恋の狩人

暗黒騎士ハイダークネス

第1話


 あぁ!!もうどうしてこうなったんだよ!!


「・・・ふ、フクロウ可愛いね、武藤君」

「そ、そうだね・・・」


 そこには初々しい中学生の男女2人がフクロウカフェにいた。




 ある日の放課後のこと


「和馬、俺の姉貴がさ、なんか・・・フクロウカフェってところの無料のジュースチケット4枚くれたんだよ」

「フクロウカフェ・・・?そんなのここらへんにあったか?」

「最近できたんだって、姉貴の友達がそこの店主でさ、そこから家族とか友達誘って来てねっていう感じでもらったんだけど、姉貴が行く予定のその日に急な仕事が入って俺にくれたんだよ」

「へ・・・へぇ、そりゃ残念なことで」


 話を聞きながら、片手でスマホをいじって、この近くにあるフクロウカフェで検索をかけてみた。

『フクロウの宿り木』という店舗がスマホに表示された。

 まだ開店してから、新しいらしくレビューなんてのはあまりなかったんだけど、雰囲気が良くて、今書かれているレビューなんかはみんな高評価ばかりで・・・それで下の方に少し気になるレビューが書かれていた。

 そんなことをしていたら、まだ教室に残っていた2人の女子がこちらにやってきた。

 ズズズと1人の袖をつかんで、少し色が茶色よりの黒髪をしたポニーテールの女の子が俺達の話が聞こえていたのかやってきた。


「あ、やっぱり!あたしもそれ気になってたの!春も行きたいって言ってたでしょ?」

「え、ちょっと・・・ちかちゃん!?そんなの2人に悪いよ」


 ポニーテールの子、相田さんが真人の手にしているチケットを指さしながら、話に入ってきた。

 少し顔を赤らめながら、こちらに引きずられてやってくる黒髪セミロングの高梨さんが相田さんの袖を引っ張って、とめにかかる。

 だが、そんな少しの抵抗で止まらなかった相田さんが話を続けた。


「ここに4枚あるんだしいいでしょ?それとも誰か他の子誘うの?まさか!?男4人とかで行く気!?あんたら2人で行く気なの!?」

「いや、待て待て、男4人とか、それはない!それに誘う相手もないけどさ・・・」


 そうこっちに迫ってくる相田さんから、少し後退しつつ、両手を前の方へとやりながら、これ以上迫らないようにとガードする真人。


「じゃあ、いいでしょ!?こんな美少女のあたしと春が一緒に行ってあげるのよ?ね?あんたらに得しかないでしょ?」


 凄いぐいぐい来るな・・・相田さん。

 迫られていない俺からしてみれば、その慌てる親友の姿を気楽に眺めている。

 それに・・・来てくれたら、嬉しいかな。


「和馬・・・渡していいか?お前に2枚ぐらいやるつもりだったんだが・・・」

「へ?あぁ、うん、いいよ」


 こっちに聞いてくるとは思わずに、ちょっと変な声が出てしまった。ちょっと顔赤くなってないかな?あぁ!恥ずかしい。


「ほれ、チケット」

「やった!」

「あ、ありがとう、上田君、武藤君」

「じゃあ、ん~土曜日の14時から商店街の時計台集合ね?」


 え?一緒に?・・・一緒に行けるとは思っていなかったから、突然のことで驚いて言葉が出なかったが、真人が俺と同じ疑問を相田さんに聞いてくれた。


「へ?一緒に行くのか?」

「もらったんだから、当り前でしょ?なに?あたしら2人と一緒に行けてうれしいでしょ?」


 その笑顔には否定をしたら、ぶん殴るとでもいうのだろうか、そのぐらいの凄みを感じて、俺達2人は首を縦に振るのであった。




 そして、時は今現在へと戻るのだが・・・


 今カフェの席に座っているのは俺と高梨さんだけだ。

 つまり2人にすっぽかされた・・・いや、相田さんの方は本当に風邪で休むってことなのかもしれないけど・・・真人は全然元気そうに連絡がちょくちょく来る。

 高梨さんと一緒にフクロウカフェって浮かれていた気持ちがあった。

 でもさ、だけどさ!2人っきりとか想定してないわけじゃん!?いきなり心の準備もなく、あいつ!『今日行けなくなったわ、がんばれ』とかなんなんだよ!!!俺に女子2人の相手をしろっていうのか!?1人は好きな子ってお前に俺話したことあったよな!?

