第20話 補助魔法使い、シアさんとお買い物をする
「うわー……混んでますね」
「朝だから仕方ない」
僕は絡まれるのを避けるために、人が少ない時間帯を狙いギルドに行くことにしています。
なので、この込み具合を見る事はあまりありません。
僕とシアさんは列になっている最後尾に並びます。
「後で依頼でも見ていきますか?」
「この後、買い物したい」
「わかりました」
Cランクにあがり、どんな依頼があるのか気になりますが、シアさんが僕に任せず買い物をしたいと言うのでそちらを優先することに決める。
シアさんが僕に任せないくらいなので、それなりの理由がありそうですからね。
「お待たせ致しました」
「パーティー登録したいのですが、よろしいですか?」
「はい。此方の紙に希望するパーティー名と人数を記入してください」
昨日決めたパーティー名を記入し、お姉さんに渡す。
「弓月の刻……ですね。では、ギルドカードの提出をお願い致します」
「はい」
ギルドカードを受け取ったお姉さんは水晶にギルドカードを翳す。その瞬間、水晶が光り、ギルドカードが反応を示す。
「今のでパーティーの登録が完了しました。弓月の刻は本日より活動可能となりました。ランクはCランクです」
意外とすんなりと登録する事が出来ました。僕たちのランクがCランクなので、パーティーランクもCになったようです。
今の所は予定はありませんが、パーティーメンバーが増えた場合には新規加入のメンバーのランクによってパーティーランクも変わるみたいですね。
ただし、臨時パーティーの場合はそのままCランクらしいです。
「それと、パーティーリーダーはどちらになさいますか?」
「ユアンで」
僕が答える前にシアさんが答えました。しかも、僕が口を挟む隙を与えずに。
「シアさん!」
「ユアンがいい……だめ?」
「だめ……じゃないですけど、ずるいですよ!」
「ごめん。だけど、私はユアンの従者みたいなもの、ユアンの上にはたてない」
「わかっていますけどー……もぉ!」
「怒ったユアンも可愛い」
「えっと……とりあえず、パーティーリーダーはユアン様でよろしいですか? 私としてはもっと見ていたい所ですが、後の冒険者達を待たせておりますので……」
「あ、すみません。僕でお願いします」
「畏まりました。以上で、説明は終わりです。ご不明な点やリーダーの変更、パーティーの増減の際はまた報告をお願い致します」
何事もなくパーティー登録が終わり、僕たちはギルドを出ます。いえ、僕がパーティーリーダーになってしまいましたけどね。
予想はしていましたけど。
「シアさん、今度から大事な事は相談してくださいね?」
「うん」
「本当にわかってますか?」
「大丈夫。ユアンが一番」
「もぉー……」
僕は大事な事なので一応抗議しましたが、シアさんに流されてしまいます。いえ、本心みたいなので逆に質が悪いです!
そんな会話をしつつ、街の中を歩いていると、突然シアさんが一軒のお店の前で立ち止まりました。
「ユアン、ここ」
「ここ? 服屋さんですか?」
「そう。入る」
シアさんが中に入っていくので、僕もついていきます。
「わぁ、服が沢山ありますね」
「うん。服は需要あるから、どこでも売ってる」
初めて入る服屋さんは沢山の品が綺麗に並べられています。子供から大人まで、しかも獣人ように尻尾穴のついた服まで売っていますね。
「いらっしゃいませ」
服を見ていると、お洒落なお姉さんが近寄ってきました。
真っ黒なローブを身に纏った僕とは違い、髪飾り、服、スカート、靴まで様々な色を組み合わせて着こなし、とてもお洒落に見えます。
「部屋着と下着を買いに来た」
「部屋着と下着ですね」
「そう。ユアン……この子の。可愛いのがいい」
「えっ! 僕のですか!?」
「そう。替えは必要」
どうやら、僕の服と下着を買いに来たようです。僕は今のままでも大丈夫ですけど……。
「こちらのお客様ですね。失礼ですが、サイズを測りたいのでローブを脱いで頂けますか?」
「え……それは、ちょっと」
不味い事になりました!
ローブの下はいつも通り下着です。更に僕は黒髪の獣人……おばあさんは違うと言ってくれましたが、忌み子として扱われる可能性があります!
