第30話 補助魔法使い、お姉さんに契約を認められる為にがんばる
「ユアンはどこ?」
「し、シアさん!」
吹き飛んだドアで魔法道具がなぎ倒されていきます。それを全く気にした様子もなくシアさんが僕の元に駆け寄り、ぎゅっと抱きしめられました。
「ユアン、無事?」
「はい、今の所は」
サイズを測られたくらいで何もされてないですからね。
「ちょっとシアちゃん。いくら妹だからって売り物を傷つけるのはやりすぎよ?」
「知らない。イル
「妹? イル姉?」
抱きしめられたまま二人を見比べるとやはり似ています。確かに姉妹と言われれば納得できるほど似ていますね。顔の造りとかが。
「それで、この状況はどうなっているのですか?」
「それは私が聞きたい。お姉を尋ねたら店に居なかった。だから宿屋に戻っていたら、ユアンから緊急連絡が飛んできた。それで、反応がお姉の店で、お姉の事だからユアンに変な事する可能性があったから急いできた」
どうやら、完全にお姉さんとすれ違いになったみたいですね。かといって、ドアを吹き飛ばす必要はなかったような気がします。
「しないわよ。するとしたら、ララがするかもしれないけど」
「わ、わたしですかぁ!? してませんよぉ」
シアさんがララさんを睨みつけると慌てた様子で手を振ります。とても慌てているようには見えませんけどね。
「それで、どうして僕は連れてこられたのですか?」
「そりゃ、シアちゃんの匂いが染みついていたからね。関係者だと思うでしょ?」
シアさんの匂いですか?
シアさんから離れ、くんくんと自分のローブを嗅いでみますが、わかりません。
「ユアン、騙されてる」
「え、そうなのですか!?」
「お姉には前もって連絡してあったから、ユアンの事がわかった」
「い、いつの間に……」
どうやら、この街に向かう前にギルドで手紙を出していたようです。僕は知りませんでしたが。
「シアちゃんからの手紙は驚いたわよ。主を見つけたって書いてあったからね」
「ほ、他にはどんなことが書いてあったのですか?」
僕の事を簡単に見分けれたくらいですからね、きっとわかりやすい特徴が書いてあったはずです。
「そうね、とても可愛い狐の獣人って書いてあったわね」
「うん。わかりやすい」
それだけでわかる訳がありません!
しかし、現に連れてこられてしまったので二人の中で通じ合うものがあったのかもしれませんね。
「それで、結局……僕が連れてこられた理由は?」
一向に話が続かないので質問ばかりになってしまいました。
が、ようやく本当の目的が答えとして返ってきました。
「見極めよ」
「見極め、ですか?」
「えぇ、大事な妹の主となる人物か、姉として見極めないとね」
眼鏡の奥から覗く瞳が細められ、魔力を帯びたのを感じる。
その瞬間、身体の中にバチバチと電気が走った気がします。気がする程度の弱い電気です。
この感覚覚えがありますね。
「探知魔法……ですか?それも鑑定の」
「あら、ばれちゃった?しかも
僕の情報は与えたくないですからね。常にトラブルの元になるのはわかっていますから。
対策くらいはしていますよ。
「当り前、ユアンはイル姉よりも格上の魔法使い」
「シアさん。それは言いすぎですよ。僕は補助魔法が得意なだけです」
「お姉も同じタイプ。どちらかと言うと魔法道具を作るのが得意な変な魔法使い」
「そこは、魔法使いじゃなくて、魔術師と呼んで欲しいのだけど。そもそも、私は錬金術師よ」
魔法使いと魔術師の違いは簡単です。
魔素を使い魔法を使うのが魔法使いで、魔法道具を使って魔法を扱うのが魔術師です。
錬金術師は魔物の素材や魔石、魔法陣や魔法文字を組み合わせて魔法道具や薬などを作ったりする。頭の良さは当然の事、柔軟性や豊かな発想力を求められる職業と言われていますね。
「イル姉の職業はどうでもいい。とにかくユアンの方が格上」
「あら、それならそれを証明してもらおうかしら?」
「簡単」
シアさんはポーチをイルミナさんに渡しました。
「これは、この店で作ったやつね。これがどうしたのかしら?」
「使えばわかる」
「うん? 店の物より少し大きいわね」
「腕を奥に入れる」
「腕を? え、ポーチの中で別階層ですって!?」
「魔力流す」
「魔力を……な、何よ、これ!?」
シアさんがとても勝ち誇った顔をしています。
あの反応からすると、次元を繋げたのはやりすぎたかもしれません。
「これを……この子がやったって言うの?」
「うん、目の前で見せてもらった。間違いない」
「これだけでも並外れた腕ではないとわかるわね……本当ならだけど」
「嘘じゃない」
「なら、目の前で見せて貰えるかしら?」
なんか、実践することになりましたよ?まぁ、隠す技術でもないのでいいですけどね。
「では、説明しながら改良していきますね」
「えぇ、お願い」
「まず、収納魔法って何の分類に所属する魔法だと思いますか?」
「それは……古代魔法ね」
「そうです」
魔法には種類があります。
攻撃魔法、補助魔法とかではなく、属性を司るという意味でです。
代表的な属性で言えば、火、水、風、土ですね。これは、魔法使いであれば割と使える人は多いです。
そして、特殊な種類として光、闇、無属性があります。僕の防御魔法が光属性なのでその系統ですね。使える人は多くないので一応珍しいのですよ?