 そこから待ち合わせ場所に行くと・・・もうね!可愛いのすごくかわいい少し花柄がアクセントになっているワンピースを着た天使がいたんだ。

 そこから俺を見つけて、いきなり真人がこれなくなって伝える俺に、少し赤い顔で残念そうな表情をしながら、相田さんも風邪になってこれなくなったことを伝えてきたんだ。・・・もうその話よりも目の前の天使に心を射抜かれて、話が右から入って左に通り抜けてくる感覚だったけどね、その時は。

 それでせっかく来たんだから、2人でフクロウカフェに行ったんだけど・・・全然話が続かない。

 どんどんと冷静になってくると、高梨さんと何を話していいのか分からない。いつも真人と話すようなくだらないことを話してもいいのかなんて思っちまって、それで嫌われてしまったりすると立ち直れない。どんどんと悪い考えばかりだけが頭の中に膨らんでくる。


「武藤君?武藤君??大丈夫?」


 そこには少しうなだれている俺の顔を覗き込んでいる高梨さんの顔があった。


「へ!?あ、うん、大丈夫大丈夫」


 突然目の前に高梨さんの顔があったから、大慌てで高梨さんの顔を見て、そして、気づいたんだ。

 高梨さんが少し浮かない表情をしていたことに。


「やっぱり、私と2人だと楽しくないよね・・・」

「へ?そ、そんなことないよ」

「嘘・・・だって、さっきから暗い表情ばかりしているし」

「あ・・・うん、、、」


 あぁ!!もう俺何してんだよ!高梨さんを悲しませて・・・もう本音をぶっちゃけよう。


「ご、ごめん!俺、さっきまで4人で来るつもりでさ、それが2人っきりになって、それに高梨さんが凄くかわいくてさ、何話していいかわかんなくなって・・・なんか暗い顔していたみたいで本当にごめん!」

「ふぇ!?!」


 あぁ!!俺何言ってんだよ!!!うぉぉぉぉ・・・恥ずかしい!今なら顔から火が噴きだせるような気がする。


 同様に対面に座る高梨さんも顔真っ赤になっていた。

 そして、2人が赤くなった顔を見つめあっていると、どちらからともなく笑いあった。


「「ふふっ」」


 笑いあった後に、高梨は立ち上がって、こっちの手を取って、こう言った。


「せっかく来たんだから、来れなかった2人の分まで楽しも?ね?武藤君、一緒にいこ?」

「あぁ、うん」


 そして、高梨さんに手を引かれるまま、カフェの隅っこの方にあるフクロウとのふれあい場に来ていた。


「か、かわいい!」


 高梨さんがそう言って、フクロウのすぐ近くまで移動していた。


「ねぇ!ねぇ!?武藤君、餌やりができるんだって!一緒にやろ?」


 あぁ・・・もう可愛い。凄くかわいい。フクロウより高梨さんの方が数十倍可愛い。

 そんなことを内心で思いながら、店員さんの手を借りつつ、爪で傷つかないように専用の道具を使いながら、腕や肩にフクロウをのせたりしている高梨さんが可愛かった。

 俺の方も高梨さんに言われるがまま乗せてみたんだけど、高梨さんより少し大きいフクロウの種類だったようで、ちょっと重かった。

 餌やりでは、ピンセットで肉をとりつつ、嘴の前へとあげるのだが・・・大きな瞳を閉じて、餌を食べるフクロウは本当に可愛かった。


 そうしているうちに、一羽のフクロウがお礼か何かを持って、近くの宿り木に止まったんだけど、フクロウが持ってきたのは動かないネズミだったんだ。


「きゃぁ!」


 いきなりのことで躓いた高梨さんを咄嗟に俺は抱き寄せた。


「だ、大丈夫?」

「あ、ありがとう」


 手に伝わるやわらかい女の子の体の感覚と、抱き寄せているときに高梨さんのいい匂いがめっちゃして、それに高梨さんの顔がめっちゃ近くにあって・・・俺はこの時、凄く動揺してこんなことを口走ってしまった。


「さっきみたいなことがあっても、俺が高梨を守るから」

「え?う、うん」


 照れた表情で高梨さんはそれに頷いてくれた。


「ちょっと!フウ!何持ってきてるの!?」


 数秒の間2人は赤い顔のまま見つめあっていたけど・・・


 店員さんが来たことで、俺達2人は見つめあうのをやめた。

 店員さんとフクロウのそういうやりとりがあったあとに、店員さんがお詫びに美味しいケーキを御馳走してくて、この日の2人の・・・デートなのかな?初めてのフクロウカフェは終わった。




 それから・・・時は流れて、俺は大学を卒業してから、高梨さんと結婚しました。


 あの出来事がきっかけで友達になって・・・それからちょっと時間がかかって、恋人になった。

 夫婦になった俺達2人はあの出来事の後もたびたび2人や4人でフクロウカフェに行って、どっぷりと俺達2人ともフクロウの魅力に取りつかれていて、2人暮らしに少し落ち着いた頃に、部屋でフクロウに飼うことになったんだけど・・・あのフクロウカフェの人たちにいろいろとおすすめや注意点を聞いて、餌のことなんかもすごく大変で・・・血抜きのしていない生肉とか初めは捌くの結構抵抗があった。

 でも、首を傾げる姿や、こっちを見つめてくる瞳!もう凄くかわいい!

 もちろん、春が一番だけど!

 こんなふうに幸せに生活していると、あの時のレビューをふと思い出した。


『フクロウが愛を届けてくれました』


 それは俺の思っていた愛とは違ったけど・・・確かにそのレビューどおりにフクロウは俺に彼女と仲良くなるきっかけをくれたんだと思います。

 そんなフクロウは俺達2人にとっては、恋の狩人キューピットです。

 



 ・・・でも、たまに覚悟完了していない時に愛じゃない本物の狩人になって、目の前の机に置かれるネズミの死体を持ってくるのだけは、いまだにやめてほしいと思っています。

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