「では、このまま測らして頂きますがよろしいですか? その場合、サイズが少し曖昧になってしまいますが……」
「大丈夫です!」
どうやら、何とかなったようです。
しかし、改めて僕の見た目は困ります。こういった時でも問題が発生しますので。
「はい、結構です。お疲れ様でした」
「あ、ありがとうございます」
サイズを測るのは問題なく終わりました。
胸周りのサイズを測ると言われたときは緊張しましたけどね。……サイズがないと言われたらショックですから。
「お客様に合いそうな品はこちらですね」
「下着……だけでも種類が多いですね」
お姉さんが紹介してくれた下着は色々とありました。形もそうですが、色も豊富で何を選んでいいかわかりません。
だって、一つの棚全てが下着ですから。
「お勧め……ありますか?」
「お勧めですか? そうですね、可愛らしいのが良ければこれ何か如何でしょうか?」
お姉さんが見せてくれたのはフリフリのついたピンク色の下着でした。しかも、上と下お揃いの奴です。それに、僕のサイズもあるみたいですね。一番小さいサイズと言っていましたけど……泣きたいです。
けど、確かに可愛いです。しかし、僕には似合わないと思います。しかも、大事な尻尾穴がないので無理です。
「それの穴があるのは?」
「穴……あぁ、尾穴ですね」
「そう」
「ユアンとほぼ同じくらいの妹がいる。買っていきたい」
「確か、同じような品があったと思います。少々お待ちくださいませ」
どうやら、妹を口実に買うようですね。しかし、もしかしてこれはまずいのではないでしょうか? 僕は嫌な予感がします。
「お待たせ致しました。少々デザインは違いますが、如何でしょうか?」
「うん、それを貰う」
僕には違いがわかりませんが、同じようなフリフリのついた下着をシアさんが手に取ります。しかも上下3セットです。
「シアさん!」
「何?」
「そんなにいりませんよ!」
「妹用」
完全にやられてしまいました。
僕は獣人とバレてはいけません。なので、それが僕用とわかっていても、妹用と言われてしまえば口出しは出来ません!
「お客様はお気に召すものはありましたか?」
「ふぇ? あ、えっと、僕は……」
「もしよければこちらは如何でしょうか?」
お姉さんが用意してくれたのは極端に小さな下着でした。小さいと言ってもサイズが小さいだけで布の面積はしっかりとあり、尻尾穴の下で履くような奴です。
「こちらは、獣人……の方が尾穴を気にせずに履けるように作られた下着でございます。今では獣人以外の方にも人気があり、タンザの街で流行っている物ですが、如何でしょうか?」
獣人と言われドキッとしましたが、どうやらバレていないようです。安心しました。
尻尾穴を気にせずに履けるのは他にはなさそうです。自分で穴を開ければいいのですが、失敗すると買った下着がダメになりそうなので僕はそれを1着だけお願いしました。
「では、こちらをご用意しますね。後は、部屋着と仰いましたが、ご希望はございますか?」
また、尻尾穴で困ったことになりそうです。僕は着られればそれだけで十分なのですが、それすらも答える事ができないです。
「そういえば、最近入荷した新作がありますが、そちらは如何でしょうか?」
「新作ですか?」
「はい、
「き、金貨3枚!?」
僕は眩暈がしそうでした。だって、翠の憩に約6泊もできる値段ですよ!
値段の高さに言葉を失ってしまいました。
「買う。2着お願い」
「畏まりました。色はどうなさいますか?」
「部屋着だから黒と白があればそれでいい」
「はい、ご用意致しますね」
シアさんは即決でした。
お姉さんは注文した品を抱え、店の奥へと消えていきました。
僕は、流石に黙っていられずシアさんに詰め寄ります。
「シアさん!!!」
「妹用」
完全にシアさんの手のひらの上で踊らされている気分です。
それに、もしかしたら、シアさんに妹が居るので、本当に妹用なのかもしれませんよね……?
流石に僕にそこまで使う訳にはいかないですから。パーティー資金は元々はシアさんが稼いだお金がほとんどですし。
シアさんとそんなやりとりをしていると、お姉さんは綺麗な包みを持って戻ってきました。結構な大きさになっていますね……。
「お待たせいたしました。本日の代金は金貨10枚になります」
値段を聞いた瞬間、膝から崩れ落ちそうになりました。
えっと、魔法道具の服が2着と……下着が合計4着?
