第63話 弓月の刻、いつかの3人組に出会う
「うぅ……恥ずかしいです」
「あれは、恥ずかしかったですね」
「私も……」
僕たち3人は顔をあげてギルドを出る事は出来ませんでした。当然、逃げるようにしてギルドから出ましたよ。
「シアはどこ行ったんだろ」
「ずるいですよね!」
僕も同じようにバニッシュを使って逃げたかったですが、一応パーティーリーダーを任されてしまっているので、あの場から逃げる事が出来ませんでした。
「シアさんとの契約で探しますか?」
「そうですね!」
キアラちゃんに言われて気づきました。ちなみに、パーティーを組む事になったので、キアラちゃんもシアさんと呼ぶようになりました。
嬉しいですが、今はそれは置いておき、シアさんを探す事にします。
「あっちの路地の方ですね」
「行ってみよう」
シアさんはギルドからさほど離れていない場所に居るようでした。
その路地には覚えがありました。
「確か、スノーさんと初めてあった場所ですね」
「そうなんだ、こんな所で出会ったのですね」
その場所は偶然にもスノーさんに助けて貰った場所でした。
確か、ギルドでシアさんが蹴り飛ばした男達につけられていたんですよね。
「なんか、凄い見覚えのある光景なんだけど……」
デジャヴュって奴ですかね?
状況はあの時と全く違いますが、僕もそう思います。
シアさんを探し、路地を進むとシアさんを発見する事が出来ました。それと同時に見覚えのある3人と一緒に。
「思い出したか?」
「誰?」
「わ、忘れたのか!?」
「そもそも知らない」
「俺はあの時にー……」
「…………私には関係ない」
僕たちが到着すると、ちょうど男がシアさんに詰め寄っている所でした。
「スノーさん、あの時のように注意しなくてもいいのですか?」
「う~ん。シアだしね」
僕も全く心配はしていません。だって、シアさんですからね。
あの男如きに負ける姿が想像できません。
「ユアン!」
「あぁん? なんだ、あの時のガk……嬢ちゃんか」
シアさんは僕に気付いたようです。同時に男も僕に気付いたようです。
あの時の事を思い出したのか、ガキと言いかけましたが、すぐに訂正した辺り進歩はしているようですね。
「ユアン、助けて」
意外な事にシアさんが助けを求めてきます。しかし、緊迫した状況でもなさそうです。少し困った顔をしていますけどね。
「おい、嬢ちゃんからも頼んでくれ!」
「何をですか?」
「それはだな……」
言いにくそうに男の声が小さくなっていきます。流石に耳が良いとはいえ、ボソボソと喋られると言葉として成立していないので僕でもわかりませんよ?
「ユアン、そいつの言う事は聞かなくていい」
「何か問題ですか?」
「問題。面倒ごと」
つい最近の一件でまた何かあったのでしょうか?
「あの、ちゃんと話して貰えないとどうしようもありませんよ?」
「わかっている。まずは、この間の事を詫びよう、すまなかった」
頭を下げた男はカルロと言うみたいです。前に言われた通り冒険者ランクはDで隣に控える冒険者2人とパーティーを組んでいるらしいです。
「それで、何があったのですか?」
「ユアン、本当に無視していい」
シアさんはそう言いますが、カルロさんはこの間の一件の事をしっかりと謝ってくれましたし、僕はそれでいいと思います。
なので、話は聞いてあげたいですね。
「俺たちよりも遥か上位の冒険者である事は身をもって理解した。だから……俺たちを鍛えて欲しいんだ!」
「えぇ……」
「無茶なお願いだとはわかっている。だけど、こんな機会滅多にないんだ!」
カルロさんと残り二人が僕たちに頭を下げます。
「僕は補助魔法使いなので教える事は出来ませんよ」
「あぁ、教えてくれるのはそっちの影狼族の嬢ちゃんで構わない」
「面倒」
どうやら、カルロさん達はDランクからCランクに上がる為に頑張っているようですが、Cランクに上がる為の実力がもう一歩足りないようです。
そんな時に、僕たちと出会ってしまい、イライラした結果あのような事になってしまったようですね。
例え、イライラしたからといってやって良い事と悪い事はあります。
