わる訳ではないですからね。
街に影響が出ない範囲で仕事が忙しい可能性もありますし、もしかしたら、またダンジョンに潜る準備としてラディくんに仕事とかを教え込んでいるかもしれないですし。
「では、先に出ますね」
「え、朝食は?」
「今日はお腹空いてないので大丈夫ですよ」
「けど、昨日の夕飯も……」
「大丈夫です。お腹が空いたら収納にしまってある食べ物を摘まみますからね」
「わかったけど、昼食はしっかり食べてね?」
「はい、では行ってきます」
スノーさん達が心配をしてくれますが、問題はありません。
元々、朝はあんまり食べないですし、お腹も空いていません。
けど、あまり寝ていないせいかそっちの方がちょっと辛いかもしれません。
だけど、明日からはまたダンジョンに潜る予定でいますし今日もお仕事をしておかないとチヨリさんが困ってしまいますからね。
寝ていないのは僕の事情ですので、休みたいなんて言っていられません。
それに、横になっていると変な事を想像してしまいます。
それなら忙しくて、考える事を忘れられる方が気が楽だと思います。
さて、今日も一日頑張りましょう!
明日はダンジョンに潜りますので、シアさんも仕事に区切りをつけて帰って来る。
僕はそれを信じて、チヨリさんのお店へと向かうのでした。
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