第43話 補助魔法使い、地下通路に挑む
「いらっしゃい……ってユアンちゃんとシアじゃない」
「はい、また来ちゃいました」
「って事は、地下探索ね?」
「知っていたのですか?」
「えぇ、昨日のうちにルリから聞いていたからね」
どうやらルリちゃんが先に根回しをしてくれていたようですね。すごく協力的で助かります。
「で、そっちがスノー様ですね」
「私の事も?」
「そう言う事……にしておこうかしら?」
ずいぶん含みのある言い方です。イルミナさんも何かしら情報を掴んでいるのかもしれませんね。
「えっと、いきなりで申し訳ないのですが何か役に立つ魔法道具ってありますか?」
「大丈夫。ちゃんと用意してあるわよ……ララ、あれを持ってきて」
「は~い。これをどうぞ~」
ララさんに渡されたのは1枚の紙でした。
しかし、ただの紙ではなく、羊皮紙のように丸められた魔力の籠った神です。
「これは?」
「簡単に言えば地図ね」
「地図ですか?」
「それは魔法道具で自分で記入しなくても記録してくれる物よ」
ただ、歩くだけで記入してくれるのは助かります。記入している間に敵に襲われる可能性がありますから、その隙をなくせます。
「ただし、魔力を込める必要があるから燃費は悪いけど、ユアンちゃんなら問題ないと思うわ」
「はい、魔力量には少し自信があります」
「それと、【
「そんな機能まであるのですね!こんなすごい物借りていいのですか?」
「貸すではなくてプレゼントよ。だって、それほど高価なものじゃないからね」
イルミナさんが言う通り、金貨1枚もあれば買える品物のようです。
僕からすれば金貨1枚は大金ですけどね!
高ランクの冒険者はみんな持っているようで特に珍しいものでもないようなので、有難く頂きました。
「あとは、これも必要かしら」
「これは……時計ですか?」
「そうよ。地下に潜ると時間の感覚がわからないわ」
確かに。太陽の位置で朝、昼、夜と判断できますが、地下には当然太陽はありません。
時間がわかれば休む目安にもなりますね。
「それじゃ、気を付けていってらっしゃい」
「はい、ありがとうございます!」
「行ってくる」
僕たちはイルミナさんにお礼を言ってお店を後にしました。
いよいよ探索開始です!
「うえ……何ですかこの臭い!」
「無理」
一度ルリちゃんの拠点に向かい、そこから地下通路に出る道を案内され辿り着いた場所は呼吸をするのも躊躇われる場所でした。
「生活排水が流れるから仕方ないよ!」
ルリちゃんは顔半分を布のようなもので隠し僕たちに説明します。
「とりあえず、臭いを遮断しますね!」
バリアと浄化魔法を組み合わせ、それぞれの体に付与します。
汚れがつかず、臭いも遮断しオマケに防御力アップすることが出来ました。
「お姉ちゃん達ずるい!ルリにもー!」
「ずるいのはルリちゃんですよ。知ってて黙ってましたよね?」
「だって、反応楽しそうだったんだもん!」
「そんなルリちゃんにはお仕置きです」
「むーー!」
だけど、ここまで送ってくれたので、バリアだけは張ってあげますけどね。帰りに万が一があっては哀しいですので。
「臭いもとって欲しいよー。拠点が臭くなっちゃう……」
顔半分を覆った布は臭いを遮断する効果はありますけど、服とかに染みついた臭い、汚れはとれませんからね。
「ルリ、悪い事したらちゃんと謝る」
「わかったよー。お姉ちゃん達ごめんなさいでした」
素直に頭を下げてくれます。
色々と協力してくれているので僕もそこまで鬼ににはなれません。なので、ルリちゃんにも浄化魔法を付与したバリアに変えてあげました。
「えへへ、ありがとうだよ!」
「いえ、僕たちも助かっていますからね」
「それで、ルリはどうする?」
「私は戻るよ! お姉ちゃん達について行っても足で纏いだし、私は私が出来る事をやるつもりだよ!」
「無茶しないでくださいね?」
「無茶何て今更だよ!」
ルリちゃんは情報を集めるために一番危ない事をしていますので心配ですね。
「お姉ちゃん達が頑張れば無茶しなくてすむよ!」
「うん。任せる」
「一刻も早く解決するために頑張るよ」
「うんうん。お姉ちゃん達も無理しないでね!こんな場所で死なれたら魔鼠達に食べられて骨しか残らなくて見分けつかないからね!」
さらっと怖い事言われました!
