シナリオ The rest of lives of red eyes
タナカ
0night
19XX年 12月21日 23時00分 AIPV研究所
「L棟より、05mθ逃走した模様。いずれも反応無し。総員直ちに捕縛せよ。繰り返す…」
地は混濁した水で溢れている。
空からの滝雨。轟く雷鳴。その自然音を打ち消すがごとく、灰色のコンクリート建物中に響き渡る放送音。共に、島中に耳を劈くほどの警報が鳴る。その警報が表す意味は、棟からの被検体の逃走。
各棟より、一斉に動き出した研究員が銃を構える。豪雨が続く中での急な異変。目に見えない得体の知れない恐ろしさに意味も分からず、泣き叫ぶ被検体の子供たちの喚き声は、鋭い爆発音で掻き消される。予想もしない爆破に気を取られる研究員。
轟音が次々と発生する中、恐怖に耐えられずに一人の少女が建物から走り出す。その瞬間、先程まで少女いた場所から銃声が聞こえた。驚き、少女が振り返ると、炎が建物を、兄弟姉妹を、銃を撃った研究員をも飲み込み、そのまま彼女に向かって襲いかかってきた。
少女の悲鳴は発せられることは、無かった。
「K棟より爆破、火災発生。K棟より爆破、火災発生。K棟研究員、K棟被検体の安全確保と消火活動を迅速に行え!」
「M棟研究員、島北部、本土と繋がる橋を封鎖せよ。被検体の十数人の位置情報が反応しない!多少の怪我は大目に見る!決して、島内から被検体を逃がすな!」
そんな轟音の起こる地から離れ、冠水した島東海岸に4つの影が揺らめく。
「いや、やること為すこと全部放送したら俺たちにバレバレだっての。アホかよ。」
豪雨と濁流の中、水圧で傾く大木に座り、呆れた顔でやれやれと首を振る青髪の少年。
「まあ、シグマの言う通りここまでとは思ってなかったよ。さすがに何人かとはエンカウントするかと考えてたけど…結果オーライだね。ちょっと、おバカさんだったんだよ。」
それを窘める白髪の少年に対し、何のフォローでも無いぞゼータ、とは笑う青髪の少年シグマ。その様子を気にも止めず、炎の立ち上る棟のある方を眺める二人の少年。
「おっ、上手く爆発したみたい。研究員達がここに来るのはまだまだかな?そりゃあそっか〜最西部の研究所から、なんとびっくり、氾濫した川の勢いで最東部まで来るなんて思わないか〜。俺達は海流の流れに沿って早く行こう、フロンティアに!ね、リーダー。」
ギリギリ根元が繋がっている大木の上で、爆風で気絶した研究員から奪った銃と短刀を振り回しながら、意味ありげな笑みで、嬉々として言う灰髪の少年に
「そうだな。この過去に例を見ない最大級の自然災害の中、K棟の兄弟姉妹を犠牲にしてまで俺達が逃げるというのは、あいつらは考えつかなかったのだろうな。ただなファイ、ナイフを雑に扱うな。危ない。」
冷静な答えを返すデルタと呼ばれた紫髪の少年。ナイフを振り回す灰髪のファイの頭をはたく。
先程爆破で、血は繋がってはいないが家族とも言える義兄弟姉妹を犠牲にしたとは思えないほどの澄ました顔で、淡々と。
「ねぇ、デルタ。本当に追っ手来ないね。」
逆に不安だよ、と笑うゼータ。
「選択肢は2つ。天才と呼ばれるが忠誠心の欠けらも無い俺たちたった4人か、これからの優秀者になるかもしれないK棟を筆頭とした他棟の50は超える子供と莫大な金を払って作り上げた施設の損傷を少しでも和らげるか、だったら選ぶ方は決まってるだろう?見事に俺のシナリオ通り、踊ってくれたわけだ。」
こんなに上手くいくとはな、幸先が良い。と言うデルタ。一息ついて大木の折れかけた根元の部分へ向かう。
「それよりもこの大木…シグマ、いつこれを伐採したんだ?」
