第223話 弓月の刻、分断される

 「……扉だ」

 「……扉だね」

 「……扉ですね」

 「……扉」


 このフロアの出口と思われる扉をみつけましたが、扉をみつけた感想がそれしか思い浮かびませんでした。


 「長かった……」

 「といっても2時間ほどですけどね」

 「けど、もっと彷徨った気がするね」


 キアラちゃんの言う通り、もっと時間が掛かった気がします。

 

 「せめて、魔物が出てくれれば気を間際らす事が出来たのになぁ」

 「同じような場所をずっと歩くのがこんなに大変だとは思いませんでしたね。

 壁、壁、壁とずっと変わらない景色でしたからね。

 一人だったら気が狂っていたかもしれません。


 「で、ユアンどうするの?」

 「何がですか?」

 「次に進むかどうかだよ。階段じゃなくて、扉って事はボスが居る部屋だよね?」

 「多分そうだと思いますよ。進まないのですか?」

 「いや……一応ね、ユアンは次のボス部屋に挑むのは今度って言ってたからね、どうするのかなっって」


 そういえば、そんな話になりましたね。

 今回はお試しという事で、どこかで区切りをつけないとずるずると奥へ奥へと進む事になってしまいそうですからそう決めたのでした。


 「そうですね……ボス部屋を越えれば、きっとセーフルームがあると思いますし、セーフルームまで行って終わりにしましょうか」


 予定は変わるのは仕方ないですよね。

 だって、迷宮を彷徨い続け、ようやくここまで来ましたからね。地図にルートが記入されているとはいえ、再びあんな場所を歩くのは絶対に嫌です!


 「良かった……」

 「迷宮は懲り懲りです」

 「うん。だけど、このフロアがお試しなら、この先もある」

 「「「…………」」」


 楽しくて、わくわくするのがダンジョンって訳ではないのですね。

 好きな人は好きかもしれませんが、どうも僕たちは苦手のようです。

 

 「それはその時として、今はボスエリアを突破してしまいましょう」


 嫌な事は一度忘れる方がいいです。

 いつまでも引きずると、後に響きますからね。

 

 「それじゃ、開けるよ?」

 「今度はどんな魔物なのかな」

 「ゴブリンの次ですから、オークとかですかね?」

 「何でもいいから戦いたい」


 同感です。

 戦闘自体は攻撃魔法が苦手なのであまり得意ではありませんが、僕も今はそういう気分です。

 とにかく、体を動かしたい。そんな衝動にかられます。


 「っと、どれどれ……マジかー……」

 「どうしたのですか?」

 「いや……ね。うん」

 

 スノーさんからの返事があまりよろしくありません。

 もしかして、強い魔物だったり、厄介な魔物でもいるのでしょうか?


 「覗けばわかる…………さいてい」

 

 シアさんの耳がしょんぼりと垂れました。

 これは、良くない光景が広がっているみたいですね。


 「そんなにですか?……何か、裏切られた気分です」


 キアラちゃんも同じような反応をしています。

 これは相当良くない状況みたいですね。


 「まさかですよ……?」


 僕も扉の先を覗きます。

 そして、広がっていた光景は……。


 「ボスエリアじゃないのですね……。まだ迷宮は続くのですね……」


 扉の先に広がっていたのは、4つに分岐した通路でした。

 つまりは、まだ迷宮は続いているという事になります。


 「けど、さっきよりも道幅がかなり狭いね」

 「ちょうど人一人分くらいだね」


 広がって歩くのは無理そうですね。


 「仕方ないですね。一列で進みましょう」


 迷宮が終わったと思ったらその先もまた迷宮……一体どこまで続くのでしょうか。


 「今回も左から潰していく感じでいいのかな?」

 「はい、それが一番てっとり早そうですからね」

 「隊列は?」

 「狭い場所だから、スノーさんとシアさんが剣を振るのは大変かも……」

 

 さっきの場所では魔物は出ませんでしたが、この場所でも出ないという保証はありません。


 「なら、先頭は僕が行きます」

 「危険」

 「平気ですよ。防御魔法がありますからね」

 

 それに、狭いという事は、相手も回避が出来ない筈ですからね。

 それなら僕でも攻撃を当てるのは難しくないと思います。


 「なら、弓で援護できるようにユアンさんの後ろは私がいくよ」

 「私は最後尾。スノーよりは剣が短い分どうにかなる」

 「今回はみんなに助けて貰う事にするよ」


 珍しい隊形になりましたね。

 

 「では、はぐれないように気をつけてくださいね」

 「一本道みたいだし、大丈夫だよ」

 「そうだよ…………」」


 あれ?

 通路に入った瞬間、スノーさんの声が途絶えました。

 不思議に思い、僕は後ろを振り向いたのですが……。


 「道が、なくなっちゃいました?」


 どうみても、壁ですよね?

