第53話 補助魔法使い、救出作戦を開始する2

「きゃあ!」


 扉を壊すと、中には5人の女性が一か所に固まっていました。手錠や足かせなどはなく自由に身動きをとれるように監禁されていたようです。


 「だれ!?」

 「僕たちは冒険者です。救出にきました」


 こういった時は僕の見た目は便利ですよね……パッと見は子供ですから……。


 「救出……それはホントなの?」

 「嘘つく理由がない」

 

 この部屋の代表の方でしょうか、みんなを守るように僕たちの前に立ち、身構えています。

 服こそグレーのワンピースを着て可愛らしいですが、佇まいから素人とは思えません。


 「貴女は?」

 「私はレジスタンスに所属するCランクの冒険者のトーリだ」


 やはり素人ではなく冒険者でした。


 「どうしてこんな場所にいるのですか?」

 「レジスタンスで活動している時に、襲われ捕まった」

 

 Cランクといえば僕たちと同じランクです。キアラちゃんは違いますけど、ベテランと称されるくらいです。


 「どうして捕まった?」

 「言い訳になるが、相手に手練れがいてそいつにやられた。生き残ったのは私だけだがな……」


 仲間もトーリさんと同じCランクだったようですが、抵抗虚しくやられてしまったようです。


 「Cランクを倒せる人がいるのですか」

 嫌な情報を聞いてしまいました。


 「貴方たちはレジスタンスと共に来たのか?」

 「違うわ。私達は地下から。レジスタンスは外で陽動をしている」

 「なんだと! 直ぐに応援に行かなければ!」

 

 トーリさんは一人部屋から飛び出そうとします。


 「うぐっ……」


 しかし、部屋を飛び出る寸前、苦しそうに蹲りました。


 「ユアン」

 「わかりました」


 奴隷の首輪の効果が発動したようです。この部屋から許可なく出ようとしたのが原因そうですね。


 「ジッとしてください」


 キアラちゃんの時に一度解析をしているのでスムーズに解除をする事ができます。

 念のために一度、首輪の内容はみますけどね。


 「すまない」

 「いえ。ですが、一人では危険ですよ」

 「わかっている。だが、仲間が戦っているのに私一人逃げ出す訳にはいかん」

 

 止めても無駄そうですね。

 

 「他に捕まっている仲間は?」

 「ずっとこの部屋に閉じ込められていたから細かい事は……」

 「なら、先に他の部屋の人達も救出しましょう。話はそれからです」


 まずは、残り4人の首輪を外します。

 首輪から解放された女の子達はその場で蹲って泣いてしまいました。

 しかし、泣いている暇はありません。女の子達を立ち上がらせ、次の部屋に向かいます。


 「シアさん」

 「うん」


 先ほどと同じように扉を切りつけ、中に入る。


 「サニャ!」

 「トーリ! 貴女も捕まっていたのね」

 「あぁ、不覚ながらな」

 「でも、無事でよかった」

 「サニャもな」


 どうやら知り合いがいたようです。

 二人は手を取り合い、お互いの無事を喜び合っています。

 しかし、すぐに僕たちが見ている事に気付くと姿勢を正しました。


 「トーリ、その人たちは?」

 「私達を救出しに来てくれた方達だ。そして……地上では仲間たちが戦っている」

 「そんな……すぐに応援にいかないと」

 「あぁ、わかってる。その前に他に捕まった仲間は?」

 「私が知っている限りだと、ノノとミサが居た筈……まだ連れ出されていなければだけど」


 意外にもレジスタンスのメンバーは何人も捕まっていたようです。


 「わかった。なら、先に戦える人数を揃えよう」

 「そうね」


 サニャさんと一緒に居た人たちの首輪も解放し、次々に扉を破壊し解放していきます。


 「こんなに捕まっていたのですね」

 「多い」


 総勢54人もの女の子が捕まっていました。

 本来であれば少しずつ連れ出す予定だったようですが、そうもいかなくなり次第に増えていったのだと思います。


 「戦えるのは12人か……」


 レジスタンスのメンバーは結局4人しかいませんでした。

 残りはランクの低い冒険者たちです。


 「どうしますか?」

 「ユアンに任せる」

 「手練れがいるようだし、この子達4人だけ行かせるのはね」


 僕たちが止めてもきっとトーリさん達は応援に行くでしょう。


 「せめて武器があれば少しは役に立てるかもしれないのに」


 悔しそうにサニャさんが呟きました。

 武器となりそうなものは置かれていません。奴隷の首輪があるとはいえ、少しだけなら反撃は出来ますからね、危険となるものをわざわざ置いたりしないでしょう。

 