最西部からここまでは木製ボートで来た。しかし、過去最大級とも言えるこの自然災害においてそんなものは塵同然。最東部に来るまで持ち堪えたことを喜ぶべきだ。元のシナリオより大木を使って、濁流のまま別の無人島へと移動しようと考えていたが、まさかこんなににも早く準備ができるとは、デルタは予想していなかった。
「ああ、これ元から水圧で傾いてた。デルタたちが奥の木上で木の実取ってる間にこれ見つけたんだ。で、小爆発を起こさせたんだ。俺にしては珍しく加減が上手くいった。完全伐採ではないが倒れたからな。あともう1回爆発させたら、完全に分離するぜ。」
シグマにしては珍しく、褒めてくれ、と言わんばかりの満足顔。テルミットの比率と量を間違えれば大変だからだろう。
「さすがシグマだ。この大きさならば、20(キロ)は行けるな。本島に間違えて辿り着かないようにするのが最後の壁だ。」
幹に乗って海流のまま航海する。響きだけならただの遭難者である。
「それは〜、なんとかなるんじゃないのかな。海は荒れてるけど、海流的には天変地異が5回くらい起こらない限り大丈夫だよ。」
ふわっと笑うゼータ。
「それだな、ここで失敗すればこれまでの努力と、アイツらの犠牲も、俺達のこれからの計画も全て水の泡という訳だ。俺の完璧なシナリオに失敗なんて結果は訪れないがな。」
「キャー!リーダーイケメンっ!」
揚げ足をとるファイ。
はしゃぐな。と、言いファイの頭をはたくデルタ。
いたっ!何でさ褒めたのに!と、喚くファイと、それを見て、間抜けだな、と呟くシグマ。その中、
「ねぇデルタ。シナリオには無いけど、最後にみんなで遊ぼうよ。」
「…なんだ?」
素っ頓狂なことを言うゼータ。あまりにも突然の発言に驚くデルタ。
「いや〜あそこの監視カメラにピースしようかなって思ったんだけど。ダメ?」
「ゼータ、なかなかぶっ飛んだことを言うなお前も。そんな緑のヤツは1人で十分だ。」
シグマがなんとも言えない顔をしてファイを見る。そんなやつはファイだけで十分だと言わんばかりに。
「あ、こら!俺を見るなよ!でゼータ、あの人今どこ見てる?」
シグマの目線に慌てて、ゼータの方へと渡り、その手の中にある端末を覗くファイ。
二人同時に向き合い、互いの髪の緑が一瞬交わる。
「えーっと、これは最北部。あと少しで最東部のここを映すけど、長と話してるから…ちょうど目を離しているすきにパって映っちゃお!」
タブレット端末を操作しハッキングした映像を眺めるゼータ。画面に映るのは、自分たちを探している過去最高超成績優秀者1人と、隣でイライラとしている白衣の男性(長)。
「まあ、いいぞ次の爆破まで10分あるからな。」
いい暇つぶしで、静かな宣戦布告だ。楽しそうだな。と言うデルタ。素早く飛び移ってカメラ近くへと行く。
「ポーズはなんだ?」
「そっりゃあ!ピースでしょ!」
「ガキかよ」
「俺もそうするか」
「じゃあ、僕もそうしようか。」
「…マジかよ、ならやる。」
隙を見てカメラにピースする。大木に戻って、誰にも見られることの無いそれの映像を静かにゼータは保存して、相手の端末から消す。見返された時にバレたら元も子もない。いい記念写真だね、とゼータは笑う。
「あと、20秒後に次の爆破が起こる。それと同時に小爆発を起こす。いいな?しっかり捕まっておけよ。」
そう言って大木の根元の方へ向かうデルタ。テルミット爆破の準備は整った。
「よし、ようやく始まるな」
デルタが宣言をし、爆発が起き、大木が水の流れで動き始める。しかし、後ろにいる三人とも顔を笑いをこらえる為に歪ませている。約1名破顔しているが。
紫の髪には海藻がべったりとくっついていた。
AIPV研究所 本部施設
「あの4人はどこに行った!どの研究員からも発見報告すらないとは、どういうことだ!?この自然災害、K棟の爆発といい、まさか…」
