第119話 弓月の刻、模擬戦をする2
僕たちの模擬戦は至って地味な戦いとなりました。
「また弾かれます……」
「これくらいしか出来ませんからね」
キアラちゃんが放つ得意の3連を、ドーム型の防御魔法で防ぐ。
体の周りに張った防御魔法に触れれば麻痺する仕組みですけど、ドーム状の魔法防御で防いでいますので判定的にはセーフです。
「それなら、戦い方を変えるまでです!」
キアラちゃんには僕が攻撃手段に乏しい事は知られています。なので、いつもの素早く矢を射る方法ではなく、落ち着き、ゆっくりと僕を狙う方針に切り替えたみたいです。
といっても、僕たちの距離は20メートル程しかありませんので、その距離で矢を放たれれば僕は矢を見切る事はできません。シアさんやスノーさんならば、避けるなり、剣で防ぐなどの方法で対処できると思いますが、僕は防御魔法で防ぐしかないので、じっくりと狙う必要はないと思いますよ?
「意味なら……あります!」
先ほどよりも、力強く矢が放たれます。
「先ほどより、威力はあがりましたけど、それだけじゃ無理ですよ」
僕の防御魔法がキアラちゃんの矢を防ぎます。驚くことに僕の防御魔法に刺さりましたけどね! 普通なら弾いて地面に落ちるのにです。
「それで大丈夫です……風よ!」
刺さった矢が再び勢いを取り戻しました。精霊魔法使ったみたいですね。
更にキアラちゃんがその間にもう一本矢を放ち、1本目の矢を押し出すように命中させます。
「わっ!」
僕は危険を察知し、身を屈めます。
「防御魔法を突破されるとは思いませんでした……」
そして直ぐに新しい防御魔法を展開します。
「ユアンさんの防御魔法は一点突破が弱点だと読みましたが、予想が当たったみたいだね」
「その通りです」
ドーム型の防御魔法は多数の敵から身を護る事を想定していますので、実は強度は高いとは言えません。
なので、一点を集中し攻撃されると壊れてしまいます。その一点を突破するには針に穴を通すほど正確、という条件がつきますけどね。
キアラちゃんはそれをやってのけたようです。やりますね。
「ですが、僕が動いたら同じことが出来るかです」
僕はさっきまで動いていませんでしたし、キアラちゃんに攻撃を仕掛けていません。
安全な状態で動かない的を狙っていた状況下でやった事です。次も同じことが出来るのか楽しみです。
それと、そろそろ仕込みもしないとですね。
「やってみせる」
「させませんよ?
火属性魔法でも初級と呼ばれる攻撃魔法です。勿論、僕が使うと威力という点では初心者以下の攻撃力しかありませんけどね。
「ですが、当たれば熱いですよ?」
「平気です! 散ってください!」
僕の放ったファイアボールをキアラちゃんが矢で撃ち抜きます。
ですが、僕のファイアボールはそんな事で消えませんよ? それどころか矢を弾きます。
「え、何で!?」
「威力はありませんが、込めた魔力は高いつもりですからね」
普通なら込めた魔力と威力は比例しますけど、僕の場合は何故かしません。
ですが、威力がないだけで、込めた魔力は存在しています。威力以外の質は高いです。そして、僕は複合魔法も使えます。
火の玉に防御魔法を組み込む事だってできますよ?
「きゃっ!」
僕のファイアボールを掻き消すつもりでいたみたいで、キアラちゃんの頭には端から避ける選択肢はなかったみたいです。
そのお陰でキアラちゃんにファイアボールは直撃しました。
当たった瞬間、モクモクと煙が立ち上る。
その中からキアラの姿を表した。
「あれ、何ともないです?」
「見た目だけはファイアボールですが、威力はありませんからね」
キアラちゃんにファイアボールが当たりましたが、麻痺していない所をみるとやはり威力が足りなかったようです。
「これなら怖くないです!」
「はい。ですが、僕のファイアボールでキアラちゃんの矢を防げる事はわかりました」
僕はファイアボールを宙に複数浮かべます。
「これを避け、動く僕に矢を当てれますか?」
「やってみせます」
僕はファイアボールを防御魔法の代用として使う事に決めました。一つ一つがドーム状の防御魔法よりも強度が高いので、簡単に壊せないと思います。
「風よ……導いて!」
「精霊魔法ですね」
キアラちゃんの髪がふわりと浮き上がり、周囲に風が流れる……というより風を纏ったのがわかります。
「当たってください!」
風を纏った矢を放ち、撲を目掛け飛んで来る矢……ですが、それでは。
「あぶなっ!」
矢の軌道が変わりました!
僕のファイアボールを避けるように僕に矢が届きました!
精霊魔法で矢の軌道をコントロールしたみたいですね。ただでさえ高い精度を誇るキアラちゃんの腕に加え、状況に合わせて自在に操るのは凄いですね。
「こんな事もできますよ?」
そう言って、放った矢は僕の頭上を越え、的外れな方向に飛んでいきます。
「後ろからですね!」
自在に操れるなら、後ろから!
