第31話 補助魔法使い、新しい服を手に入れる
「シアちゃん、お願いがあるわ」
「なに?」
「ユアンちゃんの……」
「ユアンの?」
「契約を私に譲って!」
「無理」
話の流れ的にシアさんの主である事は認められたのでしょうか?
それとは別に姉妹喧嘩が始まってしまいましたけどね。
「どうしてよ、ユアンちゃんの魔法道具を作る才能を無駄にする気?」
「ユアンのその才能はほんの全体の一部分。ユアンの全ての才能を活かすならそれだけに専念させる訳にはいかない」
「いいえ、ユアンちゃんの才能を制作に注げば世界を変えられるかもしれないわ」
「そんな事しなくても、ユアンの手で世界は変えられる」
何か、話が大きくなってきましたよ!
「二人とも落ち着いてください!僕はそこまでの才能は持ち合わせていませんし、世界も変える気はありませんから!」
家を建ててのんびりと暮らす。
この目的の為に頑張っているので、世界を変えるなんて全く興味がありませんし、不可能ですからね。
そもそも二人が大袈裟に評価しているだけで、僕はそんな優秀な人材ではありませんしね。
「「そんなことない(わよ)」」
やはり姉妹ですね。声を揃えて僕の言葉を否定してきます。多分、評価した人物を過大評価する傾向が影狼族にはあるのかもしれないですね。
「お待たせしましたぁ~」
二人を必死に宥めていると、いつの間にか居なくなっていた……ララさん?でしたっけ、が戻ってきました。
「おやおやぁ~。姉妹仲良くイチャラブですかぁ?」
この状況を見て、ララさんは鼻息を荒くしています。本気でやばい人かもしれません。
「違う。イル姉が馬鹿な事言い出しただけ」
「馬鹿な事じゃないわよ。大事な事よ」
「それが、馬鹿。イル姉も知っている筈、契約の取り消しが出来ないことくらい」
「わかっているわよ……だけど、言わずにはいられなかっただけよ」
「とりあえず、ユアンの事認める」
「えぇ、いい主を見つけたわね」
ララさんの登場のお陰でどうにか場が治まったようです。それで、シアさんと一緒に居る事を正式に認めて貰えたようです。
「それで、オーナーできましたよぉ~」
「あら、すっかり忘れていたわ」
イルミナさんがララさんから服を受け取りました。
「はい、ユアンちゃんの服よ」
「え、僕のですか!?」
ララさんからイルミナさんにイルミナさんから僕に服が回ってきました。
魔力を帯びているので、この服が魔法道具である事がわかります。
「えぇ、シアちゃんに頼まれていたからね」
「えっと、ありがとうございます」
もしかして、あの時に部屋着しか買わなかったのはこれを狙っていたのかもしれません。また、シアさんにやられてしまったようです。
また、お仕置きをしなければいけませんね。
そう思ってシアさんの方を見ると、露骨に目線を逸らされました。何かを察したようです。
「えっと、代金は……」
魔法道具となると値段が一気にあがるはずです。値段を恐る恐る尋ねる。
「受け取れないわ。新たなる技術を教えてくれたのだから。むしろ、私達の方が払い足りないくらいよ。何なら冷蔵庫くらい持っていく?」
「い、いりません!十分です!」
僕の技術提供で済ませてくれるようです。助かりました……。
「折角だから何か貰っていけばいい」
それなのに、シアさんはそんなこと言います。
「ダメですよ。どれも高いのですから。服だけで十分です」
「ユアンは謙虚、えらい」
「そうね、もう少し欲張ってもいいと思うわ」
二人の感覚がおかしいだけです。そんな高価な物を簡単に渡そうとするのは異常です!
「そんなことないわ。お客様には正当な値段で買って貰うわよ。シアちゃんの主で更には私までお世話になったら特別なだけ」
「服だけで十分ですよ」
「それより、ユアン着ないの?」
う、ここで着替えるのが嫌だったので話を逸らしたつもりでしたが、上手くいかなかったようです。
「そうね。サイズと着心地の調整もしておきたいし、着てみるといいわね」
「魔法道具なのでサイズ調整いらないですよね?」
「万が一よ。もし、サイズ調整の機能が失われたりしたら問題でしょ?」
確かに。急にサイズが大きくなったりしたり小さくなったりしたら大変ですね。
なので、基本的には僕の体に合わせて調整してくれたようです……あの短時間で。
「まぁ、ララはこんなだけど優秀だからね」
「こんなとはひどいですよぉ~」
どうやら、着替える流れは覆せないようです。けど、一つだけ気になった点がありました。
「これ、フードがないので僕は外では着られませんよ。僕の髪の色が……ですので」
「まぁ、着ればわかるわ」
「わかりました……」
若干気が進まないながらも、僕は奥に案内され着替える事になりました。
何故か、ララさんとシアさんまでついてきたので追い出しましたけどね。
「んー……落ち着かないですね」
着替えを終え、最初に思った印象は露出が多く感じますね。
上下一体となっていて、調整しないと太ももあたりまでしか届きませんし、肩は開かれていますし、袖もゆったりとしてますね。
「どう、ですか?」
「うん、倭の国の服をイメージしてこっち風にアレンジしてみたけどいい感じね」
「ユアン、似合う」
「そうですかね?」
色が青と黄色があり、更には冬用にかコート的なのまで用意してくれてありました。しかし、僕の髪にはどれも合わないような気がします。