自殺…?鉄製の机の周りを歩きながら、焦りと怒りを露わにする白衣を着た男性。その隣でパソコンを操作し、島内の監視カメラの情報を分析しているスーツの青年は、手を止め、ただ一言
「05mθの4人が自殺するという決断を下すとは考えられないと思いますが。まあ、施設への報復をすぐにするというわけではないようなので、まだ良いとお考えになってはどうです?」
と、顔を上げて言い放ち、再び作業に取り掛かる。
「…なんで、1つも情報がないんだ。お前が全監視カメラを使って探しているんだぞ!?」
「はぁ。05mθの4人なら可能でしょう。この施設で最高成功例,θデルタが率いているんですよ?この日のために学力、実技の試験で手を抜いていた、とも考えられますね。トップを走りながらも、手を抜く。彼らなら可能です。5年間、育ててきて分かることはそれくらいですよ。しかし、残念ながら、彼らが何をしたいのかがさっぱり検討つきませんが。そもそも、そんな彼らに僕一人で勝てるなんて思ってませんよ。それに、言い方は悪いですが、彼らはまた作れます。今回は私達の負けです。」
正論に返す言葉のない男性は、黙って椅子に座り、
一言つぶやく。
「この国のための貴重な道具を…あそこまでの成功例は稀だからな…。このまま、この施設で国復活のための配下で動く工作員として育てば、何不自由なく暮らせるというのに…。アイツらの目的はなんだ?」
白衣の男が机を叩く。パソコンを操作するスーツの男はそれを無視して捜索を始める。
顔を上げていた、たった十数秒の瞬間に、赤眼の4人がカメラ目線の笑顔のピースサインで映り、消されていたとは知らずに。
ー
12月22日 1時03分 施設東 無人島
夜。闇の中に差す月光をもすら閉ざす生い茂る木々の葉々。風で揺れ、葉の擦れる音と素肌で感じる空気の温もりを感じ、俺は自由を改めて実感する。
大木の進むまま、海を揺られていると、いくらかの無人島を見つけた。ただ、施設から近いという理由と、そもそも強い波で止まりたくても止まれない状態だった。で、小一二時間揺られた結果、波が落ち着きはじめたのがこの近辺だった。どうやらだいぶん南東部に来たようで、曇天ではあるが雨は止み、来た方角から雷鳴が聞こえるのみだ。
砂浜に乗り上げ、久々に地面に足をつけた時、服も靴も何もかもが水浸しで、感覚が気持ち悪かった。早く乾かすか。
「すごいね。ここだけ開けてる。あ、奥に家が3軒もあるよ。人は、居住していないはず…だよね?すごい、保全されてるままだよ。」
ゼータの指差す先にある古びた民家。
木製の民家二件と、レンガ製の民家が一件。
その奥に広がる高く聳え立つ雑草。
なんともアンバランスな組み合わせだ。
施設のあった島はまだ過ごしやすい気候だった、それで今は亜熱帯に近い。本島のある方は乾燥帯と温暖湿潤気候。ここよりかなり北東だな。
「そうだな、無人になって50年近いらしいが、よく形は保たれているようだ。使えるな。」
有難く、これから住まわせてもらおう。そう言って俺は木製の民家へ入った。
続いてシグマも民家へ入って来た。シグマは思いの他早く住居を手に入れたことに少し驚いているようで、居間らしき所にある古びた椅子に座り、微妙な顔をしている。確かに、住居は自然性の洞窟にでもするかと話していたからな。
ゼータが、転がっていた蝋燭に火を灯し、ファイがそれらを空間が最も広く明るくなる場所は置き、シグマの隣の椅子に座ろうとして、バギッと音がなる。…手作りの木製の椅子に座るとは。
「さては、お前、アホだな。」
「やかましくてよ!…痛ぁ。」
ビシッとシグマを指さしながら背中をさするファイ。綺麗な後転をしていたな。
「多分それ掃除するの僕だよね。ファイ、怪我はない?隣くる?」
「心配してくれるのはゼータだけかよ!俺は、マイダーリンにしがみついておく。」
