LLL...
あおい みなと。
#1
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「あなたには幸せになってもらいたい」
なんて、無責任な言葉。
きっと、お互いが似て異なるもの。
まるで居場所を探すかのように、異性の自身でも見つけてしまったかのように過ごし振る舞う。
そんな日のこと。
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綺麗なものに恋い焦がれる。
それはいつしか自身が失ったものに対する羨望で、もう決して元には戻れない事実の再確認。本来、誰にしも存在したであろうチャンスを手にすることが出来るのは、やはりたった一握りの人だけで。では、それを叶えることが出来なかった者達は一体何を思って日々を過ごしていけばいいのだろう。
代替え品でも探して、そこで満足すればいいのだろうか。
「世間一般からすればさ、おかしいってことは分かってるんだよねぇ」
妙に間延びする声が言う。普段とは少しだけ違った雰囲気に思わず息を飲んだ。
「おかしい、変、壊れてる、イカれてる。別にさ、なんて言われようともう気にしてないんだけど」
それでも、と、彼女は続ける。
「煩い。本当に煩い。いいよ、分かってるよ。そんなの自分が一番分かってる。だから、黙れって。あんたはあんた、私は私。それでいいじゃんって。求めてもないのに良い子アドバイス。ムカつく」
冷たい言葉だと思った。ヤケに情のこもった言葉だとも思った。それだけで彼女が思う世間というものの一端が見え隠れする。勝手に想像できてしまう。
何故かって。その言葉がまるで自分から出てきたものであるかのように分かってしまうからだ。
生い立ちも違う。性別も、置かれている状況さえも。だが、それでも分かる気がする。あくまでも表面上のことだけだが。
「だよねぇ」
自身の口から出てきたあまりにも空虚な返事に思わず鼻で笑ってしまった。気に障ったのか、それとも別の何かが気になったのだろうか。隣で同じ夜景を眺めていた彼女の視線がこちらへ向いた。
「ほんとに?」
「何が?」
「ほんとに分かってくれる?」
「いんや、どうだろう」
「何それ。相変わらずテキトーだなぁ」
「でしょ?」
「うざっ」
肩を小突かれる。勿論、力などこもっていない。可愛いものだ。
「「………」」
2人分の沈黙が重なる。言いたいことを吐き出せたのか、それとも俺から欲しい言葉が返ってこなかったのか。そう考えるとまた別の何かを口にした方がいい気もするが、残念ながら気の効いた言葉など思いつきやしない。
遠くに臨む時計台は既に午前4時の時刻を示していた。頬を撫でる夜風の冷たさに思わず身震いする。春も近いとはいえまだ3月中旬。ビルの夜景を目線と同じ高さで楽しめる階数ともなれば、吹き抜ける風は更に勢いを増す。
「寒い?」
「いや」
「嘘。今震えてたじゃん」
「バレたか」
「そろそろ行く?」
「そうねー、お酒もなくなったし」
「うん」
伏し目がちな彼女を見て、何かが大きく鼓動した。
「…。はい」
思わず、差し出した手。
「え?」
勿論、その突拍子もない行動に彼女は疑問の念を向けてくる。
「はい」
それでもこちらも引くわけにはいかない。説明など不要だ。ただ、右手を彼女に向ける。
「なにそれー(笑)」
「嫌ならええよー」
「ふっ。しょうがないなぁ」
鼻で笑った後にしっかりと彼女の左手が応えてくれた。夜風で震えていたのはどうやら自分だけではないらしい。その冷えた手を包むように力を入れる。
「あったか」
「それだけが取り柄なもので」
「取り柄、手汗レベルの体温」
「離すぞ」
「ごめんって」
地味な煽りも別に気にすることはない。ただ、しっかりと重ねた手を握り、夜景を背にして室内へと向かう。
が、
────プー!!プップー!!!
背を向けたばかりの階下から突如として車のクラクションが鳴った。それを追うように何人かの男性の怒号まで続く。
「あーあ、せっかく少しいい雰囲気だったのに」
「ねー。治安( )ってなる」
「ま、花金ですし」
「もう土曜だけどな」
「花金の延長上なのでギリセーフ」
「確かに」
「うん」
「あ、ワイン飲みたい」
「へいへい」
「ちゃんと聞いてー?」
「芋ロックいっちょー」
「これが日本の義務教育の成果。合掌」
「いいから早くしてくんない?」
「冷たいねー。優しくしといて損はないと思うんですが」
「それなりの扱いをしてから言おうね」
「草」
「はいはい」
夜が更けていく────。
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