「サイズ調整以外にも魔法を付与してあるわよ」
「他にもですか?」
「えぇ、髪の色を変える事ができるわよ」
「ほ、本当ですか!?」
隠す事に頭がいっぱいで、その発想は僕にはありませんでした。
イルミナさんの言う通り、髪の色を変更するイメージを流す。
すると、僕の髪の色が狐族に多いと言われる金色に変わりました。
「変わりました……。これなら、外に出ても大丈夫かもしれません……」
「えぇ、もし不安ならこの帽子を被っておけば耳も隠せるし、尻尾も服の効果で隠す事が出来るわよ」
なんと、隠蔽の魔法も付与されているようですね。魔法で隠すという発想も僕にはなかったので、目から鱗です。
「元々は一番下の妹に頼まれて作ったんだけどね。ここでそれが活きて良かったわ」
「妹さんの為ですか?」
「そうよ。一番下の子は情報屋をやっていてね、姿の変更とかできると便利みたいなのよ」
「影狼族って戦闘民族じゃないのですか?イルミナさんも魔法道具店やっているみたいですが?」
「違うわよ。長に認められれば、何で功績を残しても構わないのよ。戦闘を生業にする者が多いのは事実だけどね」
初めて知った影狼族がシアさんだったので戦闘民族だと思っていましたが違うようです。色んな分野で優秀な血を残す事が大事みたいですね。
「けど、本当に貰っていいのですか?」
「えぇ、私達に損はないから平気よ。さっきも言ったけど、ユアンが教えてくれた事は魔法道具の発展を促進する事だからね。本当にお礼が足りないくらいよ」
それを言ったら服の効果、である髪の色変更、隠蔽、どちらの魔法も僕にとって新しい知識、発想でしたけどね。
「だからこそ、今回はお互い様って事で」
「はい、イルミナさんがそれで良ければ、有難くいただきますね」
「えぇ、もしまた新しい発想があれば教えて欲しいわ」
「はい。では、こういうのはどうですか?」
僕が思いついた事をもう一つ伝える。
「水と風の複合魔法ね……。うん、使えそうね」
「はい、冷蔵庫の発展版になるかもしれませんね」
氷の事をイルミナさんに伝えました。
水と風魔法と組わせると雷系の魔法が生まれ、そこに水と風を混ぜると氷が生まれます。
これが氷魔法の理論となります。
普通の魔法であれば氷魔法が確立していますが、魔法道具では魔法文字でその理論を証明しなければならないので、氷を生み出すのはまだ生まれていない技術だと思います。
「氷の魔石は存在するけど、とれる場所が限られているし流通も少ないから作れるとなるとかなり高額な取引になる可能性があるわね……それに雷属性の魔石も作れる事になると」
「はい、なので色々な意味で扱いは危険なので気を付けてくださいね」
水と風の魔石を使い、雷の魔石を作り、さらにそこから氷の魔石を作る。
失敗すればお金がかかりますし、確立されていない技術の情報を求めてくる人もいますからね。
「暫くは様子を見つつかしら」
「はい、くれぐれも気を付けてくださいね」
「えぇ。貴重な技術ありがとうね」
「いえいえ、では僕たちはこの辺で宿に戻りますね」
魔法道具を作るのに夢中で気がつけば日は落ちていました。
「何かあったらいつでも来てね。歓迎するわ」
「ありがとうございます」
「それで、あなた達はどこに泊まっているのかしら、何かあったら私からも連絡をしたいのだけど」
「えっと、白金亭という宿屋です」
「また高い所に泊まっているわね……この街でも最上級の宿屋ね」
「はい、空いている宿屋がなくて仕方なくシアさんに選んでもらいました……」
「あら、私が経営している宿屋なら無料で泊まっても大丈夫よ?常に空き部屋は用意してあるから私の名前を出せば泊まれる筈よ。シアちゃんにも伝えてあったと思うんだけど」
「え?シアさん、どういう事ですか?」
「…………忘れてた」
あ、わざとですね。わかります。
「後で、お説教ですからね?」
「…………うん」
そんな哀しそうな顔をしても無駄ですからね?
「ふふっ。ユアンちゃんお手柔らかにね。多分ユアンちゃんの為を思ってシアちゃんもやった事だからね」
「そうなのですか?」
「えぇ、少し前のシアちゃんとは思えないお金の使い方だからね。正しいお金の使い方がわからない、不器用なだけなのよ」
シアさんは今もですが、お金に対して無頓着なようです。但し、それが前と今とでは正反対になったようですね。
全く使わないか、考えなしに使うか。
どちらがいいかわかりません。
「私の話はいい。それよりも遅くなる前に帰る」
「そうでした。イルミナさん、ララさんありがとうございました」
「いいえ、本当にいつでも来てね」
「まってますよぉ~」
二人に見送られ、僕たちはイルミナさんのお店を後にしました。
「ララ、忙しくなるわよ。まずは、売りに出した魔法鞄を全て回収する手配を。既に売れた物も探しなさい。全て手直しするわ」
「えぇ~無理ですよぉー」
「いいからまずは動く!」
「ひぃぇぇぇぇえ」
店の中が慌ただしくなりましたね。
僕が原因かもしれませんが、邪魔になる前に帰りましょう。
「シアさん行きましょう」
「うん」
後日、魔法鞄の技術に革新が起きたと事が広がり、そのお店を廻ってひと騒動あったみたいですが、それは別のお話です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます