第120話 弓月の刻、模擬戦の行方を語る
模擬戦を終え、僕たちは部屋に戻ってきました。
久しぶりにしっかりと体を動かせたお陰か、3人の表情は活き活きとしているように見えます。
勿論僕も今日は体を動かせましたし、キアラちゃんに勝ち、更にスノーさんとシアさんにも勝って嬉しい気分です! ホクホクです!
「あれは、ずるい」
「そうだね。納得いかない」
「でも、実際の戦いでは有効ですよね」
ですが、僕の戦い方はだけは不評のようです。その証拠に反省会と言う名の雑談会をしているのですが、僕との模擬戦の話になった途端にシアさんとスノーさんが不満の声をあげます。
ですが、僕は補助魔法使いです。本来なら攻撃を任せ、補助で味方を援護するのが僕の役割です。僕が一対一で模擬戦をしろと言うのがそもそもの間違いだと思います!
まともに戦った場合はシアさんやスノーさんは勿論、キアラちゃんにも勝てない自信があります。同時に負けない自信もありますけどね。
どちらにしても、僕が勝つためには工夫をする必要があります。
「フルールさんに
僕の戦い方はかなり特殊だったと思います。
「魔力酔い……やっぱりつらい」
「意図的に起こせるとなると魔力の少ない私達には辛いよね」
「その為に考えた魔法ですからね」
シアさんとスノーさんに使ったのは、防御魔法内の魔素を増幅する方法です。
まずはドーム状の防御魔法を展開し、魔素が外に漏れないようにします。
次に、外の魔素をドームから
後は、魔素が濃くなり、防御魔法で粘れば自然と魔力酔いで二人はダウンします。
動けな相手なら僕でも攻撃できますからね。
スタッフでの打撃攻撃になりますけど。
「私はそれと逆の事をやられました……」
「そのせいで精霊さんが危なかったのですよね。本当に申し訳なかったです」
キアラちゃんには全く逆の方法で対応をしました。
ドーム状の防御魔法を展開し、内側の魔素を吸収し、外に逃がす方法ですね。
「気付いたから大丈夫。でも、あのまま進めば魔力枯渇に陥るところでした」
「それが狙いでしたからね」
キアラちゃんは普通に魔法が使えますからね。魔力酔いを狙うよりはそちらの方が早いと踏んだわけです。
魔力酔いは魔力の器が少なく、体内に魔力が籠る事で陥りますが、逆に魔力枯渇は魔力の器が大きく、魔力が減少する事で起きる事で陥る現象です。
「魔力枯渇ってどういう症状なの?」
「魔力の器が大きいという事は、それだけ体内に魔力を保有しているという事です。そして、魔力を常に体に流している状態なのですよね」
そのため、普段の行動をするにも自然と魔力を使っている事が多いのです。
「魔法使いにとって魔力とは血みたいなものなんです」
「なので魔力が枯渇すると血を失ったように貧血を起こしたり、下手すれば死に至りますね」
「なので、魔力を使いすぎると疲れたり、限界を迎えると意識が飛んじゃいます」
魔法使いにとって魔力は生命力に等しいと言われているのですが、あながち間違いではないですね。
ちなみに、キアラちゃんが意識を飛ぶと言いましたが、それは貧血の症状ではなく、それに至る直前の状態で、自然と体にセーブが働く為と言われてもいます。
そして意識を飛ばさずに、限界を越えてもなお魔法を使い続けると貧血等の命に関わる症状が起きるみたいです。
なので意識が飛ぶだけで済むのはまだ大丈夫みたいですね。
まぁ、一人の状態で意識を飛ばしてしまったら、どちらにしてもアウトですけどね。
「魔力枯渇は魔力酔いよりも危険なんだね」
「うん、そうかもしれないです。特に魔物や魔族はより魔素に依存していると聞きますし、ユアンさんの魔法はかなり有効そうですね」
僕たちにとって魔力が血だとすれば、魔物や魔族にとって魔力は空気だと言われています。
血は多少失っても生きていられますが、空気がなければ生きていけません。
それだけでどれだけ依存度が高いかわかりますね。
「トレンティアの件では魔族が関わっているみたいだし、確かにユアンの魔法は有効かもね」
「はい、ですが改良しなければいけない所はまだまだありますけどね」
何よりも闇魔法を使う事になるので、使う度に身体に痛みが走るのが問題です。
闇魔法と水魔法を混ぜる事で
その調整がまた難しいのですけどね。
「それよりも、シアさんとスノーさんの試合ですよ!」
「面白かったね!」
僕とキアラちゃんが興奮気味に二人の試合を語ります。
「スノーさんの攻撃に対し、シアさんの
「スノーさんの水の精霊魔法がそれを相殺してたね!」
闇魔法がぐわーってなって、水の精霊魔法がぶわーってそれを防ぐのはすごく派手で、圧巻でした!
まるで龍と龍が絡み合い、天に昇っていくみたいでしたよ!
