第224話 補助魔法使い、キアラとスノーの関係を知る
「ユアンさん達ってどこまで進んでいるの?」
キアラちゃんと二人で並んで歩き、シアさん達とも合流しようとくねくねとした一本道を歩いていると、突然キアラちゃんからそんな質問が飛んできました。
いきなりといっても、その前に他愛のない話はしてましたけどね。
けど、何の脈絡もなく、いきなりそんな話だったので、僕は一瞬理解が追い付きませんでした。
「どこまでって……どういう事ですか?」
「えっと、シアさんとユアンさん達の仲はどんな感じなのかなーって思ってね」
僕たちってどうやら僕とシアさんの事みたいですね。
「僕とシアさんの仲でですか? 仲良しですよ?」
「仲良いのは知ってますよ。ただ、もっと具体的にはどんな感じなのかなって」
「具体的にですか……」
難しい質問ですね。
仲の良い定義がそもそも曖昧ですよね。
いつも一緒にいるのが仲いいとも言えますし、離れていても仲がいいって事もあるでしょうし。
「よく、わからないです。そもそも、具体的にってどんな事なのですか?」
なので、僕はそうとしか答えられませんでした。
「そうだね……寝る前にする事とかは?」
「シアさんと寝る時にですか? 一日の事とかお互いに話したりしますよ」
結局、シアさんとは毎日一緒に寝ています。
まぁ、シアさんだけとは限りませんけどね。スノーさんとキアラちゃんと四人で寝たりもしますし、リコさんとジーアさんも誘った事もあります。
「それだけ?」
「はい、そうですよ?」
「そうなんだね……」
何でしょう、キアラちゃんががっかりしています。
何か、変な事でも言ったのでしょうか?
「それじゃ、寝る前以外でも……キス、とかしたことある?」
「え、キスですか? ある訳ないじゃないですか」
「え、嘘だよね!?」
「本当ですよ?」
何でそんなにキアラちゃんが驚いているのかはわかりませんが、普通しませんよね?
キスって恋人同士がするものですよね。
僕とシアさんは恋人ではないので、しないのは当たり前です。
「ユアンさんの事だから、もしかしたらと思ったけど、本当にまだだとは思わなかった……」
「僕だからって言いますけど、僕じゃなくてもしないと思いますよ? キアラちゃんだって、スノーさんと仲がいいですが、したりしませんよね」
スノーさんとキアラちゃんが一緒に寝ていたりするのは、何度も起しにいっているので僕も知っています。
「私達はしてますよ?」
「ほら……え?」
僕の聞き間違え、ですよね?
「えっと、ユアンさんどうしたの?」
「いえ……今、キアラちゃんがしている、って言った気がしたので、びっくりしただけです」
「気がするじゃなくて、そう言ったよ?」
「え……えぇ!? 冗談、ですよね?」
「ううん、冗談じゃなくて、本当だよ。私とスノーさんは恋人同士だから」
こ、恋人!?
いつの間に、二人がそんな仲に……。
「もしかして、気付いてなかったの?」
「はい、全く……二人の仲がいいのは知っていましたが、まさかそんな関係になっているとは思いませんでした」
「ユアンさん……流石に鈍すぎると思うよ」
そんな事を言われても、まさか女性同士でそんな仲になるとは思いませんよね。
だって、恋人というのは男女間で起こる事ですし。
「そんな事ないよ。だって、ユアンさんのお母さん達だって、女性同士だよ?」
「そうかもしれませんけど……それは特別な事情があったのかもしれませんよね」
「アリア様が言ってたよ。二人は認めて貰えなくて駆け落ちしたって」
確かにそんな話もありましたね。
「それに、イルミナさんだって従業員の人と愛し合ってるって言ってましたよ」
「確かにそうですけど……」
そう考えると、意外と普通な事なのでしょうか?
「けど、いつから二人はそんな仲になったのですか? 僕たちが知らない間に……」
「いつからだろう……ちなみにだけど、シアさんは気付いてましたからね?」
「え、そうなのですか!?」
別にパーティー内で恋愛禁止とかはないので構いませんが、僕だけ知らなかったのはちょっとショックでした。
「教えてくれれば、僕も祝福しましたのに……」
「ごめんね、だけど、流石に気付いているのかなーって」
「全く気付きませんでしたよ」
まぁ、気づかなかった事は仕方ないですね。
それよりも、スノーさんとキアラちゃんが恋人です!
これは、きっとおめでたい事ですよね!
「キアラちゃん、遅くなりましたが、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
改めて言われると恥ずかしいようで、キアラちゃんが顔を紅くし、照れています。
「次はユアンさん達だね!」
「僕たちですか?」
「うん! ユアンさんとシアさんが結ばれる事、楽しみにしてるからね」
「そんな日が来るわけないじゃないですか」
「そうかな?」
「はい、僕はシアさんの事は、優しくて、カッコよくて、可愛くて好きですが、シアさんは僕を主と慕ってくれているだけですからね」
「え?」
キアラちゃんの驚いたように目が点になっています。
「どうしたのですか?」
「ううん……何っていいのかわからないけど……ユアンさん、本当にそう思っているの?」
「はい、事実ですからね」
シアさんは僕の事を凄く信用してくれているみたいです。
そして、どんな時も僕を守るために傍に居てくれます。
本当はもっと自分の時間をとりたいことだってあると思うのに、いつも僕に合わせてくれるのです。
しかもですよ?