 「あ、そういえば」

 

 僕は思い出してしまいました。収納にしまってある物の事を。


 「良かったらこれを好きに使ってください」


 ボロボロですが、剣や槍、ナイフなどを机の上に並べます。

 少し前に盗賊達を倒した時に手に入れた戦利品が収納の中に眠っていることを思い出しました。売るタイミングがなくて収納の肥やしになっていた物です。


 「質はよくないが……戦えるな」

 「貰っていいの?」

 「はい、僕たちには不要な物ですからね。少しでも役に立ててください」


 この場になるまで忘れていたくらいですし、惜しくありませんからね。


 「出来れば、私達も貰っていいかな?」

 「いいですよ」


 冒険者たちも武器を手にとりました。


 「ユアン、武器を渡してどうするつもり?」

 「はい、レジスタンスの皆さんはどうしても応援に行くのですよね?」


 僕の質問に4人とも頷きました。


 「なら、僕も手伝おうと思います」

 「ユアンが行くなら私もいく」

 「私もよ」

 「私もついていきますよ。だけど、残った人はどうするの?」


 助けに来た僕たちが応援に行くと聞いてか、残りの人たちは不安そうにしています。


 「残った人たちは冒険者さん達と共に地下通路から脱出して貰おうと思います」


 幸いにも8人も冒険者がいますからね。地下通路に危険な魔物が出ない事は確認済みですし、ランクが低くても問題は無いと思います。


 「だけど、罠はどうするの?」

 「罠は素人には対処できない」

 「そこは……キアラちゃん」

 「わかりました。ラディの出番ですね」


 キアラちゃんは察してくれたようで、直ぐにラディくんを呼んでくれました。


 「ワナハマカセテ、シジダシトク」


 突然魔鼠が現れ、しかもその魔鼠がしゃべった事に驚きと恐怖の悲鳴が響きました。


 「大丈夫ですよ。この子はキアラちゃんの召喚した子ですから」


 「ヨロシク」


 2足歩行で立ち上がり、お辞儀をするラディくんを見て、ようやく危険ではないとわかってくれたようです。

 それにしても、本当に賢いですね。


 「冒険者さん達はどうですか?」

 「不安だけど、ここから地上に出るよりはマシだと思う」

 「では、皆さんをお願いします。地上への道はラディくんの配下が案内しますのでそれについて行ってください。地上に出てからは……」


 ちょっと問題ありますね。警備兵は領主の手にかかってますし、ギルドも安心できません。


 「ルリが上手くやる」

 「ルリちゃんがですか?」

 「イル姉とルリに昨日のうちに頼んである」

 

 シアさんも準備してくれていたようで、地上に出る際には協力してくれるようです。


 「という訳で、地上にはシアさんの妹がいるみたいなので、指示に従ってください」


 二手に分かれ行動する事が決まりました。


 「そういえば……ローゼさんのお孫さんはいますか?」

 「あ……私です」


 10歳にも満たなそうな女の子が手を上げました。


 「良かったです。ローゼさんがずっと探してくれてましたよ。無事で良かったです」

 「おばあさまが……ぐすっ」

 「泣くのは早いですよ。だから、みんなの言う事を聞いて、無事にローゼさんの所に戻ってくださいね」

 「はいっ!」


 僕達の本来の依頼もこれで達成できそうですね。

 ですが、僕たちの戦いはこれからです。

 

 「では、準備はいいですか?」

 「いつでも」


 何故か、僕が指揮をとる事にいつの間にかなっていました。

 レジスタンスの人たちも明らかに年下の僕の事を聞き、頷いてくれます。


 「ルートは説明した通り、ここを抜ければ階段の裏にでるみたいですので、止まらずにレジスタンスに合流します」


 隙があれば攻撃をとシアさんとスノーさんには伝えてあります。

 レジスタンスの人たちがどれだけ戦えるのかわかりませんからね。


 「では、行きます!」


 スノーさんを先頭に僕たちは走り出しました。シアさんは最後尾で背中を守ってもらいます。


 「シアさん、手練れがいるようなので気を抜かないでくださいね」

 「大丈夫」

 「信じていますからね」


 地下を抜け、階段をあがり、僕たちは屋敷の中へと出る。

 そこには、入口を固める騎士たちの姿がありました。

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