第149話 冒険者達

 「なんか大変な事になってきましたよ」

 「ごちゃごちゃ」

 「まぁ、これが人間同士の戦いじゃなくて良かったけどね」

 「うん、敵か味方がはっきりしていますからね」


 アルティカ共和国の王様達も動き出し、ルード軍とアルティカ軍の共同戦線が組まれました。

 

 「西はアリア様達に任せるとして、僕たちは中央に向かうべきですか?」

 「そうだね。それか、一気に右軍まで抜けるのもありかも」

 「ユアンさんは辛いかもしれませんけど」

 「いえ、大丈夫です」


 お互いの報告をし、僕が見てきたことをそのままスノーさん達に話しました。

 その為、スノーさんが僕がどんな気持ちになったのかを知り、気を遣ってくれたみたいです。


 「ともあれ、右軍が不安ですので、一気に抜けましょう」

 「簡単にいくなら」

 「そうだね。遠距離部隊の所でごちゃごちゃしてるからね」

 「ゴブリンですよね? 私がどうにかします!」


 僕が補助と回復、シアさんとスノーさんは馬の操作と考えると攻撃手段はキアラちゃんしかいないですからね。

 さて、無事にというかちゃんと抜けれるでしょうか?

 それともこのままアリア様達に合流するべきなのか悩みますね。

 そもそも僕たちが勝手に動くのも問題でしょうし、その必要性もないように感じてきます。


 「悩む必要はない。したいようにする」

 「そう、ですかね?」

 「まぁ、いいんじゃないかな。この際だし、弓月の刻の名前を売っちゃえば」

 「それに、私達が動くことによって助かる人も多くなるかもしれませんよ」


 そうですね。

 悩む必要はありませんよね。

 僕たちは僕たちが出来る事をやると決めました。

 弓月の刻の名前を売るのは正直な所、あまり意識はしていませんが、助かる人が増えるのは多いのは良い事ですよね。


 「ユアン、魔力は温存しとく」

 「わかりました。その代わり、キアラちゃん頑張ってくださいね!」

 「キアラ、弓矢の数は?」

 「魔法鞄マジックポーチに予備が沢山あるから大丈夫ですよ」


 キアラちゃんの鞄も僕が改良し、市販では買えないくらいは大きくしました。

 それで沢山の弓矢をアリア様にお願いしました。準備した甲斐がありましたね!


 「では、いきますよ。シアさん、スノーさん出来るだけ止まらないようにしてください」

 「任せる」

 「上手く抜けれるよう頑張るよ」


 槍兵が弓兵達の援護に下がった為に、走り抜けるスペースは狭くなりました。

 二人の馬の扱い次第で抜けれるか、足止めされるかが決まります。


 「もし、足止めされるようなら、ゴブリンの討伐を優先しましょう。その後に、右軍へと向かいます」

 「第2プランって事ね。わかったよ」


 一つの目的に固着するのも良くないですからね。ダメならダメで他の対応をする必要があります。

 ですが目指すは右軍、抜けれる事を祈ります!