実際に、ここで死ねばそうなりますよね。誰にも知られずひっそりと……身が引き締まりますね。
「それじゃ、行ってきますね」
「はーい!またねー!」
僕たちは地下水路の奥を目指して進みだしました。
まぁ、ゴールが奥とは限りませんけどね。
「そこら中に魔物の反応がありますね」
「そんな事わかるの?」
「はい、感知魔法でわかります」
大きな反応はないので、魔鼠やそのサイズの魔物という事はわかります。
問題は汚水の中に反応があるという事ですね。
地下水路は暗く、灯りがありません。なので、僕の光魔法で照らしながら進んでいます。
幸いにも水路と歩く場所は別なので汚水に浸かりながら進む事にはなりませんが、汚水が飛んで通路がぬかるんでいます。
「いつ襲ってきてもいいように気を付けてくださいね」
「うん、わかってーーきゃっ!」
「危ない」
早速、スノーさんが足を滑らせ転倒しそうになりました。
「二人とも離れてください!」
僕の言葉に二人が反応し、飛びのきます。
「何か動いてる?」
「あれはスライム」
スノーさんが気づかずに踏んだのはスライムのようでした。個体によって脅威度は変わりますが、こんな場所にいるのは脅威度の低いスライムだと思います。
スライムは何でも食べる性質があり、危険度も比較的低いのでこういった場所ではお掃除屋さんとして放置されるとルリちゃんが言っていましたね。
「えいっ」
仕返しとばかり、スノーさんが剣で突き刺すとスライムはゼリー状に溶けて動かなくなりました。
「スノーさんすごいですね!」
「え……それほどじゃないと思うんだけど?」
「いえ、スライムは核となる場所を壊さないと倒せないので一撃で倒したのは凄いと思いますよ!」
スライムの脅威度は低いですが、中々倒せなかったりします。
素人でも切り続ければいつかは倒せますが、一撃で倒すとなるとそれなりの経験か核を見破らないといけませんからね。
ちなみに、僕は感知魔法でスライムの核がわかるので割と簡単に倒せますよ!
スライムを倒し、先に進むと早速分かれ道に辿り着きました。
「どっちに進みましょうか?」
「どっちでも」
「そうだね。行き止まりって事はないだろうしね」
「わかりました、マップもある事ですし、左に進んでしらみつぶしに埋めていきましょう」
適当に進むと一度行った場所とぶつかる可能性がありますからね。
それならば、時間が許される限りは順番に埋めていく方が効率はよさそうです。
「こうして歩いているとダンジョンみたいだね」
「ダンジョンですか?」
「ユアンは知らないの?」
「僕は知らないです。シアさんは?」
「話は聞いた事ある」
「スノーさんは行った事あるのですか?」
「私もないよ。リンシアと一緒で話に聞いた事あるくらいだね」
「どんな所なのですか?」
「うーん……本当に話に聞いただけだよ?」
魔力溜まりによって魔物は生まれる事がある。
ダンジョンはそこに生まれる、というよりも遺跡や洞窟などに魔力溜まりがあってそこがダンジョンと呼ばれるようです。
「ダンジョンの奥には
「何でですか?」
「んー……最初からそこに隠されていたのか、それとも魔力溜まりから生み出されたのかわからないかな」
一説には神が生み出したとも、ダンジョンを守る存在が生み出したとも言われていますね。
「ダンジョンは奥に進めば進むほど魔力溜まりが濃くなっていて、強力な魔物がいるみたいだから、解析が進んでいないからね。詳しい事は攻略しないとわからないかな」
過去に古代遺跡を攻略したAランク冒険者はいたようです。ただし、仲間を失い、満身創痍で帰還したようですがね。
その傷のせいで冒険者を引退を余儀なくされたようですが、それほどリスクは高いようです。
その反面、手に入れたアーティファクトで一生遊んで暮らせる財産を手に入れたという噂もあるようで夢のある話でもありますね。
「いつかは行ってみたいですね」
「ユアンが行きたいなら行く」
「いいな。私も興味あるから」
「スノーさんも一緒に行きましょう!」
「ありがとう。だけど、私はエメリア様の騎士だからね。そうはいかないよ」
冒険者と違って仕事……それも基本的には皇女様の護衛なので自由は効かないようですね。
「この任務が特殊だからね。動ける人材が少ないから仕方ないのだけど」
帝都にいけばそれなりに人は居るようですが、帝都を離れると自由に動かせる人は少ないようですね。
そうなると、どうしても信頼できる護衛が動くことになるようですね。
「だから、不謹慎だけどユアン達とこうやって一緒に行動する出来る事を嬉しく思うよ。例え、一時だとしてもね」
「そう言って貰えると嬉しいです」
「ユアンの良さがわかるのは歓迎」
「もちろんリンシアと一緒なのも嬉しいよ。私とは違う戦闘スタイルだから勉強になるからね」
「私もスノーの戦い方は勉強になるから助かる。それと、シアでいい」
「いいの?」
「一緒にパーティー組んでいる仲間。構わない」
「ふふっ、ありがとう、シア」
「礼はいらない」
二人もどんどん打ち解けていい感じですね。
けど、ちょっと淋しいような気もしますね。
「大丈夫。何時でも一番はユアン」
「うんうん、私もユアンからシアを奪わないし、シアの邪魔するつもりもないから安心して」
「えっと、どういう事ですか?」
「そのうちわかるよ」
訳もわからないまま、はぐらかされたしまいました。
僕とシアさんに関係する事のようですけど、一体何の事でしょう。
結局、答えも見つからないまま奥に進んでいくことになるのでした。
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