「また会いに来たよ」~同じタイトルの短編集
芦苫うたり
第1話 召喚拒否
――こんにちは また会いに来ました。気は変わりませんか。
彼女の頭の中に直接聞こえて来る台詞。毎週一度は必ず訪れる、この声の主が また来た。返事をする気もしない。
「……」
ここは学校で、更に授業中でもある。このくだらないモノに関わっていたら貴重な一日を無駄にしてしまう。
――あの、聞こえてますよね……。
「うるさいわね! TPОを弁えなさい!」
小声で、怒鳴るという 非常に難しいい技術なのだが、これは この女生徒が、この
――は、はい。
午前の授業が終わり、昼食も済んでから校舎の屋上に向かう。彼女の目の前にいるのは、他の人間には見えない あからさまに怪しい風体の、ヒトではないものだ。
いつものように屋上には誰もいなかった。
結界を張った。と以前聞いたが、今の状況も同じなのだろう。
「で、何の用かしら」
――貴女は何故、いつもの通学路を通らなかったのですか。
「危ないと思ったからよ」
吐き捨てるように、彼女は当然の理由を言葉にする。
――そのせいで12人のヒトが死にました。
「言葉を間違えてるわ、『殺した』でしょ。それは 私には全く関係のない事だわ」
――いえ、あなたの……。
「そういう遣り方をすれば、私が お前達の言う事を聞くと思ったのなら、とんだ勘違いね。
殺したのは そっちで、私は何もしていない。当然、責任もないし、罪悪感も感じない。私に それを『自分の我儘のせい』だと感じさせる事は決して出来わ」
――しかし、貴女が私の言葉に従っていれば、彼等は死ななくて済みました。
「責任の すり替え、ごまかしね。
今ので、更に お前達が信用出来なくなったわ。さっさと消えなさい。そんな姿なんか二度と見たくないわ」
――また大勢が犠牲になりますよ。
「犠牲? 殺人の間違いでしょ、そちらが勝手にやっている」
――それが……。
「それなら さっさと答えを貰って来なさい。それ以外では交渉不可能よ」
――それは、ただ今 検討中との事です。
「じゃ、もうじき交渉決裂ね。期限は もう残り僅かしかないわ」
言うべき事は終わった、と屋上から去る女生徒を見つめるのは、黒いマントを纏った 背の高い痩せた男である。
彼女から発する強い意志により ソレは消失していく。
だが そんな存在にも使命があるのだ。何としても あの女生徒を連れて行かなければならないという。
少女の言葉通り、黒マントの男は 多くの、百人近いヒトを殺している。一見事故にしか見えないが、彼の干渉がなけれが起こらなかった事だ。
男は、ふと 彼女に対し、脅しのために起こした最初の殺傷事件の時に掛けられた言葉を思い出した。それは『ヒトの命を手段にするモノとは友好的に接する気はないわ』というもので、至極まともな判断だと彼自身も納得した。
そして警告されたのだ『もし私の関係者に手を掛けたら、お前の望みは叶えられる。但し、決して望む結果は出さない、出させない』と断言された。
それで、現在 嫌がらせのように、彼女には深く関わりのない、上記のような中途半端な人物達を殺している。
――どうすれば 来て貰えますか。私の出来る範囲の事なら何でも致します。
「何でも……ねぇ」
何やら不穏な雰囲気を感じ取り、男は念押しする。
――私の出来る範囲ですよ。
「じゃ、私の関係者を害しない限り、というか その意思が明確にならない限りね、私はそちらには行かない」
――えっ。
「実際に害するかどうかは、お前に命令を下したモノに確認すれば良いわ」
――それだけですか。
「決まったら実行する前に報告してね。決して実行しない事は忘れないで、約束は守るから」
――分かりました。
非常に呆気ない、この条件なら呑める。と、思ったソレは 次の言葉に愕然とした。
「それが決まった時点で『この命令に関わった者達を全員始末しなさい』殺すのではなく、消去ね。これが契約内容よ」
――そんな事……。
「出来なければ契約も出来ないわ。そうそう、この契約は お前が実行する事も忘れにように。それと、この内容は お前に命令して来たモノには報告してはいけない、判断が狂うからね。
期限は今から一週間、それを過ぎたら何があっても そちらには行かないから。
以上、ここまでが契約よ。それを確認したら、望みの場所に同行すすわ」
そして今 上司に報告し決断を待っている。
関係者の洗い出しも済んでいる。
彼の上司どころか、最高位のモノまで関わっている。行き先の住人も関係者に多く含まれている。
契約の合意があれば、それ等を全て『始末』する事になる。完全に消去すれば輪廻から外れ、宇宙に溶け込んでしまい再生は不可能だ。例え、それが神に近い高位生命体だろうが同様である。
■■■
「また会いに来たよ」
女生徒に声を掛けた男は実体化している。黒いマントは纏っているが、雰囲気が柔らかくなっている。
「契約は?」
期限切れは明日である。自身の未来が掛かっているの案件だ、確認するのは当然だろう。
「受理され、全て実行して来たよ。私には もう帰るべき場所がなくなった。君と同行したいが、構わないだろうか」
その言葉に、微笑みを浮かべて少女が答える。
「良いわ。一緒に行きましょう」
その日を境に、彼女の姿は地球上から消失した。
単なる女生徒の失踪事件と、数々の人身事故が続け様に起こっていた この街が急に穏やかになった事を、関連付けて考える事が出来る者は一人もいなかった。
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