「わかっている。信じて貰えないかもしれないが、嬢ちゃんを見つけて後をつけたのも一言詫びを入れたかったからだ」
「そうなんですか?」
スノーさんに助けて貰った時の事ですね。
「堂々と謝れば良かった」
「ギルドで起きた事は冒険者の間に広まっていて恥ずかしかったからな」
うーん。信じていいのかわかりませんが、根は悪い人ではなさそうですね。
「スノーさんはどう思いますか?」
「私?関りがないから何とも言えないかな」
そうですよね、スノーさんにわかる筈がないです。
「あ、あの!」
「え、キアラちゃん?」
僕たちの後ろに居たキアラちゃんがカルロさん達の前に出ました。
僕はそれに驚きました。
キアラちゃんはつい最近攫われたばかりです。そのせいで、男の人は恐怖の対象として映っているみたいです。
そのキアラちゃんが拳を握りしめ、体を震わせながらも前に出たのです。驚かない筈がありません。
「あの時は、ありがとう……ございました!」
キアラちゃんがカルロさん達に頭を下げました。
「……誰だ?」
カルロさん達には覚えがないようで、首を傾げています。
それを見たキアラちゃんはフードを外します。
「あの時のエルフっ娘か」
「はい」
「知り合いなのですか?」
「ううん、知り合いではないけど、私がこの街についたばかりの時、酔っ払いに絡まれたことがあって、その時に助けてくれたのがこの人達でした」
「たまたまだよ」
「たまたまでもです。あの時は、ありがとうございました」
世間は狭いと言いますが、キアラちゃんもカルロさん達と関りがあったみたいです。もちろんいい意味で。
「そうなると、僕たちのパーティーメンバーが助けて貰った恩がありますね」
キアラちゃんと出会う前の話だとしても、恩は恩です。もし、そこでキアラちゃんに何かあったら出会えていない可能性もあります。
そして、僕は思いついてしまいました。
「わかりました。お礼としてカルロさん達の願いを叶えます」
「本当か!?」
嬉しそうに、カルロさん達が僕を見るので僕は笑顔で頷きます。
「はい、うちのリンシアさんが頑張りますから安心してください」
「ユアン!?」
驚いた顔でシアさんが僕をみます。なので、僕はシアさんにこう告げます。
「シアさん、僕たちはさっきギルドで恥ずかしい思いしながら頑張ったので、シアさんも頑張ってくださいね!」
「あぁ……そうだったな。シア、頑張ってね」
スノーさんは僕がシアさんにお仕置きをしようとしている事に気付いたようで、便乗してくれました。
「キアラは裏切らない」
助けを求めるようにシアさんはキアラちゃんを見ますが。
「シアさん、同じ死線たてって言ってくれましたよね?だけど、シアさんは一緒に居てくれませんでした……あれは嘘だったのですか?」
「うっ……」
へぇー!
シアさんとキアラちゃんはそんな会話をしていたのですね!
「シアさん?」
「……わかった」
項垂れるようにシアさんは頷きました。
「という事です!」
「嬢ちゃん達ありがとう!」
「キアラちゃんのお礼ですからね」
嬉しそうにしているカルロさん達に僕はそう答えます。
だけど、喜べるのは今のうちだと思います。
やって良い事と悪い事があります。
僕は恩には恩で返したいですが、やられた事はやりかえさないといけないと思います。
「シアさん、カルロさん達にギルドの訓練場を借りて、色々と教えてあげてくださいね」
「……わかった」
「今度こそ、僕の代わりにお願いしますね。これは、僕からの依頼です」
「依頼……報酬ある?」
「考えておきます!」
「わかった!」
シアさんのやる気もだして置かないといけませんからね。中途半端は良くないですから。
「それじゃ、たっぷり鍛えてあげてくださいね!」
「任せる!」
やる気を出したシアさんとカルロさん達を見送り僕たちはザック商店に向かいます。
見繕ってくれたテントが届いたと連絡がありましたからね。
スキップしそうになるのを抑え、僕たちは路地から大通りに出ました。
シアさんの報告が楽しみです!
やられたらやり返す、この世界では大事ですからね?
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