何事も無かったようにシグマにくっつくファイ。いつも通りだな。
「…うるせぇファイ。住処は俺が作るものだと思ってたが。あとは、周りが海だから、水、魚は捕獲可能として、問題はその他の食料がねぇことか。」
シグマが課題を提示する。いつまでも茶番は頂けないな。そう、俺達は施設から持って出たのは、直前に奪い取った武器等とこの身だけ。全てはここから探す必要がある。
ふむ、それにしても、見た目は背の高さもあいまってかなりイケメンの部類に入るが、住処を作れないことで少し残念がっているシグマは少し可愛いらしい。
確かに、ここは海から見ればただの無人島だ。まさか、一部開拓され、家まであるとは。
「植生なら任せて、二時間で調べてあげる!」
ひょっこりと自分の後ろから顔を出すファイをシグマは左ストレートをキメる。うむ、今日もキレキレだ。
「そうだな、それはファイに任せるとして、ここに新しい武器は一切ないな。一から、いや、0からの製作になるな。」
弧を描くように倒れるファイに見向きもせず、最大の問題点を言う。仕事があることが嬉しいんだな。島内を見回らないと分からないが、資源はここにはない。
「ねぇ、デルタ。追加で薬草とちょっとした道具は僕達に任せてくれないかな。早めの実験は大事だし、なんてったって僕とファイのお得意家業だからね。あ、もちろん戦闘用の武器はシグマにお願いするよ。」
ファイを少し見て、微笑みながら言うゼータ。
「植生と同時進行で出来るよ!早速腕がなるね。どんな毒薬開発しようかな!何がいい?シグマ!」
むっくりと起き上がり、はしゃぐ灰色に青の右ストレートがきまる。愛情表現が強いな。
「先端麻痺」
ちゃんと注文もつけて。
「はーい。」
痛い。それより食料…俺、肉ないと生きていけない…。そう言って仰向けのまま呟くファイ。確かにファイはゼータから肉を毎回譲ってもらうほど肉を好んでいたな。研究所では、衣食住は完璧に提供されていた。
研究所で行っていたのは学力、暗殺力の向上。所謂人間兵器の育成。工作員の仕事さえこなせばその未来は、約束された兵器としての不自由無い暮らし。しかし、その兵器の感情はほとんど欠落し、自我はない。つまり、人間としては扱ってはもらえないということだ。そこまでしてやる目的は弱まりきった国家権力完全復活。
全くもって興味がない。
そのため兵器となるはずだった自分たちで料理などはしたことなどはもちろん無い。施設内の本で得た知識だけが、俺達の持つ術である。
「動物狩りは俺がやるぜ。コリデールくらいいるだろ。ありがてぇ事にサイレント銃があるんだ。俺は弾丸作っとけばいいんじゃねぇか?いや、ナイフ位はできるな。」
まず、この島の生態系から知らねぇといけねぇがな、とシグマが言う。
「シナリオはしっかり俺が何ルートも練るとして、改めて、食事係筆頭とする身廻り担当の研究員の有難みに気づくな。まあ、その中には、毒入れてくる奴もいたがな。」
いざ食べようと思えば遠くの方から人が呻く声、近くでバタバタと倒れる子供。よく料理を見たら、ツンとする香り。わかりやすい(?)仕掛け。
「食事中もテストだったからね。食事というか、作業かな。それで、デルタ。今すぐのシナリオは何?」
脱出した後の初めの基盤だよね、と言うゼータ。確かに、ゴールと中途はかいつまんで言ったが、その他は話し合ってないな、まあ、
「今話してる通り、今日が終わるまでに、この場を再び人が住める場にする。明日からは、さっき話した本格的な活動だ。」
「あれれ、具体的には?」
見知らぬ土地で僕達のこと放棄?と笑うゼータ。
「言わなくてもそれくらいお前たちは出来るだろう。今何を話していたんだ。研究所の奴らがここに目をつけることは無いからといって。」