僕が気を遣わないように、シアさんが一緒に居たいからという理由までつけてくれるのです。
「ユアンさん、流石にそれは重症だよ……」
「そんな事言われましても……事実ですからね?」
「そんな事あるよ! ユアンさん、シアさんからアプローチされた事あるよね!?」
「シアさんからですか? 特にないと思いますけど……」
思い返してみても、それらしい事はないと思います。
「ちゃんと思い出してください。キスを迫られた事とか……」
「ないと思い……あっ!」
「あるんですね!」
「キスではないですけど……」
内容までは話せませんが、手の甲とおでこにちゅってして貰った事はありましたね。
ですが、あれは僕に対して契約の誓いとおまじないをしてくれただけですし、また違うと思います。
「それ、違うよ! シアさんからのアピールだよ!」
「違いますよ? シアさんは僕を思って尽くしてくれようとしてるだけですからね」
「その思いが違うのに……」
キアラちゃんは僕とシアさんをくっ付けたいのでしょうか?
けど、それは人に言われてくっ付くものじゃないと思うのですよね。
僕とシアさん、二人の気持ちが伴ってこそだと思います。
けど、仮にシアさんが僕の事を恋人を想うような気持ちの好きってなってくれたら嬉しいですよね。
けど、僕たちは女性同士ですし……その時はどうしたらいいのでしょうか?
「僕たちの事は置いといて、キアラちゃん達は、ずっとこのまま恋人同士でいるのですか?」
「ずっとかはわからないけど、私は離れたくないな。それはスノーさんだけじゃなく、ユアンさんとシアさんもだけどね」
「僕もですよ。みんなが居れば楽しいですし、心強いですからね。だけど、スノーさんとキアラちゃんは種族が違いますし、色々と大変じゃないですか?」
人族のスノーさんとエルフのキアラちゃんはまず寿命が違います。
他にも、文化だって違いますし、お互いに両親や兄妹だって居ますからね。
「あまり気にしてない……ううん、気にしないようにしてるかな」
「そうなのですか?」
「うん。だって、今が幸せだから……もちろん先の事は考えるけど、離れるとかは考えられないよ」
「本当に幸せなんですね」
キアラちゃんの事をみればよくわかります。
だって、スノーさんの事を話すキアラちゃんはとても楽しそうで、嬉しそうですからね。
「ユアンさんも一緒だよ」
「僕がですか?」
「うん、シアさんの事を話すユアンさんはいつも楽しそう」
「そうですね……シアさんは凄いですからね。自慢したくなりますよ」
「だよね。それに、つい目で追っちゃうよね」
「そうですね。街で見かければ声を掛けたくなりますし、魔物と戦っていれば、見ちゃいますね」
むしろ、シアさんの方から街では来てくれますけどね。
「けどさ、もしだよ? シアさんの事を好きっていう人が現れたらどうするの?」
「え…………」
誰かが、僕のシアさんの事を好きって?
「嫌です……」
「けど、その可能性はゼロではないよね」
「そう、ですね」
シアさんに限って、僕を捨てて誰かについて行く事はないと思いますけど、もし誰かがシアさんを口説いて、シアさんがそっちに振り向いてしまったら……。
僕はシアさんと一緒にいられない事に……。
「ゆ、ユアンさん、今のはもしもの話だよ!」
「わかってますよ……」
「それに、シアさんがユアンさんを置いて何処かに行くわけないじゃないですか」
「はい……」
わかってます。
影狼族は契約者と繋がり、一度繋がってしまうと離れられないと言っていました。
けど、それはあくまでシアさんの村の長に認められるまでの話で、長に認められれば村に戻る事もできますし、契約者との繋がりも途絶え、自由になるかもしれません。
あ、でも、その時は村の誰かと無理やり結婚させられる可能性もある訳で……。
「シアさん、何処かに行っちゃいます……」
「行きませんよ! ユアンさんがしっかりと繋ぎ留めておけば大丈夫だよ」
「そうなのですか?」
「うん。だから、ユアンさんもシアさんと離れたくないのなら、もっとアピールしたらいいんじゃないのかな?」
「アピールですか? でも、アピールって何をしていいのか……キアラちゃんはスノーさんの恋人ですよね? キアラちゃんは何をしたのですか?」
こういうのってアドバイスを貰わないとわかりませんからね。
成功者の知恵ならばきっと間違いないはずです!
「私達の場合だけど…………」
シアさんがいつか何処かに行ってしまう。
そう考えるだけで、僕はちょっと不安になってしまいました。
シアさんを僕の元に繋ぎ留めておくためにも、今はキアラちゃん達の馴れ初めとかを聞いて、少しでも参考にするべきだと思います。
キアラちゃんから聞いた話は、あまり参考になるとは言えませんでしたが、それでも僕たちが知らない所で二人がどんな感じに仲良くなったのかを教えて貰いました。
僕とシアさんがしている事とあまり大差はありませんでしたが、その時にどんなことを感じたのか、というのは貴重な体験談として参考になったと思います。
僕たちは、そんな珍しい話をしながら出口を目指して歩いて行くのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます