第49話 補助魔法使い、エルフの少女を保護する

 「大丈夫ですか?」

 「……うっ……うぅ」


 意識はありませんが、どうやら生きているようです。

 倒れていたのはフードを深く被った人でした。倒れた傍らには魔法陣が刻まれています。恐らくこれを使って魔鼠を召喚したのかもしれません。

 背中を支え、上体を起こすと僕と同じくらいの少女だという事がわかりました。


 「ユアン、回復魔法」

 「わかりました」


 見た所、目立った外傷はないので、別の原因で意識がないようですね。

 

 「状態異常回復トリートメント!」


 下級回復魔法リカバーは外傷、状態異常回復トリートメントは内部を治すのでこちらの方が有効ですね。

 外傷も伴うようでしたら、中級以上の魔法を使う必要がありますが、これで十分そうです。

 僕の魔法が少女を光で包み、癒していきます。

 光も治まり、暫くすると少女が薄っすらと目を開きました。


 「んっ……」

 「大丈夫ですか」

 「ここは……?」

 「地下通路ですよ?」

 「地下……あっ!」


 僕の腕で小さく暴れ、立ち上がろうとします。

 

 「わっ、ちょっと落ち着いてください」

 「離してっ!」

 「大丈夫ですから、僕たちは冒険者ですよ」


 暴れたのが少しで助かりました。少女は体に力が入らないようで再び僕の腕の中でぐったりとしています。


 「どうしてこんなとこに?」

 「………………」


 僕の質問に答えるつもりがないようで、顔を露骨に逸らされました。


 「ぐぅぅぅぅ」


 その代わりにお腹が返事をしてくれましたね。少女もその事がわかったのか、頬がどんどんと赤くなっていきます。


 「この辺りも無事なようですし、少し早いですが昼食にしましょう。二人もそれでいいですか?」

 「うん」

 「構わないよ」


 少女は二人に気付いていなかったようで、驚いてそちらに顔を向けました。

 そして、その勢いで被っていたフードが脱げてしまいました。


 「あ……」


 フードがとれ、顔が全て見えた時、シアさんとスノーさんは驚きの声を上げました。


 「「エルフ!?」」

 

 少女は急いでフードを被りなおしますが、もう遅いです。

 尖った耳、金色と緑色の間のような髪がばっちり見えてしまいました。今は、こんな場所ですが、手入れをすれば綺麗な髪に違いありません。

 姿を見られた事に怯えているのか、少女は震えだしました。


 「大丈夫ですよ。危害を加えるつもりはありませんから」


 ちょうど良く、テーブルがありますので、そこに料理を収納から取り出し、シアさんに並べて貰います。

 今日の朝、出発の時に昼食を用意して貰えたので、温かい料理です。普段は干肉などの携帯食料で済ましているので豪華ですね。

 匂いに釣られたのか、少女は料理の方をじっと見つめます。しかし、まだ僕の腕の中で横になっているので見えてはいないでしょうけどね。

 ちなみに、この部屋は狭いので汚水の匂いなどが籠らないように遮断と洗浄魔法をかけています。

 この空気の中で食事は嫌ですからね。


 「どうしますか?」

 

 僕の質問に少女は僕の顔を見ました。ずっと取り乱していましたのでちゃんと目を合わせるのは初めてですね。


 翡翠色の透き通った目が潤み、静かに頷きました。


 「では、食事にしましょう……その前に、洗浄魔法クリーンウォッシュ


 女の子が何時までも汚れたままだと可哀そうですし、食事を食べる前は綺麗にしないといけませんからね。

 僕たちはバリアで汚れなどから守られていますが、一応クリーンウォッシュをかけておきます。気分の問題ですけどね。


 「どうぞ、食べてください」

 

