夢売る自動販売機

羽羽 ジョージ

夢売る自動販売機

「夢売る自動販売機の噂を知ってるかい?」


街の外れにある小さな森

そこには夢を売ってくれるという自動販売機

があるそうだ。

しかしその自動販売機はいつでもあるわけではなくフクロウの鳴く夜にだけ現れるという。

そんな噂をよくお世話になっていた神社の神主さんに聞いた。


僕には子どもの頃から夢があった。

それは医者になるという夢だ。

僕は生まれつき体が弱かった。

何度も病院に通ったり、入院を繰り返してきた。

その中で僕より重い病気を持っている人や遠くへ旅立っていく人をたくさん見てきた。

自分のように体の弱い人、病気で苦しむ人達

に元気で自由な人生を送ってほしい、そんな想いから僕は医者になることを目指した。


僕はたくさん勉強をした。

寝ないで勉強をした日もあった。

全ては夢のため。

高校受験や大学受験の度に合格祈願をしてきた神社が噂を聞いた神主さんの神社だ。


でも僕はその夢を叶えられなかった。

大学受験の日、今までの無理のせいか倒れて病院に運ばれた。

夢破れた僕は自暴自棄になり退院した後も他の仕事をするわけでもなく毎日をだらだらと過ごしていた。

そんな時に聞いた噂。

このままではダメだと思い藁にもすがる思いで噂を信じ夜の街へと歩み出した。

なんでもいいから夢を、次の目標を売って貰うため。



街はとても暗い、夜だから当たり前なのだが。

暗がりの中恐る恐る街を歩きようやく街外れの森にたどり着いた。

でもそこには自動販売機どころか灯りの一つもない。

やはりフクロウが鳴かないと現れるないのだろうか。

しばらく待ってみるが鳴き声もなにもないなら諦めて帰ろうとしていたら微か何かの音が聞こえた。

「………………………~………………~」


音は小さくよく聞き取れない。


「…~…………………っ」


やはり聞き取れない。

その音を不思議に思っていると突然目の前に光が現れた。

それはどこかで見たことのある物だった。


直感的に僕は思った。

きっとこれが噂の夢売る自動販売機だと

聞き取れないこの音はフクロウの鳴き声で自動販売機が現れたのだと。


僕は光に手を伸ばした。

夢を売って貰うため。医者という夢に変わる夢を貰うため…



光が僕を包み込んだ




全部忘れていたんだ




僕は夢を諦めていなかった…

幼い頃からの夢だ、簡単に諦めきれる夢じゃない…

だから僕はここにいる

心のどこかでは分かっていたのかもしれない。

僕はもうこの世にはいない。

この音はフクロウの鳴き声なんかじゃない


大学受験のあの日僕の命はもう…



光に包まれ空へと登っていく

もう心を縛り付けるものはなく

晴れやかな気持ちだ。

僕の夢はない……そして命も

ありがとう…フクロウさん…お世話になりました…






ある街で噂があるという

街の外れ森でフクロウの鳴く夜に現れるという

夢売る自動販売機

それは夢叶わず命を失い

さまよい続ける魂の夢を買い取り成仏するもの。

なぜ自動販売機であるのか、フクロウの鳴く夜にしか現れないのかは誰も知らない。


そして今日もまた一人夢を売り旅立つ



夜の森でフクロウの鳴く声と共に…






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢売る自動販売機 羽羽 ジョージ @arfu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