そして、お互いの魔法がぶつかって相殺している間は剣と剣による攻防です!
見どころは沢山ありましたね、僕とキアラちゃんの試合と違って……。
「シアの闇魔法は確かに厄介だったね」
「スノーの魔法も悪くなかった」
「ありがとう。ただ、問題はあの状態を維持するのが大変だったけどね」
「同じ。私も魔力は少ない。短時間限定」
シアさんの闇魔法は魔力を。
スノーさんの精霊魔法は魔力の代わりに体力を多く使用しますからね。
ただ、あの状態を維持できればかなり優位に戦えると思います!
「シアさんと闇魔法はカウンターでしたが、スノーさんの精霊魔法は何だったの?」
「見ての通り、水を使った防御魔法みたいなものだよ。見た目から水の羽衣と名付けたけどね」
僕の防御魔法が攻撃を弾く事を前提にしているのならば、スノーさんの水の羽衣は相手の攻撃を絡めとる事を前提にしているみたいです。
「スノーの防御にあの魔法は攻めづらい」
「そう見えましたね。シアさんの双剣を剣と羽衣で防いでいましたからね」
「まだまだ、ユアンの防御魔法に比べたら劣化版だけどね」
「いえ、使い分けだと思いますよ。それに、自由に羽衣を動かせれば攻撃にも転じれそうですからね」
羽衣を触手のように動かせれば相手の動きを拘束する事も可能になりそうですしね。
「そうなるとユアンさんの防御魔法はスノーさんに不要になるそうですね」
「このままだとそうですね」
「それは私だけ仲間外れみたいで嫌かなぁ。何よりもユアンの防御魔法がないと水の羽衣だけでは不安だし」
その辺はスノーさんに合った防御魔法を新しく考案する必要もありますね。
仲間が強くなった分、僕の魔法も変化させていかなければならないようです。
それを考えるのも楽しいですけどね!
「私も新しい魔法欲しい」
「私も欲しいです!」
それと、スノーさんだけ特別という訳にはいかないようで、結果新しい魔法を二人にも考えることになりそうです。
シアさんには
矢は自在に操る事が出来ますし、それ以外の事を……召喚魔法に手を加えるとか出来ませんかね?
「お疲れさん、少しいいか?」
3人の為に新しく魔法を考えていると、僕たちの部屋がノックされ、ドア越しに声がかけられました。
「はい、空いていますのでどうぞ」
女性だけの部屋に男性が訪れ、中に入るのは一般的に非常識だと言われていますが、僕たちはこの場所を借りて…………軟禁されている身ですし、女性といっても冒険者です。
そこまで気にしないので、声の主と思われるギギアナさんに中に入って貰いました。
「失礼する」
「いえ、わざわざありがとうございます。それで、ご用件は?」
あ、この場合スノーさんに任せた方が良かったのでしょうか?
いつもの癖で僕が対応してしまった事に気付き、僕は慌ててスノーさんの顔を伺います。
「大丈夫だ。今回はBランク冒険者、弓月の刻に用件だ」
ギギアナさんの要件は話の主軸となるスノーさんにではなく僕たち、弓月の刻にだそうです。
「なら、私達のリーダーである弓月の刻最強のユアンが対応するべきね」
「ユアン、最強」
「ユアンさんは最強ですね」
な、何ですか……その紹介は!
明らかに悪意と悪戯が混ざっています!
まさか、模擬戦の事を根に持っているのでしょうか……?
「どうした?」
「いえ、何でもありません!」
何でもありますけどね!
3人に言いたい事は沢山ありますが、今は僕たち弓月の刻のお客さんが目の前に来ています。
先にそちらの対応をしないとです。
「それで、僕たちに用件というのは何でしょうか? もしかして、本国から返事があったのでしょうか?」
「それだったら、私に話があると思うよ。最強のユアンちゃん」
うー……完全に馬鹿にしています!
それくらい僕にだってわかりますよ!
「その通りだ。本国からの連絡はまだない」
「でしたら何の用でしょうか?」
本国からの返事でないとなると何でしょう。
「簡単だ。良かったら弓月の刻に……」
そうですよね。
僕たちへのお願いと言ったら、何となくこうなるような気がしていました。
本当ですよ? 本当に、本国からの返事ではないと思っていましたからね!
僕たちはギギアナさんからの用件を快く承諾する事に決めました。
僕たちにとっても悪い話ではないですからね。退屈な時間を過ごさずに済むのなら大歓迎です!
本国からの返事は恐らく2日以内には来るとは思いますが、僕たちはそれまでの間、ギギアナさんの用件をこなす為に頑張る事にしたのでした。
あ、後、これは余談ですが、僕の事をからかった仕返しはちゃんとしましたのでご安心くださいね?
また模擬戦と同じ結果にちゃんとなってもらいましたからね!
3人がちゃんと謝るまで。やられたらやり返す……これは大事な事ですからね!
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