第34話 補助魔法使い、女性冒険者と出会う

 「では、行きましょう」

 「うん。気を付けて」


 別行動開始です!

 ギルドの場所は宿屋から一本道ですから、大通りを真っすぐに進みます。

 朝から、大通りは人でいっぱいですのでぶつからない様に気を付けながら、ギルドに向かいます。体が小さいお陰でするりと人の間を抜けられるのは楽ですよね。

 ギルドは朝の時間帯なので物凄く混んでいましたが、回転が速いようで出入りが激しいだけで待たされる時間はあまりなくて助かりました。

 僕は依頼を受けに来たわけではないので、ギルドボードを確認しにいきます。


 「依頼、少ないですね」


 ギルドボードに貼られている依頼の数が少ない事に驚きました。

 討伐依頼も採取依頼もありません。あるのは護衛依頼が少しあるだけです。

 護衛の仕事がメインと聞いていたのにその依頼が少ない事に驚きですね。


 「あら……確かユアンさんでしたよね?」

 「あ、昨日の受付のお姉さん」


 僕が依頼ボードと睨めっこしていると声をかけられると昨日の受付のミノリさんが声をかけてきました。


 「よくわかりましたね」

 「わかりますよ。可愛いですから」

 

 今日の僕は昨日と違い、ローブを……つまりフードを被っていません。なので、印象はだいぶ違うと思います。

 それを一目見ただけで僕と判断したミノリさんの観察力はすごいと思います。それとも意外と簡単なのかな?


 「小さな冒険者は少ないからですよ。ユアンさんのような冒険者はタンザのギルドにはあまり来ないので印象に残りやすいですからね。それに昨日の一件もありますからね」


 そういう事でしたか。

 確かに、僕は小さいですし、ちょっとした揉め事を起こしていますからね。印象に残っても仕方ないと思います。

 

 「それよりも、忙しいのに僕に構っていていいのですか?」

 「はい、私はまだ出社前ですので。仕事をしなくてもいいんですよ。それよりも、依頼をお探しですか?」

 「はい、どんな依頼があるのか見に来ました。けど、依頼が少ないですね」

 「それは、多くの冒険者が契約を結んでいるからですね」

 「契約ですか?」

 「はい、この街に訪れる人は信頼出来る冒険者や気に入った冒険者と契約を結んでいますからね。商人も貴族様も数日滞在したら戻られますから。片道ではなく、自分たちの住む場所で往復の契約を結んでいる人が多いのですよ」


 その方法ならばタンザでわざわざ護衛を探す必要がないですね。


 「なので、依頼ボードに貼られているのはこの街を経由して他の場所に行くために立ち寄った商人やこの街で活動している商人が多いですね」


 この街で活動する商人もこの街を拠点にしている冒険者と契約を結んでいる人が多いので余程の事が無い限りは護衛依頼は出さないみたいですけどね。


 「そうなのですね。ちなみに、捜索依頼とかはないのですか?」

 「えっと……捜索、依頼ですか?」


 僕の質問にミノリさんの声が暗く、小さくなりました。

 その変化に僕も気づき、自然と声が小さくなります。


 「何かあるのですか?」

 「いえ、私もよくわかりませんが、その手の依頼は受理されないので依頼ボードに貼られる事がないのです」

 「どうしてですか?」

 「それは、私からは答えられません……ですが、その件を探ったりした冒険者が行方不明になったり、死体で見つかった報告もあります。ユアンさんも出来る事ならその事に触れない事をお勧めします」

 「わかりました」

 「今の話は内緒でお願いしますね?私にも立場……身の安全は大事ですから」


 思った以上に深刻な問題のようです。僕は静かに頷きます。


 「では、私は今から仕事がありますので失礼しますね。また良かったらこの辺にいない魔物の情報とか教えてくださいね。この辺りにはユアンさんの教えてくれたような魔物を見かける事は出来ませんからね」

 

 魔物の話?僕は思わず首を傾げてしまいましたが、ミノリさんが横目で受付を流し見るとこっちをちらちらと探るように見ている人が居ました。

 何の話をしていたか誤魔化したい。

 僕はようやくそれに気づきました。


 「は、はい。よければこの辺に居ない魔物の素材や薬草などもありますが納品しますか?」

 「ありがとうございます。では、このまま素材の処理をさせて頂きますので、あちらでお待ちください。すぐに私も支度して参りますので」

 「ありがとうございます」


 ミノリさんはギルドの奥へと消えていき、すぐに戻ってきました。

 オークの肉を取り出したり、持っていたこの辺で採る事ができない薬草の類を出すと当然驚かれましたが、そのお陰もあってか疑惑の目も消えました。その代わり別の意味で注目はされてしまいましたけどね。

 清算が終わり、予想外の収入と情報を手に僕はギルドを後にしました。

 昨日のように絡まれる事がなくて良かったです。途中、覚えのある、怯えたような声が聞こえたのも気のせいだと思います。

 僕は人を怯えさせる事なんてしていませんからね。

 そう思って、ギルドから出たのですが……うん、つけられてますね。

 僕と同じ速度でギルドから3つ点が移動しています。

 試しに横道に入って、また大通りに出たり、お店の前で商品を見るふりをして足を止めたりしましたが、一定の距離を置いてついてきていますね。

 