 さっきまでなかったはずの壁が出現し、いつのまにか僕は一人にされてしまったみたいです。

 迂闊でした。

 どうやら通路は罠だったようで、通路に人が入ると分断される仕組みになっていたみたいです。


 『シアさん、聞こえますか?』


 むむむ……どうやら念話も妨害されているみたいです。

 

 「これは、一人で進むしかないみたいですね」


 転移魔法で脱出する事もできないので、選択肢は進むしかないようです。

 みんなはどうするのでしょうか?

 こんな事になるとは思っていなかったので、さっきのフロアの地図は僕が持っていますし、三人で戻る選択をしたとして、セーフエリアに辿り着くのはかなり時間がかかると思います。

 となると、先に進んだ可能性が高いですね。

 けど、通路は四つありましたし、どの通路も僕と同じ条件としたら、みんなバラバラになってしまっているかもしれませんね。

 心配ですから急がないと……。

 幸いにも通路は曲がり角などはなく、一本道なので迷う事はなさそうです。


 「その代わり、上に登ったり、下に降ったり、変な通路ですね」


 何か、やたらと坂道が多くて、地味に足にきます。

 もしかして、僕を疲れさせることが目的なのでしょうか?

 それだったら、よく考えられてますね。

 狭い通路で精神的に圧迫し、坂道の連続で体力も奪う。

 これは、冒険者であっても辛いかもしれません。

 普段から動いていても、辛いものは辛いですからね。


 「で、ようやく広場ですか」


 開けた場所ってだけで、少し安心できるのは不思議ですね。

 辿り着いた広場はちょっとした部屋みたくなっていました。

 ベッドはありませんが、木製の机と椅子が置かれ、一応は休む事が出来るようです。


 「ですが、扉がないのは安心できませんよね。もしかしたら、魔物がそこから現れるかもしれないですし」


 僕が来た通路とは別に、通路が二つありました。

 問題はどちらの通路に進むのが正解なのか……ですが、それも直ぐに解決する事になりました。


 「えっと、誰かいるの?」


 悩んでいた通路の一方から、恐る恐ると言った感じで、人が歩いてきたのです。


 「僕ですよ」

 「ユアンさん! 無事でよかった……」

 「申し訳ありません。キアラちゃんも無事で良かったです」


 歩いてきたのはキアラちゃんでした。

 僕の姿を見て安心したのか、キアラちゃんは大きく息を吐きだしています。


 「シアさんとスノーさんはやはり別ですか?」

 「うん、ユアンさんと同じように通路に入った途端に遮断されちゃった」

 「やっぱりあの通路は一人用なのですね」


 僕と合流する為に、みんなそれぞれの通路に入ったみたいです。

 

 「けど、合流出来て良かった」

 「そうですね。もしかしたら、今頃はスノーさんとシアさんも合流しているかもですね」

 「そうかもしれないね」


 一人よりも二人の方が心強いですからね。

 

 「でも、シアさんじゃなくてごめんね?」

 「え、シアさんじゃなくても嬉しいですよ?」


 一人はちょっと寂しかったですからね。

 そんな時にキアラちゃんが来てくれたのです、嬉しくない訳がありませんよね。


 「そっか……」

 「どうしたのですか?」

 「ううん、シアさんも大変だなって改めて思っただけだよ」

 「みんな頑張っていると思いますよ? キアラちゃんだって、スノーさんだって大変ですよね」


 冒険者家業も街でのお仕事もみんなが頑張っているのを僕は知っていますからね。


 「そういう意味じゃないんだけど……」

 「どういう意味ですか?」

 「ううん、何でもない。それよりも、スノーさん達が待ってるかもしれないし、進んだ方がいいのかな?」

 「それもそうですね。少しだけ、休憩したら行きましょうか」

 「そうだね」


 折角、机と椅子が用意してありますからね。

 軽い食事と水分を補給しておくのは大事です。


 「ユアンさんはどっちから来たの?」

 「僕はあっちの通路からです」

 「という事は、向こうの通路に向かえばいいのかな?」

 「それしかないですね。僕の方は一本道でしたし」

 「私の方もだよ」


 消去法で自然と進む通路も決まりましし、出発ですね。


 「何か、私達二人って変な感じがするね」

 「そうですね。野営の時は一緒でも二人で探索ってなかったですからね」


 ペアが自然とわかれていましたからね。


 「折角だし、お話しながら進みませんか?」

 「はい、構いませんよ。静かだと寂しいですからね」

 

 という訳で、キアラちゃんと並んで先に進む事になりました。

 不思議な事に、ちょうど二人分くらいの道幅がありますから、並んで歩いても問題ないです。

 まるで、それを狙ったように造られている気がします。

 けど、キアラちゃんと合流ができましたし、シアさん達とも直ぐに合流は出来るかもしれませんね。

 

 「そういえばユアンさん」

 「はい?」

 「ユアンさん達ってどこまで進んでいるの?」

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