 僕の言葉に少女は頷き、パンを手に取り齧りつきました。

 そこからは早かったです。

 少女は嬉しそうにパクパクと食事を平らげていきます。相当お腹が空いていたのかもしれませんね。

 果実水を喉を鳴らしながら飲み干し、少女は小さく息をつきました。


 「その、ありがとうございます」

 「大丈夫ですよ。それと、お礼ならその子に言ってあげてください」

 「ヂュー!」


 魔鼠が手をあげ、少女に挨拶をしました。本当に賢い魔鼠ですね。


 「えっと、魔物に……ですか?」

 「ヂュッ!?」


 少女は魔鼠を見ると首を傾げた。


 「その魔鼠が僕たちをここまで案内してくれたのですよ」

 「そうだったのですね。ありがと、魔鼠さん」


 魔鼠が怖くないようで、少女は魔鼠を優しく撫で、それが嬉しいのか魔鼠は小さく鳴いています。


 「それで、どうしてこんな場所にいたのですか?」

 「その前に名前」


 そうでした。僕たちは少女の名前すら知りませんし、僕たちの自己紹介もまだでした。

 少女が食事に夢中になっていたのでそのタイミングがなかっただけですけどね。


 「あ、すみません。私は、キアラルカです。もう気づかれてしまいましたが、エルフ族です」


 観念したようにフードを降ろしてくれました。クリーンウォッシュをかけたお陰で体の汚れも落ち、髪も光沢のある綺麗な髪に戻ったようです。


 「僕はユアンです。それで、こちらは影狼族のリンシアさんと……」

 「スノー・クオーネよ」」


 僕がスノーさんの紹介に困っていると自ら名乗ってくれました。スノーさんの事を何処まで話していいのかわかりませんからね。


 「それで、キアラりゅ……ルカさんはどうしてこんな場所に?」

 「言いにくいようでしたら、キアラと呼んでください」

 「すみません」

 

 僕が申し訳なさそうにしていると、キアラさんはくすりと笑ってくれました。


 「気にしないでください。それで、何故私がここに居たかというと……」


 キアラさんは一度は攫われたようですが、どうにか逃げてきたようです。

 そして、逃げたまではよかったのですが地下通路は迷路のようなっているので出口がわからずに彷徨っていたようです。


 「水は魔法でどうにかできましたが……」

 「食料まではどうにもできなかったのですね」


 水があれば少しの間なら生きる事は出来るので頑張ったようですが、流石に空腹にも限界があり、どうにか身を守れる此処に身を潜め、最後の力で召喚を行ったようですね。

 その記憶は曖昧みたいなのでギリギリだったみたいです。


 「空腹があんなに辛いとは思いませんでした」

 「わかる。だから、冒険者は食べれる時に食べる」


 シアさんがいつも言っているのはその辛さを知っているからのようです。


 「でも、よく逃げられたね」

 「はい、コレが安い物でしたので、抵抗できましたから」


 キアラさんの首には魔力を帯びた輪っかがつけられています。

 これは、奴隷商などが使う契約の首輪で、これをつけていると契約者に逆らえない魔法道具です。

 しかし、値段と効果は比例するので、あまりに安物だったりすると、魔力抵抗が高い人には効果は発揮できません。

 どうやらキアラさんは魔力抵抗が高いようで、奴隷の首輪の効果に打ち克ったみたいですね。


 「攫われた人はみんなそれをつけられているのですか?」

 「はい、そのせいで私以外は言う事を聞かなければ酷い目に」


 酷い目に。

 直接何かをされるのではなく、首輪がしまったり、身体に死なない程度の麻痺が施されるようです。


 「ちょっと見せて貰えますか?」

 「構いませんが……無理にとろうとすると……」


 苦痛が走るか、最悪首輪が破裂し、装着した人を死に至らせるようです。

 

 「大丈夫です。慎重にみますから」


 魔法道具は魔法文字によって効果を発揮する物が多いですからね。その効果を弄ってあげればどうにでもなります。

 これが古代魔法道具アーティファクトクラスだったら無理かもしれませんけどね。

 安物と言ったとおり、造りは簡単でした。

 命令に違反した場合に、伸縮か麻痺パラライゼスの効果が発揮するようですね。

 

 「いけそうです」


 伸縮の魔法があるのならば、それをちょっと書き換えてあげればいいのですからね。縮むのではなく、伸びるように魔法文字を弄れば……。


 「はい、とれましたよ」


 首輪が伸び、外す事ができました。


 「ユアンすごい」

 「ユアンって器用なのね」


 魔法道具の効果を変えるのは好きですからね。ちょっと勝った気分に浸れますから!