 「シアさんと合流するべきか悩みますね……」


 僕一人でも逃げるだけなら問題ありませんが、どこまで追ってくるかわからないので面倒ですからね。

 ならいっその事、お話を伺った方が早いような気がします。

 適当な路地に入り、奥に進む。

 大きな街でも人が少ない場所はありますからね。隣接して並ぶ家の裏なんか誘い込むにはぴったりですからね。


 「ここら辺なら人に迷惑かけないですかね?」


 独り言ではない、誰かに話しかけるように振り向き、少し待つと物陰から3人の男が出てきました。


 「尾行に気付いていたのか」

 「はい、わかりました」


 途中から尾行されていたらわかりませんでしたけどね。そう考えると本格的に探知魔法を改良する方がよさそうです。

 現在、人間が青い点、魔物が赤い点くらいしから区別がありませんので、仲間が黄色で危険察知と合わせて敵意がありそうなら紫色とかにすればいいのかな?


 「おいっ!聞いているのか!」

 「え、何でしょうか?」


 聞いていませんでした。他の事を考えているとダメですね。


 「すみませんが、もう一回お願いします」

 「馬鹿にしてんのか? まぁ、いい。昨日の狼の女はどこだ?」

 「近くにはいませんよ」

 「ちっ」


 舌打ちされました。そういえば、この人は昨日リンシアさんに蹴り飛ばされた人と、その周りにいた人ですね。もしかして、復讐にでも来たのでしょうか?


 「居場所はどこだ?」

 「言いませんよ。仲間ですから」

 「そうか……それならーー」

 「待ちなさい!」


 男が何かを言おうとした瞬間、凛とした声が路地裏に響きました。

 声のした方を見ると、薄い青色の……光の加減で銀色にも見える髪を高い位置で縛り、白で統一されたドレスアーマーを着た女性が男たちの背後に立っていました。

 騎士団の人でしょうか?ですが、街の門に立っていた騎士っぽい人達とはアーマーの色が違いますね。あの人たちは黒色が目立ってましたし。

 

 「貴方たち、そこで何をしている!」

 「べ、別に何もしてねーよ」

 「とてもそうは見えない。男3人が女の子を囲んでいる状況が普通だと言うの?」

 「この嬢ちゃんに話があっただけだ、何もしてねぇよ! なぁ?」

 「そうですね」


 男が威圧するように僕に同意を求めてきましたが、実際に何もされていませんし、何事もなくこの場が治まるのならと思い僕も同意しておくことにします。


 「そうですか、それならば直ぐに立ち去る事を勧めます」

 「言われなくてもそうするよ……おい!いくぞ」


 助けてくれた女性は路地裏から男達が出ていくまで腰に差してある剣に手をかけいつでも抜けるように牽制し、その手をそっとおろし僕の方へと歩いてきました。


 「無事ですか?」

 「はい、お陰様で。ありがとうございました。」


 助けて貰う必要はなかった、とは言えませんよね。善意で助けてくれたようですから。

 まぁ、この状況を利用してお金を要求するようなら別ですが、その様子もありませんからね。


 「最近、この街でも失踪者が増えています。それも女子供が多く」

 「そうなのですね」

 「えぇ。君はこの街の住人ではないですね?出来るだけ人気のない場所にはいかないほうがいいですよ」

 「わかりました。出来るだけ気を付けますね」

 「そうしてください。それで、何か困った事があったら声をかけてください、出来るだけ力になりますから」

 

 では、と踵を返し、路地から立ち去ろうとします。

 その動き一つ一つにキレがあり、足運びも姿勢もとても綺麗です。

 シアさんが速さと柔軟性のある動きをするならば、この女性は堅実な動きと言った感じでしょうか?

 

 「あ、すみません。少しいいですか?」

 「ん、何か?」


 声をかけなければそのまま行ってしまいそうだったので背中に向かって声をかけます。


 「僕はユアンです……一応、冒険者をやっています。この度は助けていただいてありがとうございました」

 「困っているかと思いましたが、もしかして要らぬお世話でしたか?」

 「いえ、僕は補助魔法使いですので、争いには向いていないので助かりました」

 「それなら良かった。私は、スノー……スノー・クオーネです。貴女と同じ冒険者をやっています」


 騎士だと思いましたが、冒険者だったようですね。騎士を目指すために冒険者になる人も少なからずいるようなので、スノーさんもその類か、家門名がある事から貴族の出である可能性もあります。貴族であればそういった教育を受けるはずですので、何かしらの事情があるのかもしれませんね。

 流石にそこまで聞けませんけどね。


 「スノーさんも冒険者でしたか。少しお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」

 「えぇ、構わないですが……このような場所で話をする訳にはいけませんね。大通りから外れた場所は治安がよくない場所が多いですから。出来れば場所を移動しませんか?」

 

 確かに、こんな場所で立ち話も変ですからね。僕は移動しスノーさんと話を出来る場所に向かいました。

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