茶番やってる暇はないぞと付け加える。
「さっすが俺らのリーダーかっこいい〜!俺は明日から生きていくための地形把握〜。ついでに山菜採ってくるから。あ!いい所に紙と鉛筆が!」
完璧じゃん!と喜ぶファイ。島内把握は早いに越したことはないな。
「じゃあ、全ての家屋を見ておこうか。生活において必要なものは任せて。初めての僕達だけの家だから。掃除もしておくから。」
そこのバラバラになった椅子もね、と笑う。予定通り住居のことはゼータに任せるか。
「じゃあ、生活的に直ぐに必須なのは…水。あの様子じゃあ、ぜってー水通ってないだろ。水通すのは井戸とかの内構造見てから日数決める。今日は海水か川水で勘弁してくれ。魚は任せろ。あとは、草でも刈って道を作る。」
ああ、前住民の暮らしから学べるな。頼んだぞシグマ。じゃあ、俺は…
「おいお前たち。優秀なのはわかるが俺の仕事が残ってないじゃないか。」
「じゃあ、俺と一緒に地図作ろうよ!シナリオのためには実際に目で地形を見てた方がいいでしょ?」
それもそうだな。地形把握はこれからのシナリオに大事だからな。
「そうだな。それじゃあ、朝食の午前5時に集合だ。」
「「「了解」」」
数時間前の日常は、本当に消し去ったことが分かる。夜風が吹き、少し冷たさが際立つ夜中、何もかもが整っていないこの場所で、四人は動き出す。
彼らの望む終焉のシナリオのために。
................................................
ゼータside
「さて、どうしようか。まずは三件の家の全体把握かな。掃除は後でしますよ〜っと。」
3人が家から去った後、ゼータは各家へと上がった。埃まみれ、灯りはない。電気は通っていない、水は蛇口を捻っても出てこない。
「とりあえず…れんがは当たり前だけど、木製の方も腐ってなくて、まだまだ使える。2人で1つずつの家と倉庫でいいかな。蛇口捻っても水が出なかったから…海水しか頼みが無い場合だったらやだな。海水を飲用水にするための方式RO、MSF。まぁ、MSFを選択するしかないし。ただそれは、結構な大きさの穴とかがないと…。まぁ、川と井戸があれば万事解決なんだけど。うん、これはファイに聞こう。」
偶々見つけた蝋燭に、奇跡的に手に入れていたマッチで火をつけ、家を探索する。考えながら家を歩き回り、配置を確認する。何十年も前であろう住人の持ち物を探ると、思いの他必要品が揃っていた。まるで、まだそこに住んでいるがの如く。
「食器、服、布団、雑誌…。え、これもしかして釣り道具。ホコリで汚いけど、なんでもあり…。どうしてだろう。まるで夜逃げみたいな痕跡…こんなとこで?どちらかっていえば、夜逃げしてくる場所じゃない?」
浮かび上がる疑問。そして、最後の家に入った瞬間に直ぐにわかったその理由。もう何度も感じたことのあるこの香り、雰囲気。そういう事か…取り敢えずここは徹底して清掃しないといけないみたい。
予想通り木製家の2階の1角に、赤黒い染みが何層にも広がっていた。その家が倉庫になることが決定した瞬間だった。
ー
シグマside
来た道を戻りながら考えるシグマ。
人間に1番必要なのは水。先住民はどうやって水を確保していたのかが重要。蛇口はあったがあの感じ絶対出ねぇ。井戸でもあれば話は簡単なんだが…
あ、あったわ。
茂みに隠れている小さな井戸。
「山水をひいて井戸につながっているのか。うーわっ井戸、汚ぇな。まあ一応水はあるから、あとで掃除だな。…別場にも、水資源得る場所が欲しいな。後でファイにでも聞くか。」
外を探索するシグマは必須である水資源の入手法を探っていた。どれだけ自分たちが改造されていても人間に海水は合わない。そのため、必ず前住民が何らかの方法で真水に変えていたはず。井戸と予想していたところ正解であった。