その予想は当たりました。
私は、浮かべたファイアボールでそれを防ぐ。
「知らないでこれをやられたら、防ぐのは困難ね。キアラ、やるじゃない」
「え、あ、はい。ありがとうございます?」
ふふっ。キアラが変な顔をしている。
僕が防いだ事に驚いたのかもしれませんね。
「だけど、それだけじゃ私の防御魔法を突破できない」
それに、私だってただ見ているだけじゃない。
少しずつですが、僕の準備も整えています。
気づかれないように、僕もキアラちゃんに勝つために。
準備を整えている。
後少し。
「なんだか、嫌な予感がします」
「そう思うのなら、もっと攻撃しないと」
「だめですよ」
そう言い、僕は余裕を見せます。
それがキアラちゃんの心を揺さぶるには十分だったようで、キアラちゃんは素早く矢を放ちます。
ですが、焦りは禁物です。
キアラちゃんの売りは、力でも素早さでもありません。
狙った相手を的確に射る事の出来る精度です。
僕が何をしているのかまでは気づいていないようですが、何かをしているのには気づいたみたいです。
「ほら、もっとちゃんと狙って」
「わかっています!」
ですが、キアラちゃんの矢は精彩を欠いています。
最低でも2発、同じ場所に矢を当てないと私の防御魔法は突破できない。
ですが、キアラちゃんの矢が同じ場所に当たる事はありません。
焦りが手元を狂わせ、ファイアボールに当たり、矢が地面へと落ちます。
ここまでくれば、僕の準備もほぼほぼ終わりです。
あとはじっくりと待つだけです。
そして、気づいた時にはもう遅い。
今も、私が展開した魔法はキアラを襲っている。
「あっ! 負けです! 私の負けです!」
「まだ勝負はこれからだよ?」
「いえ、このままだと精霊さんが!!!」
そこまで考えていなかった。
でも、面白いのはここからなのに。
……僕はキアラちゃんが言った意味を理解し、急いで使っていた魔法を解きます。
キアラちゃんが僕が何をしていたのかに気付いてくれて助かりました。キアラちゃんが危なくなったら止めるつもりでしたが、先に精霊さんが危険だったようです。
「危なかったです……」
「すみません、配慮が足りませんでした」
「ううん、気づかなかった私が悪いの。ごめんね、精霊さん」
どうやら精霊さんは無事みたいですね。一安心です。
「それにしても、ユアンさんの魔法、凶悪過ぎませんか?」
「そうですか?」
「うん、何かおかしいと思ったら手遅れでした」
「守りながらこっそりと展開していましたからね」
「はい、あのまま続けていたら、精霊さんだけでなく私も危なかったです」
その前にキアラちゃんが降参してくれて良かったです。僕には精霊さんの姿が見えませんからね。
「えっと、勝者はユアン殿? という事でよろしいか?」
あ、忘れていました!
一応審判さんもいたのですね。審判さんには影響はないみたいで良かったです。
「はい、キアラちゃんが降参しましたので、僕の勝ちです」
「わかった……勝者ユアン!」
歓声があが……りません。
僕たちの模擬戦を兵士達も見ていたと思いますが……キアラちゃんが攻撃するたび、僕がそれを防ぐ度に歓声とどよめきがあったと思うのですが……?
「何があったんだ?」
「一応、あっちの狐っ子がリーダーなんだろ? 花を持たせたんじゃないか」
「そう言う事か。守りは凄かったけど地味だったしな」
なるほど、僕はほとんど攻撃をしていませんでしたので、優勢に攻撃をしているように見えるキアラちゃんの降参に拍子抜けした感じですか。
手の内がバレなかったと考えれば、別にいいですけどね。初めての模擬戦で勝ったのに……。
「ユアンさんは凄かったですよ」
「ありがとうございます」
「もぉ、勝ったのにそんな顔をしないでください」
キアラちゃんが僕を撫で、慰めてくれます。
これじゃ、どっちが勝ったのかわかりませんね。
「「「おおおぉぉぉぉ!!」」」
僕たちとの模擬戦は終わりましたが、別の場所で歓声があがりました。
僕たちとの試合が行われている間もシアさんとスノーさん試合は続いているみたいですね。
「向こうは盛り上がってますね」
「そうですね、私達の戦いは二人に比べると地味でしたからね」
キアラちゃんのやっている事は正直凄いですが、派手さがないので地味です。
今回の僕の守りはファイアボールのお陰で少し派手でしたが、やっている事は地味です。
それに比べ、剣と剣同士が激しくぶつかるシアさんとスノーさんの戦いは激しく、臨場感があり、見ている者も手に汗握ります。
盛り上がるのも無理はないですね。
「僕たちも見にいきましょう」
「はい、結果を伝えないとですね」
何よりも二人の結果も気になりますからね。
初めての僕とキアラちゃんの模擬戦は僕の勝ちで幕を閉じました。
この後、シアさんとスノーさんとも模擬戦をやることになりましたが、それも僕が勝ちました。
その代償に結構な魔力と痛みを経験しましたけどね。
ですが、新たな攻撃手段として使える事はわかりましたし、今後も使って行こうと思います。
それよりもまずは二人の結果ですね。
僕たちが辿り着いた時、シアさんは闇の陰を身に纏い、スノーさんは水の衣を羽織って対峙していました。
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