 キアラさんは状況を呑みこめていないようでしたが、首につけられていた首輪を見せてあげると、ようやく理解して深く頭を下げました。


 「あ、ありがとうございます!」

 「いえ、奴隷の首輪が簡単に外せる事がわかったので僕たちとしても助かりました」


 これから、沢山の攫われた人を探しますからね。簡単に外せるとわかれば、急な場面で慌てる事がなくて済みます。


 「ところで、皆さんはどうしてこんな場所に居たのですか?」

 「それはですね……」


 僕達は事の経緯を説明します。

 うん、僕たちって所がやっぱり大事です。

 説明下手な僕と口下手なシアさんではなくスノーさんがメインに僕が付け足す感じで説明しますからね。


 「そうでしたか……」

 「だから、出来れば何か知っている情報があれば知りたいのだけど」

 「私にできる事なら協力させて欲しいです!」

 「ですが、危険ですよ?」

 「多少の荒事には慣れています。私はこれでも冒険者ですから……ギルドカードは取り上げられてしまって、証明はできませんけど」


 キアラさんも冒険者のようです。

 ランクはDランクでまだまだD駆け出し冒険者のようですけどね。


 「どうしますか?」

 「危険」


 シアさんが僕に任せると言わないという事はあまり良く思ってはいないようです。


 「自分の身は自分で守ります。だから、ご一緒させてください!」

 

 目の奥に強い意志が宿っているのがわかります。助けて貰い、ただその結末を人の手で解決するのを見届ける。

 僕なら嫌です。

 キアラさんもきっと同じなのかもしれません。強く拳を握りしめ、尖った耳がピコピコと上下し、やる気に満ち溢れている感じがしますね。


 「シアさん、キアラさんもこう言ってますし、危険があっても僕の魔法で守ります」

 「……ユアンがそう言うなら」


 渋々ですが、シアさんは頷きました。


 「スノーさんはどう思いますか?」

 「えっ……えぇ、良いと思うよ」


 スノーさんは別の事を考えていたようですが、頷いてくれました。


 「という事ですが、本当に大丈夫ですか?」

 「はい!」

 「わかりました。それでは、暫くの間ですが仲間という事でよろしくお願いしますね」

 「はい、お姉ちゃん達と一緒に頑張ります!」

 「「「お、お姉ちゃん?」」」


 元気な声で高らかにお姉ちゃんと言いました。


 「えっと、ご迷惑でしたか?」

 「いえ、少し驚いただけです」

 

 シアさんはしかめっ面をしましたが、別に何も言ってませんし、スノーさんに関しては嬉しそうなので問題なさそうですけどね。

 理由くらいは聞いておきたいところです。


 「私達エルフは仲間意識の高い種族です。仲間とは家族同様ですから」


 エルフは長命で有名で、あまり他種族と関りを持とうとしない種族で有名でした。

 しかし最近では若いエルフが見分を広めるために里を離れる事が流行りのようですね。

 キアラさんもその類で、見分を広めるために冒険者になったようですが、仲間と呼べる信頼できる相手に出会う事はなかったようです。

 何せ、仲間とは家族と思える相手ではないといけないようですからね。

 そう考えると、最大限に信頼を得たという事なのかもしれません。

 ですが、一つ疑問があります。


 「エルフは長命」


 僕の疑問をシアさんが言ってくれました。


 「そうですね。もしかしたらキアラさんの方が年上かもしれませんからね」


 エルフは成長が遅い事でも有名ですからね。

 笑い話で、親子を姉妹と間違えたという話があるくらいですからね。


 「それで、キアラは何歳なの?」

 「えっと、秘密です!」


 もしかしたら、一時ですが年上の妹が出来てしまったかもしれません。

 そんな一幕もありながらも僕たちは一度地上に戻る事を決めました。

 何せ、キアラさんの情報では、あの場所が領主の館の地下だという事が判明しましたからね。

 皇女様とレジスタンスと連絡をとり、連携出来そうですからね。

 いよいよ、大詰めになりそうですよ!

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