更に、特殊なのが聖と邪とありますが、聖は回復、邪は呪い系統の魔法ですが、今はその説明は置いておきます。
そして、収納魔法の分類は古代魔法と呼ばれています。遥か昔に失われた魔法だと言われていて、使える人は少ないと言われています。
「では、失われた筈の古代魔法がなぜ収納魔法として今の時代に使われているのでしょうか?」
「それは、
「正確には、古代魔法道具に刻まれた魔法文字をですね」
魔力が少ない人でも魔法を利用する方法があります。
魔法文字の刻まれた魔力の籠った魔石を利用する方法です。
魔法文字が詠唱、魔石が媒体という訳です。
ちなみに、魔法陣を使うと高位の魔法が使えるのは魔法文字とその組み合わせのお陰でもありますね。
「この
「全く同じではないけどね」
「十分ですよ。逆にこれだけ再現出来たことは凄いと思います。ですが、魔法文字を弄ってあげれば更に性能はあがります」
シアさんのポーチに施したように魔法文字を変えていきます。
現代の魔法文字と古代の魔法文字は全然違いますが、ある程度読みとれれば変える事は出来ますからね。
「はい、少し変えるだけで効果はでましたよ」
「嘘……たったこれだけで……」
「魔法はイメージ力が大事ですからね。魔法文字も同じで魔法文字で刻まれた意味がイメージとなり、強く深ければ効果は上がりますね」
「それはそうかもしれないけど、古代魔法文字を解読して意味を強くするのは難しい事よ。それこそ研究者が日々研究しているような内容だからね」
「そうですね。ですが、現代と古代の共通部分もありますので。例えば、この文字は光をさし、こっちは闇をさしています」
「そう言われると、似ている……気もするわね」
「つまりは、収納魔法は光と闇の魔法が使われているという事ですね」
「複合魔法……」
「そう言う事になりますね。つまりは光と闇の交わりに強い意味を持たせると……」
「収納が大きくなる、と」
「そういう事です。つまりは収納魔法は光と闇の複合魔法から出来ているという事になりますね」
収納の使い手は光と闇の魔法を使えるという事がこの事からわかりますね。もし、収納の使い手と戦う事になった場合の対策にも繋がるのでこういった魔法理論は大事だったりします。
まぁ、複合魔法は複雑なので使い手はかなり少ないみたいですけどね。普通の魔法使いは相性のいい一つの属性に特化する人が多いですので。
「すごいわ!」
「ありがとうございます」
「この技術は広めてもいいのかしら?」
「構いませんよ」
この程度なら問題ありませんからね。流石にシアさんのポーチに施した内容は教えられませんけどね。
何せ、現代でまだ解読できていないだろう内容も含まれていますから。
「ほ、他にも教えて貰えることってある!?」
「は、はい。僕の知っている事であれば……」
僕の事を見極めるのが目的だったと思うのですが、いつのまにか僕の講習会になってしまいました。
シアさんにはお世話になっているので、シアさんのお姉さんですし、シアさんへのお返しに少しでもなるのなら構いませんけどね。
「そうですね、いらない袋か入れ物ってありますか?」
「入れ物? これなんてどうかしら」
イルミナさんが渡してきたのは、まだ加工途中の、魔法文字の刻まれていない袋でした。
材質は皮なので、ちょうど良さそうですね。
「水を生み出す魔法道具って高いですよね」
「そうね、水は生きる上で必需品だから仕方ないわね」
「では、それを作りたいと思います」
「流石に無理よ。水を生み出す程の魔石は高いから」
「いえ、魔石は水ではなくても魔力が込められている魔石であれば十分です」
「それじゃ、どこから水を生み出すのかしら?」
「簡単です。僕は料理もするのですが、湯を沸かした時に登る湯気には水分が含まれていて、その水分は何処に消えたのか考えた事があります。そして、一つの仮説に辿り着きました。水分は空気の中に溶けているのではないかと。
なので、まずは袋に収納効果を付与し、次に風魔法の空気を圧縮する
待つ事数分、袋を傾けるとちょろちょろと袋から水が流れる。
「後は、安全の為に浄化魔法を組み合わせれば完成ですね」
最後に
それでも欠点はまだまだあります。
砂漠などの乾燥した場所では大量の水を生み出す事はできないですし、エア・ボムの魔法を使っているので制作過程で些細なミスが暴発を起こしたりする可能性があります。
それを忘れずに伝えると、イルミナさんはシアさんの肩を掴み、小刻みに震えました。
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