 僕たち4人は馬を走らせ、右軍へと向かったのでした。





 「まったく、だから嫌だったのよ」

 「仕方ないだろ。ルードを離れるにはこれしか方法がなかったんだ」


 それに、俺一人で決めた訳ではない。

 ちゃんとパーティー全員で話し合った結果こうなっただけだ、俺に文句を言われる筋合いはない。


 「それで、どうする? 冒険者を纏める役目を担った」

 「そうだなぁ。こういうのは柄じゃないんだがな」

 「がははは! 細かい事はいい、ただ目の前の魔物をぶっ飛ばせばいいんだろっ!」

 「単純ってホント羨ましいわ。そんな簡単にいくなら、わざわざ私達に現場の指揮を預けたりしないでしょう」

 「だな」


 俺も、ロイみたく何も考えずにただ目の前の魔物だけを倒すだけなら気が楽なんだけどな。

 だが、俺たちパーティーだけではなく、俺たち以外の冒険者が此処には集まっている。

 無責任な事はできないな。


 「けど、私達と同列の冒険者はいない。危険だよ」

 「そうだな、少なくともCランク以上の者が集められてはいるが……」


 正直、ランクは宛にならないからな。

 ソロでCランク……まぁ、それなりに努力してきたって事でわかるが、問題はパーティーの方だ。


 「あの子なんて見るからにCランクに達していないわね」

 「下手すればEランクもありえる」

 「まぁ、見た目では判断できないが、危ういな」


 線も細く、小柄で見事に怯え切っている。

 高ランクに混ぜて貰った、荷物持ポーターちって所か。一応、身を護る為の剣を持っていはいるみたいだが、明らかに安物とわかる。

 正直、こんな場所に連れてくるなと一言言いたくなるが、まぁ自己責任でもあるし、パーティーの事で口出すのも良くないな。


 「で、どうするの?」

 「そうだな。まずは、パーティーで動くか、それとも一度、パーティーを解体し、それぞれの役割に合わせて隊列を組むかを考える必要があるな」


 時間があまりない。

 間もなく、右軍の前衛が崩れ、俺たち冒険者がそこを埋める事になる。

 それまでに、どうにかしなければならない。


 「私はパーティー事に動かした方がいいと思うわね」

 「私も」

 「俺もそう思う」


 そうだよな。

 冒険者同士で、一緒に戦った事のない者同士で隊列を組んだ状態で連携をとれなんてまず無理だよな。

 隣に立つ者がどれだけの技量をもっているかは俺たちはある程度わかるが、それでも信用はできない。

 なら、いっその事、パーティーに分けて持ち場を決めた方がよっぽど気楽だ。


 「だが、問題は最前線に誰が立つか、なんだよな」

 「そんなの決まってるだろ! 俺たち以外に誰がいるんだ!」

 「馬鹿ね。ユージンは冒険者を動かす為に戦況をみなきゃならないのよ?」

 「おぅ、そうだったな?」

 「この脳筋。少しは考えろ」

 「エルもルカもその辺にしといてくれ。そして、出来れば一緒にどうすればいいのか考えてくれ」

 「私は、そういうの苦手だし」

 「私も。戦略なんて知らない」

 

 俺もだよ!