「ここから、家まで遠いわけでもねぇな。むしろ近くて安心したぜ。まずは道と将来見て畑から作るか。主食は芋でいいだろ。野草はファイに頼んで…」
膝の高さまで生い茂る草。まずは井戸から家までの小道を作る。抜いた雑草は固め、開けた場に行く。無言でただひたすらにシグマは土地を整備する。正方形一辺7メートル程の範囲を。
「まずは十分だろ。後で家の周りの雑草、抜くか。なんか俺だけ力技じゃねぇーか。まあいいか。得意分野だ。魚とるか。」
ー
ファイとデルタside
「デルタ!見て!洞窟発見!」
島内地形把握のため、島中を歩き回るデルタと俺。あの開拓地以外は自然そのままで、標高差が酷い。まずは外枠から埋めたいから、海に沿って歩いていたなか、大きな洞窟を発見。
「おい、こっちには川があるぞ。流れが、ゼータたちのいる西方向だな、東側が標高は高い。この川、使える。」
川ってのはありがたいね。これは嬉しい。あと、一時的に料理場として火を起こしてもいい場所探さないと。無人島なだけあって標高差酷いし。施設から、この無人島に立ち上る煙なんて見えたら終わりだ。
「リーダー!俺この洞窟先入ってくる、冷蔵庫的役割を果たせる温度かどうか!かわいい弟を後で迎えに来てねお兄ちゃん!」
そうか、俺は川の上流から下流へ行ってくるぞ。とデルタが言い、別れた。お兄ちゃんのくだりは無視ですか!まあいいや、ゼータにいい報告がでっきるっかな〜。
ー
ゼータside
朝5時
シグマが魚をとってきてくれた。思いのほか沢山釣れたみたい。僕は少し山菜を集めた。でも、調理ができないことに気づいた。一大事。
「シグマ…、火どこで起こそうか…」
そう、なんてったって火を起こせないのだ。シグマがブリキのバケツに海水は汲んでいる。僕も魚を家にあった包丁でさばける(石で研いだ)ただ、火を起こす場所がない。家の中でするにも、囲炉裏みたいなのを作るまではお預け。煙が見えたら怪しまれる。煙気にせず、焼畑農業式にするにしても、それは土地を悪化させてしまうだけ。火が他の所へ移ってしまえば終わり。雑草の多さと風の絶妙なこの強さ。どうすればいいんだろう。地形を知らないって致命的だね。
「全体的にこの島は、どこも植物があるな。どこか、海岸以外の岩場があればいいんだが…この風で吹き飛ぶ。他はすまねぇが俺は見てねぇ。」
うん。しょうがないよ。こんな初歩的なことも考えれなかった僕の落ち度だから。デルタのシナリオに頼りすぎてたなあ。でも、どうしようか…。
「お困りですか〜?」
「どうせ火の起こす場所でも探しているのだろう?任せろ。見つけている。」
「ねぇ!それ、俺の功績!」
ナイスタイミングだよファイ。
「洞窟の奥程よく冷えていたから、冷蔵庫の代わりとしても一応使えそうだったよ。でもちょっと遠いかな。」
さすがファイ、気が利くね。遠くても大丈夫だよ。
「嬉しい、とっても助かる。じゃあ、そっちに移動しようか。今日から1週間はサラダと焼き魚とスープだからね。文句言ったら…食べさせないからね。デルタ。」
「いや、十分だろ。」
「やっと、安心してご飯食べれるから嬉しい!」
「なぜ名指しなんだ。」
不満そうなリーダー。
「僕達の中で誰よりも、美食に厳しいからね」
「それとこれとは関係ない。お前たちが作るなら食べるさ。」
「キャー!リーダーいけめっ「手伝え」はーい。」
4人だけの、小さな優しい世界。
嵐の前の静けさに幸せを感じても、バチは当たらないよね。
「ありがとう。」
だって、嵐を起こす時にはもう、幸せなんて感じる余裕はないだろうから。
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