下着1着が金貨1枚!? パンツだけでも銀貨5枚。
「た、高い……」
「下着は全て手作り。これが、普通」
シアさんはポーチから袋を取り出しました。そういえば、あのポーチからパーティー資金となった大量のお金も取り出していたので、ポーチは魔法鞄の一種みたいですね。
っと、問題はそこではなく、代金は僕が購入した物も含まれています。
「シアさん、僕のも含まれていますので僕も支払いますよ!」
「大丈夫。ついで」
僕の抗議も虚しく、シアさんは僕がお金を取り出す前に支払いを済ませてしまいました。
というか、シアさんまだそんなに沢山お金を持っていたのですね……。
「確かに頂きました。そういえば、お客様は部屋着を購入していませんでしたよね?」
「あ、はい……」
部屋着を購入したのはシアさんなので、僕は買っていない。お姉さんはその事に気付いたようです。
「よろしければ、沢山買い物をして下さったので、どれでもお好きな品をサービスで提供させて頂きますので、お選びください。勿論、魔法道具の服でも結構ですよ」
「え、いいのですか?」
「はい、サービスですので、どれでも1着お選びください。そちらのお客様もよろしければ、あちらの中からお選びください。
僕は悩みましたが、尻尾穴の事があるので簡単には選べません。
けど、店に入った時から気になっている服が一つだけありました。
そこで、目線が止まるとお姉さんが小声で話しかけてきます。
「そちらも魔法道具の服ですので、誰でも着れますよ。勿論、そちらのお姉さんでも。折角なのでプレゼントしてみたら如何ですか?」
僕が気になっていたのは、黒をメインに赤色が映える特徴の服でした。
少し短めの黒のYシャツ、短めの赤いスカート、その上に羽織る黒いコート。
Yシャツには胸からY字に赤いラインがあり、スカートは薄っすらと黒のラインがチェック模様となっていて、先にはひし形の水晶みたいなものが一周ついており、コートは左腕に赤いラインが巻き付けられるように入っています。
シアさんが着たらかっこいいなと思ってしまいました。
ですが、サービスとはいえ限度はあるはずです。
「あれは、本来幾らするものですか?」
「サービス品でしたら無料ですよ?」
「でも……」
「あちらで、よろしいですか?」
僕が渋っていても、お姉さんは強引に進めてきます。勧めてではなくて、話を進めてです。
「はい……すみません。お願いします」
何度か断りを入れましたが、僕は押し切られてしまいました。
「では、もう少しお時間頂きますね」
お姉さんが再度店の奥に消えていきます。
「ユアン、決まった?」
「あ、はい。一応……シアさんは?」
「うん、折角だからユアンの部屋着にした。水色もきっと可愛い」
また、僕のを選んだようです!
まぁ、僕も人の事は言えませんけどね。
「お待たせいたしました。本日はご利用ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ……すみません」
「いえいえ、折角あの黒天狐様にご来店頂きましたから、これくらいはさせて頂きます」
「えぇ!? 気づいていたのですか!?」
「ローブの上からでも測れば尾の事は気づきますからね」
お姉さんは可笑しそうに笑いました。
どうやら、シアさんとお姉さんの思惑が一致していて、一芝居打たれ、僕は騙されていたようです。
お姉さんは買って貰いたい。
シアさんは僕の服を買いたい。
まんまとしてやられたようです!
それでも、お店的には赤字なのではないでしょうか?サービスで選んだ服はとても高そうだったので。
「私もこの村の一人です。黒天狐様の事を聞き、育ちました。なので、せめてものお礼とさせてください。ただし、サービスは今回限りですけどね」
「わかりました……ありがとうございます」
「では、機会がございましたら、またご利用くださいませ」
お姉さんにお礼を告げ、僕たちは店を出ました。
正直、僕の存在が黒天狐であるかはわかりません。騙しているようで、罪悪感が込み上げます。
「気にする必要はない」
「ですけど……」
「ユアンは村を救った事には間違いない」
「村を、ですか?」
「うん。オークの群れ倒してる。ユアンが居なかったら、村がどうなっていたかわからない」
「その時は、他の冒険者が頑張ったかもしれませんよ」
「そうかもしれない。だけど、ユアンが居たお陰で未然に防げたのも事実」
そう言われると、少し気分が軽くなった気がします。
「それに、ユアンは明るい方が私も嬉しい」
「そうですね、前向きに考えましょう!」
オークの群れを倒したのは、シアさんのお陰でもありますけどね。
それでも、一緒に倒したのは事実ではあります。
だって、今ではパーティーですからね!
予定していたパーティー登録と買い物を済ませ僕たちは宿に戻る事にしました。
お昼は、屋台などがあったので串肉を買ったり、スープを買ったりして食べましたが外で食べる食事もやはりいいものですね。
その時も、シアさんが勝手に支払っていましたが、シアさん幾ら持っているのでしょう……。後で、パーティー資金から渡さないといけませんね。
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