 って声を大にして言いたいところだ。

 そもそも俺だって、戦略何てわかる訳がない。冒険者以外の仕事なんてした事がないからな。

 精々わかるのは、前衛、中衛、後衛と役割を分け、それぞれの役割に全うさせるくらいだな。

 だが、今回はそれもできない。

 パーティー事に戦って貰う事になるからな。


 「仕方ない。まずは、冒険者の把握から始めよう。ルカ、Bランクのパーティーは何組いるかわかるか?」

 「10組ね」


 この状況で多いと喜ぶべきか、少ないと嘆くべきかわからないな。


 「エル、冒険者の総人数は?」

 「500人くらい。そのうち、ソロランクだけど、Bランクが80人、それ以外がCランク以下。わかってると思うけど、Aランクは私達だけ」


 オーガくらいならBランクの冒険者でどうにかなるな。数にもよるが。


 「わかった。前衛4組、中衛に5組、後衛に1組、Bランクパーティーを配置しよう」

 「どのパーティーを配置するの? 誰も前衛なんてやりたがらないわよ」

 「そこは話し合いだな。聞いた所によると、報酬は出来高が主みたいだ、お金を必要とするパーティー程、前衛に出たがるだろ」


 今の所、出現している魔物で一番危険なのはオーガくらいだ。

 自分たちで倒せる魔物だったら引き受ける冒険者も少なくないだろう。

 何せ、此処に集まった冒険者は何らかの理由でお金を必要とする奴ばかり集まっているからな。

 皇女様に直接雇われた俺たちと違って、あいつらはギルドの依頼報酬に釣られた連中だからな。


 「でも、本当にこれが終わったら、アルティカ共和国に抜けられるのかしら?」

 「そこは、皇女様を信じるしかないな」

 「今思うと怪しい」

 「気にするな! 疑ってばかりじゃ、何も解決しないぞ!」

 「受けてしまった以上は仕方ないけど、皇女様の作戦とは大分変ってるわよ?」

 「まぁな」


 タンザに向かっている途中で俺たちは帝都に帰還中という皇女様に出会った。

 そこで、アルティカ共和国へと抜ける手筈と引き換えに依頼を請け負ったのだが……。


 「魔物相手は聞いていないな」

 「うん。私達の役目は皇女様の護衛」

 「護衛なのに、こんな場所に配属されるし」

 「だから気にすんなって!」


 気にするなと言われてもな。

 正直、騙された感が半端ない。

 

 「まぁ、こうなってしまった以上は仕方ない。まずは、冒険者達をどうにかするぞ」

 「そうね、時間はもうなさそうだし」

 「前衛、崩壊寸前」

 「俺たちの出番だな!」

 「いや、俺たちは冒険者を纏めるのが仕事だ。まぁ、やばそうなら俺たちがどうにかするしかないだろうけどな」


 全く、面倒な事になったな。

 こんな事なら、大人しく国境を通れるようになるまで待つべきだったか。

 とは言え、待っていられなかったというのも事実か。

 俺たちはどうしてもアルティカ共和国に行く必要が出来てしまったからな。


 「よし、冒険者を集めよう。さくっと配置を決めるぞ」

 「もし、前衛が誰もいなかったらどうするわけ?」

 「そん時はそん時だ」

 「相変わらずいい加減。そういうとこはロイそっくり」

 「なら、いい案を出す事だな」

 「無理」

 「だろ? 所詮、俺たちは似た者同士なんだよ」

 「一緒にされたくないわね」

 「まぁ、いいじゃねえか! だからこそ、上手くやってこれたんだからな!」


 間違いないな。

 性別も種族もバラバラなのにAランクまでやってこれたのは意味がある。

 それに、一度はあの嬢ちゃん?が居なかったら死んだ身だ。

 今更怖いものなんてないだろう。

 

 「さぁ、やるか。さっさと国境を抜けて、嬢ちゃんに礼を果たさないといけないからな」

 「皇女様の話とは違うけどね」

 「けど、意外と近くにいるかもしれない」

 「そうだな!」


 まぁ、その辺は仕方ない。

 皇女様の話では、あの嬢ちゃんはアルティカ共和国に居るはず、としか聞いていないし、少なくともトレンティアを出発し、国境に向かったのは確認が取れている。

 皇女様の話は間違ってはいなそうだ。

 嬢ちゃんとは約束がある。

 何か困ったら助けてくれって言われている。常に一緒に居る訳にはいかないが、少なくとも同じ国に居れば手助け出来る事もあるだろう。

 こんなんでも、一応はAランク冒険者。

 それなりに誇りがあるからな。

 いつまでも借りたままではいられないだろう?

 相手は数は多いが何度も戦ってきた魔物だ。龍種と比べれば軽いもんだ。

 俺達は冒険者を一度集め、前線に向かった。

 予想通り、前線に参加したがるBランクパーティーは多くて助かった。

 

 「危なくなったら、交代しろ! 交代の合間は俺たちが受け持つ!」


 金に釣られた冒険者達の士気は高い。

 これなら、暫くは大丈夫そうだな。

 だが、油断はできない。

 これだけでは終わらないと、長年冒険者をしてきた勘が告げている。

 

 「わかっていると思うが、油断だけはするなよ」

 

 俺の仲間も同じ勘が働いているのか、無駄な言葉を発せずに頷いた。

 大丈夫そうだな。

 俺は、視線を再び仲間から前方へと向ける。

 そこには、既に魔物と戦う冒険者の姿があった。

 何かあったらすぐに動く、仲間にそう伝え、俺たちは暫くの間、戦況を見守るのであった。

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